第82話 ルンルン……とはいかない

「良いね~、良いね~」


 ルンルン気分で街道を走る。

 昨日一日、プルトの町で買い物と宿で異空間倉庫のスキルの検証を行って、今朝早くスレナグに向けて出発した所である。


 異空間倉庫の検証結果は素晴らしい内容だった。


 その結果の中でも特筆すべきなのが、異空間倉庫の中は時間経過が無い事だ。

 異空間には時間という概念が無いのだろう。これは大きい。

 異空間倉庫内では収納した物が、それぞれ干渉する事は無い事も分かった。

 例え容量ギリギリまで収納したとしても、うっかり倉庫内でごちゃ混ぜになったりする事はない様だ。

 他には、生物――おそらく厳密には魂のある存在は収納出来ない。

 植物はある意味生きていると言えるが、意志の源となる魂を持たない為、収納出来る。


 そしてこのスキルの最大の問題にして、ハズレ宝珠とされる理由である魔力消費の大きさに関してだが、私にとっては問題無し。

 異空間倉庫の大きさを、十畳の部屋くらいまで拡張したが平気。

 物を出し入れする度に、しかもその物が大きければ大きい程、魔力を消費するが、私には気にならないレベル。

 

 我ながらどんだけ魔力量が多いのか……それとも『活性』による魔力回復速度上昇の効果が凄いのか……。

 ともかく良く異世界転生系小説で出てくるチートスキル『アイテムボックス』と同じ感覚で使えるのだ。

 流石に大量の魔物を狩って、その魔物全てを収納しようとしたら限界が来るかもしれないが。

 まあ、そうなったらそうなった時だ。現状でも凄まじい便利さだ。

 それに私にはまだレベルが上がる余地があるしね。


 現在は一応、不自然でない様にと背負子に壊れても問題ない荷物を背負っている。

 それでもドデンと嵩張ってたベッドロールや、戦闘時以外では長くて邪魔な棍棒も異空間倉庫に入れてるので相当身軽になった。


 プルトの市場で食料も大量に買い込んで収納している。これなら野営でも大きいダンジョンであっても何日も滞在できそうだ。


 あ~、でも寝る時はどうすれば……。

 野営は実はした事が無いんだよね。一人旅だからね。

『誠実の盾』と野営しようとした事はあったが……あれはまあ、ノーカウントかな。

 私の頑丈さなら、寝てる間にうっかり狼に頭を齧られても平気そうではあるけど……肉体的には。


 とりあえず、寝てる間でも異空間倉庫に収納しておけば、襲撃はともかく荷物の盗難の心配は無いというのは大きい。

 実際に異世界を旅して、荷物管理の大変さが身に染みたからなぁ。

 私の馬鹿力で重さ自体は問題にならないのだけど、それでも嵩張るのだけはどうにもならず大変だった。

 前世日本とは比べ物にならない位に治安の悪い世界なので、盗難の心配も常に気になってた。

 それらが解消された。


 更にプルトの市場で大量に買い物したお陰で、商人から良い話を聞けた。

 プルトの町とスレナグの街の間の街道から、東に入った山の中にあると言うダンジョンの話だ。

 今までの私が攻略して来た小さいダンジョンと違って、推定数十階層は有るだろうと言われている大きい規模のダンジョンだ。

 大きいダンジョンなのだが、険しい山の麓にあるし街道からも結構距離がある。更にドロップが微妙で産業になる程でもない為、地理の悪さも相まって近くに拠点となる村も無く、不便で人気の無いダンジョンだそうだ。 


「でも、今の私には異空間倉庫があるからね~」


 そのダンジョンに行ってみようかな?

 先にスレナグに行って、武器を買う方が先かな?

 そんな事を考えながら、ルンルン気分で街道を走る。


「うん?」


 しばらく走ってると、ルンルン気分に水を差す気配……。


「おい、聞いた通りに来たぞ」

「しかも一人。賭けに勝ったな。世間知らずにも程があるぜ」

「小娘の頭や胴体には当てるなよ」

「無茶を言う……まあ、やってみるけどよ」


 街道の先、道が曲がる所の茂みの所から、こんな会話が聞こえて来る……賊の待ち伏せか。

 弓矢で私を狙う気か?


 飛び道具は横切る様な横移動する相手より、近づいたり遠ざかったりする様な縦移動する相手の方が当てやすい。

 曲がり道を曲がった所を、後ろから狙う気かな?

 中々良いポジショニングじゃないか……。


 さて、どうしますかね。


 ……正義感出すことも無いか……。

 面倒だ、振り切ろう。


 不自然にならない範囲の速度で走っていたが、速度を一気に上げて街道を爆走する。


「なっ!? 気づかれたか!?」

「は、早い! 逃がすな! 撃て!」


 苦し紛れに矢が一本飛んできたが、私の遥か後方にカランと落ちる。

 盗賊を無視してそのまま走り去る。

 しばらく爆走して撒いたなと思った所で速度を落とす。他の商隊なんかに遭遇しないとも限らないからね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る