第64話 人として

「は?」

 

 相方が瞬殺されたのを見てもう片方の男は折れた指の痛みも忘れてるのか、棒立ちで目を丸くして硬直してる。

 その男に話しかける。


「質問、良いですかね?」

「――ひっ!? ……ひぃぃぃぃ!」


 男は踵を返し、慌てて馬に乗ろうとする。

 私は圧倒的SPDで追い抜き、男と馬との間に割り込む。


「答える気が無いのなら、お仲間同様の運命を辿って貰いますね」


 私に回り込まれた男は硬直し、涙を浮かべ、膝から崩れ落ち、失禁した。

 いや、漏らすなよ!


「どの辺りで私を見つけたのですかね?」

「…………あ……ひぃ……」

「……質問に答える気が無いのならお仲間同様、頭を――」

「お、丘の上から見てたんだ! ほ、本当に! う、嘘じゃない!」


 ふむ、そうなんだ。気が付かなかった。

 私は高いPERで高い五感&魔力感知を持っているけど、これはラノベでよく見る所謂『危険感知』やら『気配察知』だとかの様に、意識しなくても自動で知らせてくれるようなものでは無い。

 感知した情報を私が意識しないと、見逃してしまうんだよね。平原から丘陵に変わりゆく景色に気を取られてたかな?


「私が本当に吸血鬼だったら、どうするつもりだったんですか?」

「真昼間に吸血鬼が太陽の下を歩いてる訳が無いし、そうだとしても昼間なら弱体してるはずだから……」

「他に仲間はいますか?」

「あ~、えっと……あ~……俺達二人はこの付近の集落に住んでるんだ。俺達の集落は本当に貧しい農家ばかりでね。あ~、本当に……吸血鬼騒ぎが終息したのも知らなかったのは、本当に奥の方の集落だからに違いないよ。生活が苦しくて、本当にこんな事はしたくなかったんだけど、生きる為に仕方が無かったんだよ。本当に反省している。見逃してくれないか?」

「……」


 ……こいつ、今「本当に~」って何回言った?

 何気に私の質問に答えてないし、作ったストーリーぽいし。


「リーアムの兵装はどうやって手に入れたんですか?」

「こ、これはね! あれ、あれだよ本当に! ……そう、魔物に襲われて瀕死の巡回兵が俺達の集落に助けを求めて来たんだ。本当に必死に彼等を助けようとしたけど、力及ばず助けられなかったんだよ」

「……ふむん……では、この二頭の馬――おん?」


 私が馬の方を向いたタイミングで、私の腹部に何かが当たる。

 お腹には短剣が突き立てられていた。

 勿論、私に突き刺さる事無く、私には何の痛痒も無い。

 高いPERによる動体視力に高いSPDによる速度があっても、こういう意識外の攻撃には反応出来ないんだよね。

 それにしても……そう来るんだ……ふ~ん。


「――は?」


 剣が刺さらなくて戸惑う男。

 私は硬直した男の、短剣を握っている手首を掴み――グシャッと握り潰す。


「ぎゃあああああああ!」


 更に逃げられない様、ポキポキッと男の両足を折る。

 奇襲してくれた上にガチで殺しに来た以上、容赦しなくて良いなぁ。


「があああああああ――――ああっ……」

「さて、素直に答える気になりましたかね?」


 男は答えない。気絶してるや。

 今度から殺さず無力化するにはこれでいくか。

 無傷で……とはいかないのが難点だけどね。


 さて、どうしよう?

 こいつの言ってた内容は、ほぼ信用出来ないな。近くの集落の貧農だと言ってたけど、仮にそうだとしても完全に犯罪者だろう。

 この二人が巡回兵を殺して、兵装と馬を奪ったと考えた方が良さそうだ。


 ……うん?


 この二人程度で巡回兵を倒せるか?

 奇襲とか油断せておいて毒殺とかなら有り得るかな?

 そういえば仲間が居るかどうかの質問にハッキリ答えなっかたな。やっぱ他に仲間居るんじゃね?

 それに私を高く売れるみたいな発言もあったし、そういう裏の組織との繋がりもあるのかもしれない。


 あれ?

 これ、結構厄介な状況?


 まだ生きてるこいつを衛兵に突き出した結果、私がその組織からの報復の対象になったりしたら厄介だなぁ。

 面倒だな。まだ生きてるこいつも含めて二人共腐らせて消滅させるか。どうせ悪人だしね。



 ……。

 


 いかんいかん。考えが物騒になってる。

 流石に悪人とはいえ、邪魔だ、面倒だ、という理由だけで殺してたら、自分の心が悪魔に近寄ってしまいそうだ。

 リーアムの件で悪人ならだいぶ気楽に攻撃出来ると思ってしまったけど、まだ生きてる相手を面倒だからと殺す気で殺すのは……流石にね……。

 それにこいつ等が私を売ろうとした、という事は、人を売るタイプの盗賊だと言う事だ。

 この世界には隷属魔法や隷属の魔道具が有るお陰で、盗賊が襲撃した人を殺さずに捕えて違法奴隷として売る事も多いと聞く。強制的に服従させる方法が有るからね。

 つまり良くも悪くも盗賊に襲われたからと言って、殺される事は案外少ないらしい。

 こいつ等の着ている兵装の本来の持ち主も、殺されずに捕らえられているのかもしれない。もう売られてるかもしれないが。

 こいつ等を衛兵に突き出す事が、捕らえられた巡回兵の救出に繋がるかもしれないな。


 正直……面倒だけど仕方ないな。

 ここで見て見ぬ振りをするようでは、悪魔に寄ってしまう気がする。

 人として行動しよう。


 二頭の馬にそれぞれ気絶した男と、既に死んでいる男の遺体を括り付ける。

 馬の手綱を引くと……馬は付いて来る。

 良かった。私に馬術の心得は無いが、このまま馬を引っ張っていくことは出来そうだ。

 このまま今朝出発した宿場町に戻ろう。


 カッポ、カッポ。


 手綱を引きながら小走りで街道を戻る。

 夕方になる前に、出発した宿場町に戻って来れた。


「これはどういう事だ!」


 この宿場町はリーアム最北端の町であり、北方面の巡回兵の駐屯地がある。

 私が瀕死&死んでる巡回兵もどき二人を連れ帰って来たので、町は騒然となった。

 取り調べの為に駐屯地に連行され、駐屯地の一室で襲われた時の状況等を説明する。


「状況は分かった。だが君の言っている事が事実か確認する必要がある。確認が済むまでは牢に入ってもらうぞ」


 想定とは別の形で面倒な事になり……私は牢屋に入れられた。

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