第78話【閑話】他の転生者達7

「――っへ! そこそこ長い付き合いだったがよ。その付き合いもここまでだな。今回の獲物は分け合うにはちっと上物過ぎるんでね。悪いが俺達で独占させてもらうよ。……それにしても首を撥ねた時の感触……人間にしちゃ硬すぎだ。あの男の言う通り人間ではなく魔物だった訳か。殺して正解だったぜ」


 武装集団の頭目は地面に転がった魔王の憑依体の首を一瞥してそう言った後、我々を睨みつける。


「お前等、思った以上に強いみたいだが……撥ね飛ぶ首を見て青ざめる奴が多いのを見るに、修羅場慣れはしてないと見たぜ。それにさっきの魔法、そんなに連発は出来ねぇだろう?」


 武装集団の頭目が嘲笑気味に言う。

 奴の言う通りだ。見抜かれている。

 レベルの上がり切っていない我々では、先程の高レベルの魔法を連続で撃てない。

 この頭目、レベルやステータスの数値以上に強いのかもしれない。


「お前等! 女以外は殺せ! 女も腕や足位は仕方がねぇ! 一人も――」


 ――!


 そこまで武装集団の頭目が言った瞬間、頭目の首が撥ね飛ぶ。

 首の無くなった魔王の憑依体が背後から武装集団の頭目の首を手刀で撥ねたのだ。


「ほっほっほっ。こちらこそ申し訳ないのですが、今回の獲物は上物過ぎる様なので私が独占させて頂きますよ。あなた方との付き合いは情報収集にそれなりに便利でしたが、その付き合いもここまでですなぁ」


 その声は地面に転がったままの、魔王の憑依体の首から聞こえてくる。

 首の無い体がその首を拾って、そのまま首を元の位置に戻す。そして憑依体がこちらに振り向く。


「「「――ひっ!」」」

「「「きゃあああ!」」」


 首が撥ねられた際に髑髏の仮面が外れていた。

 仮面の下に隠されていた魔王の憑依体の素顔を見て仲間達が悲鳴を上げる。

 その顔は……左半分が男の顔、右半分が女の顔。目の焦点が合っていない悍ましいものだった。


「コ、コウ! な、なんなんだ!? あいつは!?」

「あ、あいつは……魔王だ! 魔王が憑依しているんだ!」

「「「魔王!?」」」


 仲間に相手が魔王だと伝える。

 仲間達は怯え、或いは絶望し慄く。

 しかし私の言葉に、魔王が意外な反応を見せた。


「言葉を慎め! 余は魔物の最上位の存在にして”妖魔”の王である”妖魔王”なり。魔石無しの”魔王”なんぞと同一視するでないわ!」


 口調が豹変し、怒気を含んだ言葉で語る魔王……いや、 妖魔王。

 妖魔王は魔王とは別物?


「……それにしても、私が魔物であると見抜くとは……あなたも祝福持ちですかな?」


 口調が元に戻り、目の焦点の合わない不気味な顔で、不敵な笑みを浮かべながら、我々に滲み寄って来る妖魔王の憑依体。


「と、とにかく逃げろぉ!」

「うわあああ!」

「助けて!」


 流石のリーダーもこれを見ては、切羽詰まった口調で仲間達に逃げる様に叫ぶ。

 皆で妖魔王の憑依体から、必死に距離を取ろうと逃げ出す。


 しかし逃げる我々の足元に、滑る様に何かの気配。


 ――影。


 足元から影の手が這い出て仲間達を拘束していく。私も影の手に足を掴まれ逃げる事が出来ない。


「「「きゃあああ!」」」

「くそっ! 《ライトアロー》」

「駄目だ! 光魔法が効かない!」

「《浄化》も効かない! だ、誰か!」

「か、体が影に沈む! い、いやぁあああ! た、助けてぇ!」

「ほっほっほっ。魔力強度が違いますので。しかし高位の光魔法の使い手もこんなに。優良な素材がこんなにも手に入るとは。いやはや……こうなると儀式用に生贄を大量に用意する必要がありますなぁ。嬉しい悲鳴という奴ですかなぁ。ほっほっほっ」


 そ、素材だと?

 素材にされたら……今の妖魔王の憑依体の様な……人と人を合成した様な体の一部にされてしまうのだろうか……。


 い、嫌だ!

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁあああ!


 なんとか脱出しようともがくが、体に影の手が絡みついていく。

 影の手が足から膝へと上がって来る。

 少しずつ体が影に沈んでいく。


「ひぃぃい!」

「お、俺達まで!」

「た、助けてくれぇ!」

「ほっほっほっ」


 妖魔王の憑依体は武装集団も影の手で捕えていく。

 仲間達と武装集団の悲鳴や怒号が辺りに響き渡る。

 私は仲間達を見回すが、誰も影の手の拘束を打ち破れない様子だ。


 ち、畜生!

 ……これまで……か。


 ならば、後は僅かな希望を……彼女に託そう。


「アイリさん。これを!」

「え?」


 予め、彼女に近寄っていた為、まだ動く上半身ですぐそばで影の手に捕らわれている彼女にとある紙束を手渡す。

 その紙束は錬金術スキル最大の仲間に作って貰っていたアイテムで、意識した情報を頭に思い浮かべながら魔力を流せば、その情報を紙に記載してくれるという物。

 その紙束には私が鑑定で見た妖魔王の憑依体の情報を記載してある。


「こ、これは?」

「この場を切り抜けられるのはアイリさんの祝福だけ。この情報を元に勇者聖女協会に助けを求めてくれ!」

「で、でも……わ、わた……わた……私だけ……」


 影の手が足元から這い上がって来る。

 意識が遠のいていく。


「早く! 意識を失えば……アイリさんだってどうなる……か……。あいつは隷属魔法だって……使えるんだ。全滅しては……元も子もない。……頼む!」

「――っ! ごめん……なさい。 必ず!」


 アイリさんの体が光り輝く。彼女の祝福の権能の一つに、条件は有れど転移能力が有る。転移出来るのは彼女自身だけだが。

 今のこの状況で、妖魔王から逃げられるのは彼女しかいない。

 

 ――パシュッ!


 光りに包まれたアイリさんの姿が消える。

 影の手に拘束されている状況で祝福が発動するのか、祝福の発動条件を満たせるのか心配だったが、どうやら転移出来た様だ。


 ……問題は彼女が何処に助けを求めるべきかだ。

 相手が魔王クラスとなれば、勇者聖女協会だろう。この世界にはそういった組織がある。

 だが、妖魔王の憑依先には権力者が多く、その権力者が認定した勇者や聖女にも妖魔王は憑依していた。迂闊に助けを求めたら……折角逃げた彼女も再び妖魔王の網に掛かってしまいかねない。

 アイリさんは聡い女性だ。情報を見ればその辺は理解してくれると良いのだが……。

 ……ただ、同時に彼女は他人を気遣う事の出来る女性……仲間を助ける為に焦ってしまう事も考えられる。


 ……そもそも、捕らえられた我々に、どれ程の時間の猶予が有るのか分からないがな……。


 影の手が上半身を覆い、やがてそれは顔を覆い始める。


 そして……私は意識を失った。

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