第66話 大の苦手
アンデッド――冒険者の間で……いや、あらゆる人達から圧倒的不人気の魔物である。
理由としては沢山ある。
まず駐屯兵の言った通り、ドロップに碌な物が無い。
余程高位のアンデッドの頭蓋骨や高位のゴースト系の霊石なんかだと価値が出てくるが、このダンジョンでは出ない。
そしてランクの割に厄介。
魔物全体で見て、アンデッドはランクの割にステータスが高いという訳でなく、むしろ低い方なのだが、ゾンビやスケルトンは痛覚が無く、多少斬りつけようが叩こうが怯まず文字通り死兵となって襲ってくる。ゴーストだと実体が無く物理攻撃が効かない。聖水で清めた武器で戦うか、魔法や魔力纏いの武器等の魔力系攻撃でしか倒せない。
聖水に弱い等、弱点もはっきりしてるのでやり方次第では楽に倒せたりするが、毎回聖水で武器を清めてるとコストが嵩む。コストに見合った収益は見込めないのだ。
そして臭い。
言うまでも無く特にゾンビ。
ゾンビはハッキリ言ってランクの割に弱い。力や耐久性はともかく、動きがとても遅いので早さに関しての対応は容易い。
しかし凄まじい悪臭と、攻撃を受けても怯まず生者に喰らい付いて来る執念深さ。
勝てる勝てないの問題以前に、高ランク冒険者も戦いを避ける程に不人気魔物である。
聞いた所によるとそのダンジョンは、お勧め出来る要素が皆無なダンジョンらしい。
ルタの村のダンジョンは毒や腐食等の厄介さは有ったが、まだモノクロスパイダーの糸玉というお金になる物があった。
しかしこの町の近くのアンデッドダンジョンには、全くお金になる物が無いそうだ。期待できるのは魔石とダンジョンクリア報酬と稀に出る宝箱のみ。
う~む。
ゴーストは腐攻撃でなんとかなるだろう。あれは『腐属性』の魔力による攻撃だからね。
人気が無いのなら人目も無いだろうし。魔力纏いの棍棒で攻撃するという手もあるし、魔力纏いの練習になるかもしれない。
臭いのも私の高いPERなら耐えれるだろう。下水道の悪臭でも耐えれたし。
アンデッドはステータス的に高くなく、例外を除いて技量も高くはない。私が負ける要素は無いだろう……理論上は。
しかしなぁ……見た目がなぁ……特にゾンビ。
そこが最大の問題である。言い換えれば私の精神が持つかである。
私はゾンビが大の苦手である。
前世では結構ゲームをしていたが、リアルな描写のゾンビが出て来ると分かってるゲームは、どんなに高評価のゲームでも一切プレイしなかった。
洋ゲーのサバイバルゲームをプレイしていた際「これ、凄い面白い!」と楽しんでいたが、敵にゾンビが出て来た瞬間、二度とそのゲームをプレイしなくなる程に苦手だ。
だってさ……腐った死体が襲い掛かって来るんだよ? それが今度はリアルだよ?
きつそうだなぁ……やってみないと分からないかな……いや、流石にやってみなくても分かるわ。絶対精神的にきつい。
ボスもBランクとの事で、ルタの村のダンジョンと一緒だ。劇的なレベルアップは望めないだろう。
行く価値は無いか……?
正直、物凄く行きたくない。本当にゾンビは苦手なんだよ。マジ行きたくない。
逆に……だからこそ……行ってみるべきか?
アンデッドに慣れるという意味では……むしろ行くべきかもしれない……。
事前に経験しているのと、していないのとでは全然違う。私の様な無能には特に重要な事だ。
ゲームなら……ゾンビが出て来るゲームを一切プレイしなければ、ゾンビと遭遇する事はない。だけど冒険者を続けていくのなら……何時の日かゾンビと対峙してしまう日が来てしまうかもしれない。
ある日いきなり、何の心構えの無いまま、ゾンビに囲まれたら……勝てる勝てない以前に私は逃げてしまうだろう。
いや、逃げれるならまだマシで、もしゾンビに囲まれたまま気を失ったりしたら……私の頑丈さならゾンビに囲まれた状態で気絶しても死なないかもしれないが、それはそれで意識を取り戻した時にどうなってるか、考えるだけで恐ろしい。
そのダンジョンには、ゾンビが出ると分かっている。
分かっているから、心構えを持っていける。
……ここは……物凄く嫌だけど……体験しておくべきかもしれないな。
ルタの村の巨大ムカデにも、何だかんだで慣れたんだ。何事も経験である。
それと既に腐ってるゾンビに、腐らせる腐攻撃が通じるのかも試しておきたいかな?
そう考えたら人気の無いダンジョンというのは都合が良い。
「い、一応、場所聞いても良いですか?」
「え? 行くの? マジでお勧めしないよ?」
「アンデッド慣れする必要はあるかな……と思いまして」
「ああ、そういう事か」
Bランクのヘルビートルに勝てた私なら、クリア出来るだろう。精神が持てば。
一応報酬を楽しみに頑張ってみよう。精神が持てば。
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