第51話 仕事が無い

 それにしても、本来ギルドに人の少ないはずの昼間に来たのに人が多いなぁ。街の外に出れないから皆、暇なのかな?

 依頼を張り出してある掲示板を見ても碌な仕事が無い。

 これでは何の為にルタの村から出てきたのか分かんないや。

 まあ、私がうっかり起こしてしまった爆発事件から逃げてきたのもあるんだけどさ……。

 

 現在、私の冒険者ランクは最低のGランク。

 常設依頼以外は街中の簡単な仕事しか出来ない。

 常設依頼定番のゴブリン駆除と薬草採取は、街の外に出れない現状では不可能。

 街中の仕事で私が出来そうなのが水汲み。

 丘の上にあるこの街では、丘の下の用水路まで降りて水を桶に汲んで持って上がるという仕事が有る。なんなら生活魔法でいくらでも水が出せる私なら余裕……だと思ったのだけど、現在、物流や人の流れが滞ってるこの街では、土木工事や荷運びの人達が余ってて、そういった仕事は奪い合いの様相を呈してるのである。


「今晩の飯代も無いんだ。頼むっ! 俺に仕事をくれぇ!」

「このままじゃ借金奴隷からの鉱山送りコースなんだぁああ!」


 こんな感じで必死で切実な人達に混じって、仕事を取り合う気にはならない。

 私には糸玉貯金が有るしね。


 他に街中の初心者用の仕事に配達が有るんだけど、そういった仕事はこの街や周辺の集落出身の身元がしっかりしてる人か、依頼を沢山こなして信頼を得てる人にしか回ってこない。

 普通に考えたら持ち逃げされるリスクがあるのだから、氏素性の知れない冒険者登録したばかりの人に、大事な荷物や手紙を預けたりしない訳だ。

 この街出身の人とパーティーを組めれば話は別だけどね。

 さっき地元若手パーティーからのありがたいお誘いもあったが、申し訳ないけど私はパーティーを組む気は無い。というか組めない。私にはバレちゃいけない秘密が多すぎる。


 仕方なくギルド職員に私向けの仕事を紹介して貰おうとすると……。


「ルーノさんに是非紹介したい仕事があります!」


 と、猛烈に勧められるのが、宿屋、酒場、食堂等の給仕である。

 ハッキリ言って嫌である。

 絶対酔っ払いに絡まれるよね?

 そういうの、どうやってあしらえば良いのか分かんないよ。

 それに宿屋の給仕の仕事って、連れ込み宿じゃないよね?


「客を取るかどうかは選べるみたいですよ」


 選択肢があるという事は、そういう宿って事じゃん!

 余程追い詰められない限り、給仕の仕事はやらない。

 街中の普通の掃除の仕事も奪い合い状態だし……私に出来そうな仕事で残ってるのは……。


「これかぁ」


 地下下水道の清掃である。

 臭い暗い汚いと不人気の依頼である。

 更に日が当たらない地下なので、吸血鬼が潜んでそうだしね。

 といっても、この世界の吸血鬼は流れる水の上は渡れないらしいから、下水の流れる場所に潜んでる可能性は無いと言われてる。


 う~ん、少し考えてからにするか。

 とりあえず今は……。


「へっへっへっ。嬢ちゃん、仕事探してるのなら稼げる仕事紹介するぜ。付いてきなよ」

「なあ、ちょっと付き合いなよ。天国へ連れてってやんよ」


 こいつ等から逃げよう。

 今が丁度良いタイミングだ。


「その気はありません。失礼します」

「おい、待て!」


 立ち去ろうとする私の肩を男は掴もうとするが、すばやく躱してギルドから出る。

 ギルドを出ても、何人か追いかけてくるが……。


「こんにちは。昨日はありがとうございました」

「お、ルーノちゃん。こんにちは。ギルドで仕事探しかい?」


 昨日、街に入る時に付き添ってくれた衛兵達に挨拶。

 唸るPERのお陰で、彼等が丁度ギルド前を通りかかるのを察知出来たのだ。


「うん? なんだお前等?」

「あ、いや、別に……」

「この方達は先程から私に、稼げる仕事だの天国へ連れてってやるだのと言って、何度断っても、何度も誘ってきてまして」

「「「なにぃ!?」」」

「「「や、やべぇ!」」」


 私の後を付けてきたしつこい男達は、衛兵達に睨まれて退散していく。

 昨日、聖水を提供した事で、衛兵達は私に好意的なのだよ。


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