第50話 儚き幻想
おーのー。
衛兵達の歓迎ムードに流されるままに、吸血鬼の潜むデンジャーな街に連れ込まれてしまった。
いやまあ、ちやほやされる経験なんて前世では無かったので、私も良い気になってたのはあるけどね……衛兵の責任にするのはお門違いかな。
実際、衛兵がギルドやお勧めの宿まで案内してくれたのは助かった。
吸血鬼の外見上の特徴として”色白”と”赤目”と”美形”があって、私は思いっきりその特徴に一致するのだ。厳密には私の目の色は髪と同じピンクなのだが、見方によっては赤く見えない事も無い。
吸血鬼騒ぎで皆がピリピリしてる中、見慣れない色白赤目美形が一人でウロウロしてたら碌な事にならなかっただろう。衛兵が付き添ってくれたお陰で、ギルドでの冒険者証発行がスムーズに行えたし、宿も不気味がられずに取れた。感謝である。
……でもやっぱり「今、この街に入るのはお勧めしない。一度入ったら中々出れない」くらい言って欲しかったよ。
ところで唐突だけど……この世界、思ったより美人美少女が居ない。
……この言い方だと、この世界に失礼になっちゃうな……私が期待し過ぎてた、という方が正しいかな。
なにしろ剣と魔法のファンタジーの世界に転生してきたのである。
異世界ナーロッパである。
宿屋や酒場、商店には美少女の看板娘が当然のように居て、冒険者ギルドには美人受付嬢がズラリと並び、美人美少女冒険者が溢れてる……そんな風に思っていた。
前世で異世界系小説を読んでても、美人美少女が出てこない異世界なんて、ほぼほぼ無い。
しかし実際は、この世界ではそんな事ないのだ。
前世の日本の様に化粧品やスキンケア品なんて無いから、女性達は肌が荒れてるし、髪はぼさぼさ。貴族レベルだと分からないけど。
流石にギルドの受付嬢達は多少手入れしている様に見えるけど、それでも前世の日本の女性達とは比較にならない。前世おっさんで女性のお手入れの事などさっぱりのド素人の私でも違いが分かる程なのだ。
女性冒険者とか髪も肌も洗い晒しで、スキンケアなんてしてないだろうしね。つか洗ってるのか? って人もいるし。
……と、ここで気が付いた。
私、この世界に来てから半月の間に、一回も髪も体も洗ってないや。
いやいやいやいや、私は謎の自動再生浄化能力のお陰で何時も綺麗だからね!
……大丈夫だよね?
臭ってたりしてないよね?
自分が爆心地だから、実は自覚出来てないだけとかないよね?
ま、まあ、大丈夫なはずだ。
ホント勝手に身体、ついでに身体に触れている服も汚れが落ちて自動的に綺麗になるんだ。体はベタつかないし、潤い成分も再生されてるのか、髪も肌も常につやつやすべすべである。
話が逸れたけど、そういうのを含めたら、この世界は前世より美女美少女が少なく感じるのだ。
因みに私はまだ見た事ないけどエルフは本当に美形らしい。転生の時の種族情報でも美形って書いてあったしね。
吸血鬼も美形種族らしいし、私の悪魔も美形種族なのかな? 不老の表記が強烈だったので他が目に入らなかったってのもあるけど、悪魔の種族情報、時間無くてほとんど見れなかったんだよね。
美形種族を含めたら、前世よりも平均的には美形は多いのかもしれない。
ただ素材としてはであって、この世界の栄養事情や美容概念の無さによって、この世界は前世日本よりも美人偏差値的なモノが著しく劣っていると思われる。
ルタの村では村レベルだから美人美少女が居なくても仕方が無い……と思ってたけど、それなりの規模の街であるリーアムでも美人美少女が溢れてるなんて事は無かった。
残念ながら美人美少女に溢れた異世界なんて幻想だったのだ。
……と、まあ……。
何故、こんな話を唐突に言い出したかというと……。
私の美貌、世間一般レベルから隔絶してる。
「ルーノ、君の様な子がソロだと吸血鬼に狙われて危険だ。僕達のパーティーに入れてあげよう」
「我が『黄金野の守り人』はこの街にパーティーハウスが有るんだ。パーティーメンバーが常に誰かいるから安心だよ」
「なあ、俺達も冒険者になったばかりなんだ。一緒に頑張らないか? この街出身の俺達と一緒なら街中の配達の仕事とか回ってくるからさ」
めっちゃアプローチされまくる。
何気に私に配慮してる部分や利点が有るだけに断り辛い。
「光栄に思いたまえ。私のハーレムメンバーに加わる栄誉を与えよう!」
「奢るからさっ! 飲みに行こう」
「いくら?」
うぜぇ……。
先程に比べたら論外だから、キッパリ断るけどね。
つかハーレムパーティー作ってる奴、何気にそこそこ居るみたいだ。
レベルやステータスのある世界だからか、それなりに女性冒険者は居るんだよね。それでも三割無いくらいかな。
男女複数人混合パーティーだと色恋沙汰でトラブル発生しそうだから、いっそハーレムパーティーの方が問題は少ないのだろう。
「攫おう」
「いや、今攫ってもこの街から出るの難しいから」
なんかこんな会話も聞こえてくるし。
「この街トップ冒険者のライエルだ。私の奴隷にならないか? 二年契約で仕事は冒険者の手伝い。性行為を強要しない」
こんな人も出て来た。
前世の感覚ではとんでもない事を言っている様に聞こえるが、異世界常識によると実は結構まともな厚意。
この世界では身寄りの無くなった少年少女が、自身を奴隷として身売りするのはよくある事。奴隷制度はこの世界のセフティーネットとしての側面もある。
隷属、契約魔法やそういった魔道具があるこの世界では、前世の奴隷と違って奴隷は契約が終わるまで逃げ出せない。主人も契約外の事を強要できないし、衣食住を保証する義務が発生する。違法奴隷は別だが。
なので奴隷という身分とはいえ、冒険者としての仕事を覚えれるし、性行為の強要も無いのだから、中々に良い条件を出してくれていると言える。
私が悪魔という爆弾種族でなければ、一考の価値はあっただろう。
今、私はギルドに来ているのだが、この様な感じで口説かれまくり状態である。
皆、顔しか見てねえな。中身は冴えないおっさんなのに。
流石にちやほやされてちょっと嬉しい……なんて範疇を超えている。
現在、このリーアムの街では領主の命令で、フードを被ったり仮面を付けたりして、顔を隠す事が禁じられているので素顔を晒すしかないのだ。
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