第81話 異空間倉庫
「よっしっ。金貨百枚確かに受け取った。取引成立だな。毎度ありぃ!」
「……どうも」
満面の笑みのスキル宝珠露店商と、敗北感溢れる私である。
「それでは使用方法や注意事項を教えてください」
「おう、聞いてからの返品は受付ないからな?」
「……はい。もう取引成立してますからね」
もう観念してるよ。だから早く教えろよ。
「そのスキルは異空間に物を出し入れ出来るんだがな。異空間に倉庫を作成する際にかなりの魔力を消費する。更に異空間倉庫に物を入れてる間、収納している容量に応じてずっと魔力を消費し続ける。異空間倉庫から物を取り出す際にも魔力を消費する。それぞれの消費魔力はかなりのもので、一般人レベルでは倉庫の作成も出来ないし、高レベルの冒険者でも異空間倉庫維持の魔力消費が馬鹿にならないから、常時使用は厳しい。要するに魔力消費の多さが問題なんだ」
「――ぃいいよっおおおおしっ!」
「……お……おお?」
「…………失礼しました。何でもありません。続きをお願いします」
いきなりガッツポーズと共に雄たけびを上げてしまった私に目を丸くする商人。
恥ずかしい真似をしてしまった……。
いやでもね、叫びたくもなるじゃん。
ワンチャン、罠の理由が魔力消費の問題だったとしたら、絶大な魔力量かつ『活性』によって魔力回復の早い私なら、実用レベルで使いこなせるかもしれないと思ったんだ。
その可能性に賭けて、罠だと、カモられてると、ぼったくられてると、分かっていながら、それでもこの異空間倉庫のスキルの宝珠を購入したのだ。
交渉には負けたが、賭けには勝った。
更に商人から注意事項を聞く。
異空間倉庫に物を入れたまま異空間倉庫を維持する魔力が尽きると、異空間倉庫に入れていた物は時空の彼方に消えてしまい、二度と取り出せなくなる。
それ以外は概ね私のイメージする『アイテムボックス』と同じである。
スキル保持者で倉庫共有なんて事も無い。
やはり魔力消費の大きさが問題で、Aランク冒険者クラスであっても、せいぜい小さい護衛依頼品を緊急的に異空間倉庫に隠す――といった感じに使う事がある位で、マジックバックの代わりには到底ならないそうだ。
常人ならね。
検証は必要だが、私からすれば金貨百枚以上の価値はあると思える。
最悪、掏られたり紛失する事のない財布程度としては使えるだろう。
流石に懐が寂しくなってきたので再生スキルの宝珠を売り、他にも一つ、スキルの宝珠を買った。
打撲拷問のスキルの宝珠である。
これは文字通り打撲による攻撃に限り、相手に最大の苦痛を与えるスキルである。
最大の苦痛を与えるものの、殺す事は無い、障害を残す事も無い、意識を奪う事も無い、といった延々と苦痛を与え続ける事が出来るという外道スキルである。
スキルを意識して殴る蹴るだけで簡単に使える。武器には適用されない。
ただし、使用する相手と隔絶した力の差が無いと効果を発揮しない。
これを購入したのは、所謂手加減スキル(そんなスキルが有るのか知らないけど)の代わりとして使えるかもしれないと思ったからだ。
意識を奪えればベストだったのだが、本来は拷問用のスキルなので仕方がない。
隔絶した力の差、と言うのがネックで実用的では無いとされているハズレスキルの宝珠だったが、私なら隔絶した力の差に関しては問題ないと思う。
これでむやみやたらに、相手を殺してしまう事は無くなるだろう。
つか、この露店には一般的にはハズレ宝珠しか無いじゃん。
まあ、所謂ハズレで無ければ此処まで流れてこないか。
購入した二つの宝珠は偽物でない事の確認も含め、その場で魔力を流してスキルを覚える。
感覚的にちゃんとスキルを獲得した事を感じる。
不器用な私にとって、この感覚的に分かるというのはありがたい。
宿を取り、部屋の中で早速検証である。
「では異空間倉庫、発動!」
何もない目の前の空間に手をかざし、そう口にしてスキルの発動を意識する。
魔力を消費するとはいえ、魔法スキルでは無いので詠唱は必要ないのだが、そういう気分である。
手始めに蜜柑の段ボール箱くらいの大きさでイメージして、異空間倉庫を作る。
かざした手の先には……何も無いが、魔力が凄く放出された感じはある。
魔力は何処へ……って異空間へか。
「ふむん、なるほど?」
これは確かに魔力消費が大きいな。生活魔法とは比べ物にならない程、消費した感覚がある。
だけど私にはまだまだ余裕ある。
そのまま倉庫を拡張出来そうだったので、更に魔力を注いでいく。
そして感覚的に二畳くらいの小部屋程の異空間倉庫を作成した所で止めておく。
「今はこれくらいにしておくか」
魔力にはまだまだ余裕があるが、倉庫の維持や物の出し入れにも魔力を使うらしいし、魔力が切れたら倉庫の中身は消滅してしまう。
現状、そこまで荷物が多いわけでもないし、今はこれくらいで十分過ぎる位だ。
試しに、木製のコップを収納しようとスキルを意識しながら思うと、コップがパッと消えた。
今度は取り出したいとスキルを意識しながら思うと、コップがパッと出てくる。
出し入れラクチン。魔力は確かに消費しているが私にとっては大したことは無いな。
念の為、今日は間違って消滅しても問題の無い物だけを異空間倉庫に入れる事にしよう。
そして沸騰させたお湯を入れた鍋を異空間倉庫に入れる。これは異空間倉庫の中に時間経過があるのかの確認である。
「後は明日確認だね」
そうして、その日は眠りについた。
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