第52話 知らなかった吸血鬼の特性

「ありがとうございます。助かりました」

「良いって事よ。ああいう奴等の誘いは碌なもんじゃないから聞いちゃ駄目だよ。まあ、言わなくても分かってるみたいだけどさ」

「全くだ。こんな良い子に対して何企んでんだか」

「はい。ですがしつこくて……お忙しいのにすみませんでした」

「良いよ良いよ! またこういう事があれば、何時でも頼ってくれて良いからね!」


 衛兵達にしつこく付きまとう男共を追い払ってもらった後「しばらく話に付き合わないかい?」と言われて、彼等と話しながら街を歩く。

 衛兵達と懇意な所を見せれば、先程の様な奴等も手を出しにくいだろう、との有難い配慮だ。

 衛兵達にも多少の下心はあるのかもしれないが、現状の彼等は本当に忙しいらしく、誘って来たとしても「この吸血鬼騒ぎが収まったら~」という時期がはっきりしない誘いなので、こちらも曖昧な返事で済むのだ。

 

「聖水の提供、改めてありがとうね。こういう状況だから幾らあっても足らなくてさ」

「昨日、提供してくれたのってダンジョン産なんだろ? ダンジョン産のは教会で作る量産品より強力だからな」


 ルタの村のアンナさんもそんな事を言ってたな。聖水にも性能差が有るんだね。

 教会で作る聖水もピンキリらしいが、ダンジョン産は少なくとも、一般的に出回る聖水よりは強力な傾向にあるらしい。


「聖水って何に使うんですか?」

「色々だけど、大半は俺達衛兵や騎士従士が使う武器に振り掛けてるね。聖水で清めた武器なら、例え霧化した吸血鬼にも有効な攻撃になるんだ。霧化した吸血鬼に普通の物理攻撃は効かないからね」

「聖水の質にもよるけど、効果が持続するのがおよそ一日なのが難点だね。だけど何時吸血鬼が現れるか分からないからね」

「何時現れるか分からない吸血鬼を警戒するのって大変ですね。お疲れ様です」

「それが俺達の仕事だからね。でもそろそろ吸血鬼も限界だと思われるんだ。近いうちに現れるとは思うんだが」

「そろそろ限界?」

「吸血鬼が最後に血を吸ったのが確認されたのはもう十日以上前。それから新たな犠牲者も出てないし、そろそろ吸血衝動を抑えられない頃合いなんだよ」


 なるほどね。

 因みに衛兵達が吸血鬼の事に詳しいのは、領主が今回の吸血鬼騒動の為に招聘したヴァンパイアハンターの知識だそうだ。

 その後も吸血鬼の事について色々教えて貰って、宿の前で衛兵達と別れた。


 教えて貰った吸血鬼情報の概要としては……。


 吸血鬼がこの街に来たのは、およそ半月前。

 妻だという女性を連れており、二人ともお揃いの薄茶色のフード付きローブ姿だったそうだ。吸血鬼は現在もこのローブ姿と思われる。

 夫婦二人で冒険者登録をして、この街でしばらくは普通に働いていた。

 しかし三日程経った新月の夜、夫婦二人の宿泊してる宿の部屋から、女性の苦しそうな呻き声が聞こえてきた。

 そこで宿の主人と通報によって駆け付けた衛兵達で部屋の中に押し入った所、血を吸われてぐったりしている女性と、その首筋に噛み付いている吸血鬼が居た。

 吸血鬼は蝙蝠に変化して窓から逃げた。

 女性は失血過多で既に死亡していた。

 宿の主人によって、逃げた吸血鬼と被害者の女性は、その部屋に宿泊していた夫婦で間違いないと証言された。

 吸血鬼は地形を把握していなかったのか、流れる水の上を渡れない吸血鬼の特性によって南側の川を渡れずに用水路辺りをウロウロしている所を衛兵達に発見され、今度は霧化して逃走した。

 その時には既に唯一川の無い北門方面にはニンニクや聖水を撒いていたので、吸血鬼はこの街から出られなくなっている。

 吸血鬼の閉じ込めに成功したので、領主の命により、吸血鬼討伐まで人の出入りを制限。一般人の夜間の外出及び訪問を禁止。吸血鬼は招かれていない家屋に侵入出来ないらしい。

 蝙蝠化や霧化の能力を持っているので、今回の吸血鬼は少なくとも中級以上の吸血鬼である。下級は蝙蝠化や霧化出来ないらしい。

 しかし中級以上の吸血鬼は狡猾かつ慎重なはずなのに、今回の吸血鬼はあっさり吸血現場を見られていたり、逃げ場を失っていたりとお粗末な所が多い。


 といった感じである。


 ……うーん。


 実は私、吸血鬼に”流れる水の上を渡れない”だとか”招かれていない家屋に入れない”という特性がある事を知らなかったんだよね。

 十字架が駄目で、ニンニクの匂いが苦手で、太陽の光を浴びると燃えて、鏡に映らない。この辺は大体誰でも知ってると思う。知らない方が珍しいだろう。

 だけど”流れる水の上を渡れない”ってのは、前世の日本人で知らない人もそれなりに居るのではないかな? 少なくとも私は知らなかったよ。


 さて、今回の逃走中の吸血鬼は、渡れない川の近くをウロウロしてたそうだ。

 ……もしかして……その吸血鬼は、私同様に吸血鬼が川を渡れない事を知らなかった……とか?

 それに、その吸血鬼と被害者女性がリーアムの街に来たのがおよそ半月前。私がこの世界に転生してきた時と同じ時期だ。

 更に薄茶色のフード付きローブ。私も転生時、同じ様なローブを着てたなぁ。あのローブは転生者皆に最初に支給されるローブなのかもしれない。


 もしかしたら……その吸血鬼と犠牲者女性って転生者じゃね?

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