第67話 その登場マジやめれ
そのダンジョンは、宿場町から数十分程歩いた場所にある。
平原のど真ん中に三メートル程の高さの岩がポツンとあり、岩が口を開けているかの様に穴があり、そこを覗くと地下に降りる階段がある。
何故か岩の周りには、草木が全く生えておらず、土は黒ずんでる。
心なしか、空気が冷たい気がする。
「雰囲気有るなぁ……」
霊感ゼロの私でも何か寒気がするよ。
いやまあ、このダンジョンにはゴーストが出るので、霊感ゼロであってもゴーストに遭遇してしまう訳だが。
さて、地下一階に出てくるのはFランクモンスター、ゾンビである。いきなりゾンビである。ドロップは髪の毛。無価値。
同じFランクのゴブリンと比べて、力と耐久力に優れるが動きが非常に遅く、ただ真っすぐ生者に襲い掛かるだけなので対処は簡単。逃げるのも簡単。弱い。
最大の問題は凄まじい悪臭と攻撃されても怯まない事。故にゴブリンよりも厄介とされている。
ゴブリンはゴブリンで子供の悪知恵レベルではあるが、連携や奇襲をする事もあるので、実際にはゾンビよりもゴブリンに殺される冒険者の方が多い。
それでも冒険者にとって、ゾンビはゴブリンよりも嫌われているのだ。
それは分かる。凄く分かる。
ドキドキしながらダンジョンの中へ。このダンジョンはルタの村のダンジョンと同じく洞窟タイプだった。
階段を降りて地下一階に降り立つ。辺りに腐臭が漂っている。
……これは居るね。
いやまあ、確実に居るのは分かっているんだけど……知ってて来たんだけど……なんかもう帰りたい。
「あ~やだやだ」
と言いつつも、重い足取りで進む。
これも経験だ。経験。
およそ六メートル四方の通路を進む。一階層の大きさはルタの村のダンジョンと同様だ。小規模ダンジョンの基準的大きさなのだろうか?
しばらく進むと小部屋が見えてくる。
うわ~、居るんだろうなぁ~。
遂にゾンビと遭遇かぁ。
嫌だなぁ。
ドキドキビクビクしながら小部屋を覗く。
「あれ? ……居ない?」
意外にも部屋の中には、何も居なかった。
腐臭は漂っているものの、ただ黒い土の地面が広がってるだけである。
「な、なんだ……私にビビってるのかな~、ハハハ」
残念な様な、それ以上にホッとした様な気持ちで部屋の中を進む。
――ん?
下の方からズズズズという音が……。
そして足元を見ると……。
地面からボコッと緑掛かった白い手が出てきて、私の足首をガシッと掴む。
そして更にその近くの地面から、眼球が無く髪の毛はまだらで口周りの肉が削げて歯がむき出しの顔がボコッと出てくる。
「ぞんっ――びゃあああああああああああああああ!!!!!」
即座に全身から全力腐攻撃発動。
私の周り一メートルに禍々しい腐属性のオーラを展開しオーラを撒き散らす。ゾンビは腐った体を更に腐らせ黒ずんでいく。
私の足首を掴んだゾンビは、膝のあたりまで這いあがってきたところで黒い塵となって消滅した。
「――っはーっはぁ――ひっ!」
息を突く間もなく周りの地面がボコボコボゴゴッと盛り上がり、ゾンビが大量に這い出てくる。囲まれる。
「「「「「「「ヴェエエエアア゛」」」」」」」
「ぴぎゃぁああああああああああああああ!」
再び全力腐攻撃。
腐のオーラを撒き散らしながら逃げ回る。やがてゾンビ達は腐った体を更に腐らせ、黒い塵となって全てのゾンビは消滅した。
「はあはあはあはあっひはっ――はひっひぃぃぃ」
――怖っ! ――怖っ! ――怖っ!!!
いやいやいやいや、何あの登場の仕方!
ゾンビが居るにしても、普通に通路や部屋の中をノソノソ歩いてるのかと思ったよ!
あの登場の仕方は反則だろ!
一歩間違えてたら、本当にゾンビに囲まれた状態で失神してたわ!
「きょ、今日はもう帰ろう」
ダンジョン入場からおよそ十分足らずにして、私は歯をカチカチ、膝をカクカクさせながら宿場町に逃げ帰った。
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