第49話 オワタ?

「貴様は本当に人族なのかと聞いている。人とは思えぬ美貌に白い肌、赤みの掛かった目。耳は普通だからエルフには見えぬな」

「あ……え、えっと……色白なのは体質みたいで……」


 マズイマズイマズイ!

 なんか怪しまれてる!?

 いや、怪しまれてるとかいう段階じゃないぞ、これ!

 バレてるの!?

 悪魔だってバレてるの!?


「衛兵長の言う通り、怖い程色白だな」

「外から来たという事は眷属か?」

「――くそっ! あんな可愛い子を!」


 衛兵達が私を取り囲み、槍を向けてくる。


 ――あ、これ詰んだ?


 衛兵長の目を見る。

 親の仇を見るような、凄まじい殺意を感じる。


 こ、この目は……し、知ってるんだ……私が悪魔だという事を!


「貴様が人間だというのなら……あそこの日に当たってみろ! フードは被るなよ!」

「…………はい?」

 

 今、私達が居る場所は北門なので南からの日差しからは影になっているのだが、衛兵長が指さした方に目を向けると、少し日が傾いて西日が照ってる場所が有る。


 日に当たれば……良いの?

 とりあえず、言われたとおりにフードを脱いだまま日に当たる。


「……」

「……」


 別に何も起きない。

 沈黙が場を支配する。

 

「……違ったみたいだな」

「目の色だって赤いと言うより、ピンクじゃないか?」

「まだ分からんぞ。下級や眷属だと特性が弱いらしい。だからこそある程度日光を我慢出来ると聞いた事が有る。目の色も特性が弱いだけかもしれん。一応赤系統だしな」

 

 衛兵達の呟きが聞こえてくる。

 あ~、これってもしかして……。


「おい、あれを」

「はっ!」


 未だ険しい顔で私を睨む衛兵長が、近くの衛兵に指示する。

 衛兵が近くの机を持ってきて、その上に何かを置き距離を取る。


「これを近くで嗅いでみろ」

「え? はい」


 机の上にはお皿が有り、中身は……すり下ろしたニンニクである。

 ていうか、さっきからこの一帯に香る匂いはなんだろうと思ってたら、ニンニクの匂いだったのか。


 ……なんかもう……流石に察しの悪い私でも察したわ……。


 ニンニクに顔を近づける。当然、臭いだけでなんともない。


「これでよろしいでしょうか?」

「……」


 微妙な空気が流れる。

 衛兵長もなんともいえない顔をしてる。

 

「……一応、あれを」

「はい」


 再び衛兵長が何かを受け取り、机の上に置く。


「これを素手で持ってみろ」

「あ、はい」


 机の上に置かれたのは……十字架である。

 うん、これはもう完璧に吸血鬼だと疑われてるんだね。

 そういや転生する時に、選べる種族に吸血鬼があったな。

 この世界には吸血鬼が居るんだよね。


 十字架は……嫌な感じはしないし大丈夫かな?

 

「これでよろしいでしょうか?」

「……う、うむ」


 十字架を素手で手に取り、持っているのを衛兵長に見せる。


「銀の十字架を普通に持ってるな」

「下級や眷属だったら、我慢すれば持てるものなのか?」

「持つ事を我慢出来ても、持ってる手が火傷して手から煙が出るはずだ。それに先程からずっと日差しの中に居ても平気そうだ。日光に耐性があっても少しは辛そうにするはずだし」


 衛兵達の呟きが聞こえてくる。

 何事かと衛兵だけでなく集落の人達も集まって見ていたが、これまでのやり取りを見て興味をなくして去っていく。


「聖水はどうします?」

「……いや、もういいだろう」


 衛兵と衛兵長のヒソヒソ話を聞き取る。

 おう……この後には聖水が控えてたのか。

 聖水はワンチャン何かダメージでもあったかもしれん。危なかった。

 いや、銀の十字架で何も起きないのだから、聖水も大丈夫かな?

 別に私はアンデッドという訳じゃないしね。


「あ~、嬢ちゃん。疑ってすまなかったな。問題無しだ」

「いえいえ、何事かとビックリしましたけど、事情はなんとなく分かりました。吸血鬼が出たんですか?」

「その通りだ。ルタの村から来たと言ってたな。あの村はまだ吸血鬼騒ぎを知らないのか?」

「はい。リーアムからの定期便が遅い事が話題になってましたが……吸血鬼騒ぎが原因だったんですね」

「現在、街から出る人員をかなり制限してるからな。まあ、良いか。このクソ忙しい時に木材を大量に持って来られても敵わんからな」


 ……良いのかよ。

 でもまあ、衛兵達を見ると、皆一様に慣れない状況に疲れてるように見える。


 彼等の話を聞くと、半月程前に吸血鬼が街中に出て、宿に泊まってた旅の女性が一人犠牲になったそうだ。宿では吸血鬼を取り逃がしたが、すぐに北門を封鎖し聖水やニンニクを撒く事によって、吸血鬼が北門から街の外に逃げるのを阻止。

 吸血鬼は川等の流れる水の上を渡れない為、北門以外の三方向を川で囲まれたリーアムの街中に現在も潜んでいると思われる。

 吸血鬼は逃がすと、知らぬ間に村や集落の人々を全て眷属化したりと大事になる為、なんとしても逃がさず討伐したいそうだ。領主の指示で吸血鬼が街から逃げない様、街から出る人物は入念な審査が行われており、簡単には出る事が出来ない状態。なので付近の村や集落からの物資は、街の市場でなく門外で衛兵達が取引しているらしい。

 衛兵達は慣れない物資取引に、何時現るか分からない吸血鬼を警戒しての巡回を休み無しで行ってる状態。


 なるほど、衛兵達も大変だ。


 聖水が足りてないと聞いたので、ダンジョンで手に入れてしまった聖水を提供すると凄く感謝された。

 こちらとしてもありがたい。何時、背中の背負い袋の中で割れて、自分に掛かるかと思うと怖かったんだよね。神様が実在するこの世界で聖水を捨てるなんて罰当たりなことも出来ないし。まあ、十字架が大丈夫だったから聖水もそこまで怖がる必要は無いとは思うけど、どちらにしても教会には行きたくないしね。

 ……なんて事を思ってる事をおくびにも出さず「頑張ってる衛兵の皆様のお役に立てれば」と笑顔で殊勝な事を言ってみる。

 するとデレデレ状態になった衛兵達が、わざわざ街中の冒険者ギルドやお勧めの宿への案内に付いて来てくれた。どうやら衛兵達にとって私は”仕事に理解のある性格の良い天使の様な美少女”と認定されたらしい。

 中身おっさんで身体は悪魔だぞ?

 つかあんた等、クソ忙しいんじゃないんかい。


 こうして私は衛兵達にちやほや歓迎されながら、リーアムの街に入った。




 吸血鬼が潜み、一度入ったら吸血鬼問題が解決するまで、出たくても出れない恐怖の街の中に。




 ――いや、これ!

 入っちゃ駄目なヤツじゃん!

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