第59話 雷光の吸血鬼

 豪華な鎧と盾を身に着けたカイゼル髭の立派な中年騎士が騎士団の先頭に立ち、白銀に輝く剣を高く掲げ、叫ぶ。


「吾輩はリーアム騎士団第二師団団長のリーゼンハイン・アーノルド・リッケハルト也! 刮目して見よ! 我が身を覆うは影魔法耐性が付与されし鎧。暗き影を照らす陽の鎧! 刮目して見よ! この手に構えるは闇魔法耐性が付与されし盾。漆黒の闇を払う光の盾! 悪しき吸血鬼はこのリーゼ――ッンッハーァアア!」


 長々と名乗りを上げてる途中で電撃を喰らい、パタリと倒れるリーゼンナントカさん。

 雷耐性は無い様だ。

 それと、剣を高く掲げるから……。


「か、雷魔法だとぉ!?」

「な、なんで吸血鬼が雷魔法を!?」

「話が違うぞ! バイル殿!」

「特異種なのか!? 猶更逃がすかぁ!」


 騎士団の中でバイルと呼ばれた一人だけ服装の違う人が、何かの粉袋をトオルさんの方へ投げつける。

 袋は粉を撒き散らしながらトオルさん足元に転がる。


「ガフッ! ゲフッ! ゴフッゴフッ!」


 トオルさんは涙と鼻水を垂れ流し、尋常でない程に咽ている。

 ニンニクの臭いがするし、粉末はニンニクの粉だったのだろう。


「よし! 今だ!」

「突撃ぃ!」


 騎士達が一斉に突っ込む。


「じゃああああああずるなああああああ!」


 涙と鼻水と涎を散らしながら、トオルさんが叫ぶ。

 魔力の高まりを感じる。


 ――その瞬間、辺りに閃光が走り、轟音が響く。


「――かっ……が」

「……あ」


 騎士達が全身を黒く焦がしながら倒れる。

 騎士達の間にバチバチと紫電の残滓が流れる。


「な!? かなりの高位の雷魔法!?」

「怯むな! 吸血鬼は一体。雷には指向性がある。広範囲には攻撃出来ない。囲め!」

「固まるな! 電撃が伝わるぞ!」


 トオルさんは転生者だ。この世界の普通の吸血鬼と違う。

 おそらくあの白い世界で、TPを使って雷魔法を取得したのだろう。

 更に反社会的種族のデメリットボーナスで得た大量のTPを使えば、雷魔法を最大レベルまで取得可能だ。INTも強化しているのかもしれない。


 それにしても、このままじゃマズイ。

 雷魔法の直撃を受けた騎士達のほとんどが倒れたまま動かない。生きているのか?

 生きていたとしてもこのまま追撃を喰らえば、流石に死んでしまうだろう。


「かっ――はっ――」


 雷魔法に撃たれた一人の女性騎士が鼻と耳から血を流し、痙攣しながら藻掻いている。

 トオルさんがその彼女の方を見ている?


 ――やばい!


 彼女が居る場所が日陰になってる!


「……血……血、血……うがああああ!」


 トオルさんが居た木の影に沈み込み、彼女の居る影から、トオルさんが飛び出す。

 影魔法的なもので影から影へ移動してる様だ。


 もう迷っていられない! させるか!

 本来ならトオルさんは、もう血を吸いたくないし人を殺したくないんだ。

 許せ!


 ダッシュでトオルさんに接近――からの――飛び蹴りぃ!


 ――スカッ!


 ぬな!?


 トオルさんを蹴り飛ばすつもりだったのに、蹴った箇所が霧となって空振り。

 私は勢いそのまま転がってしまう。


「不味い! 彼女を助けろ!」


 騎士や衛兵が助けに駆けつける。

 その時、辺りに広がる魔力。

 そして騎士や衛兵が身に着けている金属鎧の間に紫電が走った瞬間。


「――っ!」

「――あ――こっ……お……」


 轟音と共に雷光が走り、兵達が倒れる。

 特に装備の豪華な騎士達が酷く雷撃を喰らったようだ。

 吸血鬼対策で、装備を銀でコーティングでもしていたのか?

 銀はかなり電気を通しやすい金属だったはず。吸血鬼対策が仇となった形か。


「あ――あああああああああ!」


 そうこうしている間にトオルさんが女性騎士の首筋に噛み付き、女性騎士の悲鳴が上がる。


 うわっ、どうすれば!?

 さっきの霧化は蹴った箇所が、魔力の粒子になるのが見えた。魔力的な技能みたいだ。魔力的な攻撃なら通じるか?

 腐攻撃は使えないから、まだ慣れないけど魔力付与の棍棒なら……。


 ――って、棍棒を持ってきていない!

 こ、こうなったらその辺の木の棒でも……。


 適当に殴れる物を探して辺りを見ると、倒れた騎士の側に彼の使っていた剣が目に入る。

 聖水で清められているであろう白く輝く剣だ。

 これなら魔力を籠めなくても、トオルさんに当たるかもしれない。

 剣を手に取る。 


「ぐあああああああ!」


 絶叫に振り向くと、トオルさんが背中から白い煙を出しながら転がり回ってる。

 彼の背中には十字架が貼り付いてた。


「フハハハハハ! 苦しかろう!」


 騎士達と一緒に来た、一人服装の違う人が高笑いしている。ニンニクの袋を投げたバイルと呼ばれてた人だ。

 彼は金属鎧を着ていなかったので、比較的軽傷で済んだようだ。


「バ、バイル殿、今のは?」

「銀の十字架を銀の釘で打ち込んでやったんですよ! 流石に吸血の時くらい隙が大きくないと貼り付けるのは無理ですがね」

「バイル殿……まさか、血を吸う時を待ってたのか!?」

「彼女はまだ死んでませんよ。それにもし彼女が闇の眷属に落ちてた場合、私が責任を取って処理しますとも!」

「き、貴様!」

「吸血鬼はね! 逃がしてしまえば村や集落なんてあっという間に滅ぼされるんです! 騎士一人の犠牲で済むのであれば、それにこしたことはないでしょう!?」

「――くっ……これだから復讐に憑りつかれたヴァンパイアハンターという奴は……」


 ふらつきながらも立ち上がった騎士隊長ぽい人と、バイルという人が揉めてる。

 あの人がヴァンパイアハンターだったのか。

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