第58話 吸血鬼対衛兵達

 ――!


 こ、これは!

 この爆音は……もしかして……。

 しかも段々とこちらに近づいて来ている。


「ルーノちゃん? どうしたんだい? 固まって」

「街の方? ……うん? なんか街中の方が騒がしくないか?」

「おい! 煙が立ち昇ってるぞ!」

「あっ! 見ろ! 信号弾が上がった! 吸血鬼が出たんだ!」

「まだ日がある内に出やがったのか!?」


 もしかしてトオルさん、夜を待たずに正気を保てなくなった!?

 いやいや、まだこの騒ぎがトオルさんと決まったわけでは……。

 しかし街の方からは「吸血鬼だ!」と叫ぶ声が聞こえてくる。


 ――ふと、魔力の流れを感じる。

 

 魔力を感じた方に目を向ける。

 私達の居る共同墓地の周りには所々木が生えていて、大分傾むいた日差しが大きく長い影を作ってる。

 そして……その木の影の中から人影がスゥっと出て来る。

 トオルさんだ。

 トオルさんは虚ろな目で共同墓地の石碑を眺めている。

 

 あっさりここに辿り着けてる!?

 もしかしてヴァンパイアハンターの対策って夜間前提で、日のある内に吸血鬼が動くとは想定外だったとか?

 もしそうなら、夕方で影が大きくなる今が移動しやすかったのだろう。

 でもトオルさんの虚ろな目を見ると、計算して行動したとは思えない。

 たまたまか?


「影から人がっ!? 吸血鬼だ!」

「――なっ! 街ではなく何故此処に!?」


 衛兵達はトオルさんの出現に驚きつつも、即座に武器を抜き、衛兵の一人が何かの筒を上空に向け、魔力を流す。すると花火の様なものが上がる。

 これは信号弾?


「吸血鬼の狙いはルーノちゃんだ! ルーノちゃん! 日向に移動して!」

「え? は、はいっ」

「皆、援軍が来るまでルーノちゃんを守るぞ!」

「「「おうっ!」」」


 衛兵達は吸血鬼の狙いが、私だと判断したようだ。

 ま、まあ、そう思うよね。

 見た目だけとはいえ、この場で吸血鬼に狙われそうな乙女は私だけだ。

 実際には血が紫の私は、今の赤い血に飢えたトオルさんにとってアウトオブ眼中だと思うけど。


 ……いや、待てよ?

 血が目的なら街中の町娘なんかを狙いそうなものだ。

 僅かに理性が残ってて、それがここに来させたのか?

 別に今は暴れてないし……でも街で爆音はしてたし……今のトオルさんはどの程度、正気なのだろう?

 トオルさんは木の影から出て来たものの、影の中で立ち尽くしたまま共同墓地の石碑の方を見続けている。

 石碑にも影が有るのに何故そこで?

 エリさんの墓前で死ぬ気だったのでは……?


「喰らえ!」


 衛兵の一人がトオルさんに矢を放つ。

 鏃が銀製なのか聖水で清めてあるからか、白く光ってるように見える。


 ――ドッ!


「ぐがあああああぁぁぁああ!」


 矢はトオルさんの首に刺さり、トオルさんが苦悶の声をあげる。

 刺さった場所からシューと、白い煙のようなものが上がっている。やはり聖水で清めてあるのだろう。


「よしっ! 影の中から出られないようだな」

「畳みこむぞ!」

「ルーノちゃんは日向から絶対に出ないで!」


 衛兵達がトオルさんに殺到する。


「ああああああああ!」


 魔力がトオルさんの手に集まるのが見える。


「危ない! 魔法です!」


 思わず叫ぶ。


「――! 散開!」

「ぬぅ!?」


 トオルさんが腕を振る。

 振った腕から魔力波の様なものが飛び、辺りに閃光が走る。

 次の瞬間――電撃が辺りをほとばしる。

 強烈なオゾン臭が立ち込める。


 ちょ! トオルさん!?

 人は殺したくないのではないの!?

 攻撃されて、僅かに残った理性も吹き飛んだのか?


「ぬうおおお!」

「ば、馬鹿な!? 雷魔法だと!?」

「吸血鬼が雷魔法を使うなんて聞いてないぞ!」


 狙いが適当だったのと、私の警告で衛兵達が距離を取ったので、誰も直撃しなかったようだ。


「うがあああああああ!」


 トオルさんが叫けぶ。

 トオルさんを見ると体から煙を出しながら転がり回ってる。

 先程の自分の魔法で影を作っていた木を吹き飛ばしてしまい、日に当たってしまったようだ。

 トオルさんは体中から煙を出しながら近くの木の影に転がり込み、首に刺さった矢を抜いた。


「いたぞ! あそこだ!」


 見張り塔方面から応援の兵士達が駆けつけてくる。


「遂に姿を現したな! 吸血鬼めっ!」

「逃がすなっ!」


 更に騎士団と思われる、衛兵達より装備が豪華な一団が現れた。

 吸血鬼が吸血衝動を我慢出来なくなる頃合いとみてたせいか、動きが早い。


 ……私はどうすれば……。

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