第77話【閑話】他の転生者達6

「抵抗する気か? 仕方ねぇな……お前等! エルフの女共はくれぐれも――」

「――少々お待ちを」

「あん?」


 武装集団の頭目が号令を掛けようとした時、魔王の憑依体がそれに待ったをかける。

 不思議な声だ。

 男の様な女の様な……中性的とは違う何処か不快で不自然さを感じる声。


「そこのあなた。私を随分と意識しておいでの様で。どこかでお会いしましたかな?」


 魔王の憑依体に話しかけられる。

 し、しまった!

 じっと見ていた上に、今の私の表情は……少なくとも冷静な表情では無いだろう。

 

「コウ? あいつがどうかしたのか?」


 リーダーが私に声を掛ける。

 ど、どうすれば……少なくともやばい相手だと言う事は伝えなくては。

 私はリーダーや他の仲間に”勝てそうに無い相手”というハンドサインを送る。


「――!」

「えっ!?」


 私のハンドサインを受けて仲間の皆が驚愕する。


「なんだい? あの男があんたの目的の光魔法の使い手かい? 男で良かったぜ。それならエルフの女共は俺達で全員貰うからな」


 武装集団の頭目が魔王の憑依体にそう言う。

 魔王の憑依体の目的はスキルレベルの高い光魔法使い。武装集団は女性陣が狙いか。

 

「皆! 逃げろ! お前等もだ! その黒いローブの奴の正体は魔物だぞ!」

「うぬ!?」


 一か八か。

 武装集団への攪乱も兼ねて、私はそう叫ぶ。

 武装集団は私の発言に、動揺とまではいかないが若干の困惑が見て取れる。


「後方突破だ! 殿は俺が務める! マサト! 頼む!」

「分かった!」


 リーダーが指示を飛ばし、マサトさんが魔王の憑依体の居る方向とは反対側の武装集団に斬り込む。

 マサトさんの体が光り輝く。彼の祝福が発動した様だ。

 前世では警察官だったマサトさんの祝福『正義』は、戦う相手が悪行系称号を持っていた場合、その称号に応じてマサトさんの能力が大幅にブーストされるというものだ。

 更にマサトさん自身は剣術スキルを最大にまで習得しており、武器はテツさんの作成した最高品質の剣だ。レベル的には劣るものの、祝福で身体能力を補い、最大スキルレベルの剣術で武装集団を蹴散らしていく。

 

「――な!? 強い!?」

「このっ! ――うがぁっ!」

「な、なんだ? この動きは!?」


 マサトさんの強さに浮足立つ武装集団。


「おやおや……今の輝き……祝福の力? ほっほっほっ。祝福持ちですか」


 しかし魔王の憑依体のセリフ……祝福持ちだと見抜かれた!?

 だが、後方の武装集団は崩れつつある。このままなんとか……。


「素晴らしい。祝福持ちまで居るとは。逃がす訳には参りません――ねっ!」


 魔王の憑依体が言葉の最後に語尾を強めた瞬間――全てが凍てついたかの様に体が動かなくなる。


 ――恐怖。


 私は何とか逃げなければと言う考えすら忘れ、ただひたすらに恐怖に呑まれていた。

 動けない。

 抗おうとすら思い至らない。


「《オール・キュア・マインド》」


 その声と共に光の粒子が我々を包み込む。

 すると潮が引く様に恐怖が薄れ、思考がクリアになる。

 仲間の精神系回復魔法だ。

 おそらく先程の恐慌状態は、魔王の憑依体が恐怖を植え付けるスキルを使ったのだろう。

 しかし祝福『不屈』を持つ仲間が不屈の権能の一つ『状態異常耐性』によって恐慌状態にならず、その仲間の回復魔法によって我々は恐怖から立ち直る事が出来た様だ。


「ほっほう! またしても祝福の力!」


 不快な声で魔王の憑依体が興奮気味で叫ぶ。

 くそ! 魔王の興味を更に引いてしまった。


「前方弾幕! 撃ち終えたら即座に後方に逃げろ!」


 リーダーが叫ぶ。

 先程の魔王の憑依体の使った恐怖を与えるスキルは前方広範囲に影響するスキルらしく、憑依体の横に居た武装集団の頭目や配下達は平気そうだが、我々の後方に居た武装集団は、巻き添えによって恐怖で動けなくなっている。後方の武装集団が動けなくなっているのを見て、一気に後方突破を図るつもりだ。

 良い判断だが、魔王の憑依体が簡単に逃げさせてくれるだろうか?

 髑髏の仮面で表情はうかがえないが、慌てる様子もなく余裕がありそうに見える。


 厳しいか。


 畜生……仕方がない。


 捕まらないのが最善だが、捕まった時の事を考えると……次善策を図っておくか。

 私は仲間の一人の女性に駆け寄りながら、鞄の中からとあるアイテムを取り出し魔力を流す。


「《メガスパーク》」

「《クリムゾンスフィア》」

「《シャインジャッジメント》」 


 ――ガガガガガ!


 仲間達の魔法が、魔王の憑依体目掛けて炸裂する。

 凄まじい閃光が辺りを照らし、熱波がここまで届いて来る。


 しかし、何か炸裂音がおかしい。


 魔法の弾幕が巻き上げた土煙の中から見えない壁の様な物が見える。見えないのに見えると言うのは、そこに壁の形状をした何かが有る様に煙が通っていないからだ。


「素晴らしい! いや実に素晴らしい! 高レベルの光魔法の使い手だけでなく、高レベルの火魔法や雷魔法。祝福持ちも多数いらっしゃる様で!」


 不可視の壁を形成していたのは、やはり魔王の憑依体。

 結界魔法だ。

 憑依体の前面に結界を展開している。


「ほっほっほっ。今日は実に素晴らしい日――」


 ――!


 魔王の憑依体が興奮気味に話している最中に突如、憑依体の首が撥ね飛ぶ。

 武装集団の頭目が背後から魔王の憑依体の首を撥ねたのだ。

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