第45話 尋問

 捕らえた『誠実の盾』の生き残った男に尋問する。


〇『誠実の盾』について。


 彼等は実は違法奴隷を扱う犯罪組織のメンバー。といっても実行部隊ではなく、主に情報収集が任務。組織の中で見た目が悪人ぽくないメンバーで構成され、女性から情報を引き出す役として女も一人配属。

 表向きは護衛や村々への配達任務を真面目に努め、冒険者ギルドの信頼を獲得しつつ、裏で商隊の情報や『あの村娘は昼過ぎに薬草詰みに森の近くへ行く』といった情報を実行部隊に伝える。

 彼等自身は怪しまれない為にも、ギルドの信用を積み重ねる為にも、実際に人攫いを実行する事はほぼ無い……特定の状況でもなければ。

 今回の私の場合、その特定の状況により、実行する事にしたらしい。

 というのも、彼等も私もギルドで護衛や配達の依頼を受けていないし、護衛の契約も臨時パーティー登録もしていないので記録に残らない。そして彼等から見て、私は特に拠点をハッキリと決めてない冒険者の為、実行犯グループに情報を渡しても、決行する前に、私が何処かへ移動してしまう可能性があった。

 また、私が明らかに世間知らずな上に奴隷として極上品の為、他の悪人に目を付けられて先を越される懸念もあった。更に、私が家出貴族令嬢の可能性が高い為、貴族が出てくる前に他国へ連れ去りたかった。

 そういった状況の為に、今回は多少のリスクを負ってでも、彼等で人攫いを実行したそうだ。

 誠実なる盾という意味ではなく、誠実という名を盾に悪事を働くパーティーだったのかよ。

 えげつないなぁ。

 人攫いにとって私はそんなに美味しそうに見えるのか……。


〇私が家出貴族令嬢だと、頑なに思う訳は?


 明らかに世間知らず。

 明らかに生臭い事に慣れてない。

 手や肌が綺麗過ぎる。

 髪が手入れされ過ぎている。

 貴族は騎士等の部下に予め魔物を弱らせておいて、止めを自分が刺す事によって、ある程度まで安全にレベルを上げる……所謂パワーレベリングをしている家もそれなりある。私が不自然に身体能力が高く技能が低いのは、貴族家出身で、パワーレベリングをしているとしか考えられなかった。


 パワーレベリングがあるんだ。

 まあそれをやっても技量が伴わないし、レベル上げにも限界はあるらしいが……他人事じゃないや。技量も磨かないとなぁ。

 手肌や髪に関しては、謎の再生浄化能力のお陰だと思う。

 潤い成分なんかも再生されてるのか、常にお肌すべすべ、髪は艶やかフワフワなんだよね。特に手入れはしていない。というか、再生浄化能力によって勝手に手入れされている、という状態だろうか。


〇『隷属の首輪』について。


 強制的に言う事を聞かせる為の魔道具。

 隷属させたい相手の首に装着して魔力を流すと、以後魔力を流した”主人”の『命令』により行動を強制出来るようになる。

 隷属した者は主人を害する行動が出来なくなる。

 基本的に人攫いを実行する事は滅多に無い為『誠実の盾』に契約魔法を使えるメンバーは居ない。

 本当は人気のない場所まで来たら私を拘束するつもりだったが、想像以上に私が強かったので抵抗されて私が傷物になったりしない様、寝静まった頃に『隷属の首輪』を付けることにした。

 しかし今回、効果が無かった理由はよく分からない。

 無理やり引き千切った時の自爆機能は起動したので、偽物だったという事でもない。


 効果が無かった理由は、おそらく私のVITやMNDによる状態異常耐性が、首輪の強制力を上回ってたんだと思う。


〇魔装服って冒険者の皆さんは着てないの? 専用化したのとか。


 トップクラスの冒険者が専用化した魔装服を鎧下にしてる、というのは聞いた事がある。普通はそんな高級品、損傷前提の冒険活動で着るわけがない。


 魔装服を着て戦うのは、無くは無いけど相当珍しいらしい。

 イリーナさん、張り切りすぎですよ。


 ここまでは普通の聞き取り。

 さて、ここからは普通なら聞けない事を聞いちゃおう。

 

「さっきからチラチラ見てるから気が付いてるみたいですけど、こんな風に自動修復する服って聞いたことあります?」


『隷属の首輪』を無理やり引き千切った時の爆発で吹き飛んだ魔装服の襟の一部は、尋問中に再生して今では綺麗に元に戻っている。


「……聞いた事は無い。なんで勝手に直ってるんだ? アーティファクトなのか? あ、いや……再生能力を持ってる魔物素材を使えば可能なのか?」


 うーむ、やっぱり自動的に再生するこの魔装服は異常か……。

 一応、いざとなればアーティファクトだと誤魔化せるかもしれない。


「先程、お仲間二人を腐らせた、私の能力について何か知ってますか?」

「……あ、あれって腐らせてたのか? ……初めて見る能力だった。コープスビーなんかの腐食に似ているとは思うが……侵食速度や威力が違い過ぎる」

「腐適性について知ってますか?」

「……は? 火適性なんかの腐食版なのか? あれは腐食魔法とかだったのか?」

「聞いてるのは私です」

「し、知らない、聞いた事も無い」


 ふむん……聞いた事も無いレベルか。

 異世界常識はあくまで一般人の常識。冒険者基準の常識でなら、もしかして知ってるかもと思ったけど、やっぱ悪魔固有レア適性なんだろうね。


「……悪魔って知ってます?」

「悪魔? 悪魔憑きとかの?」

「種族としての悪魔ですね。紫色の血の種族とか、切断された腕が元通りに生えてきたりする種族とか能力を知りませんか?」

「……紫色の血? 腕が生える? な、何の話だ?」

「質問してるのは私です。種族としての悪魔を知ってますか?」

「えっと……種族としての悪魔というのは知らない。神話なんかの物語で『神の敵対者』として登場してるから名前は知ってるが、実在するのかは知らん。強力な知性のある魔物を悪魔と呼んだりする事も有るらしい。他には教会が悪魔憑きのお祓いをしているが、あれは気狂いか、悪霊の類か、呪いだと俺は認識してる」

「……なるほど、では紫色の血をした人種って居ないですかね?」

「紫色の血の人種なんて聞いた事も無い」

「再生能力を持った人種は?」

「トロル等の魔物の中には再生能力を持つ奴がいるが、魔物以外では知らない」


 ふむん……これも知らないか。

 こいつが本当の事を言ってるとは限らないが……惚けてる様には見えないな。

 私以外に悪魔って居ないのかな? 


 ……う~ん、他に聞くことあったかな。

 こんなものか……な。


「……な、なあ。今聞いた事やあんたの事は誰にも言わない。人攫いからも足を洗う。この国からも出ていくよ。だ、だから殺さないでくれ!」


 黙り込んだ私を見て、男が焦った様子で命乞いしてくる。

 まあ、さっきの会話、訳が分からないなりに、なんとなく聞いちゃいけない類の事ぽいのは察しが付いたんだろうね。

 実際、私も口封じに殺すしかないと思ってた訳だし、だからこそ普通の人に聞けないような事も聞いてみたりした訳だしね。


 さて、どうしますかねぇ……。

 確かに口封じに殺すしかないと思ってたんだよね。

 

 先程の彼の発言までは。


 先程の彼の命乞いにより”私からではなく相手の方から助命の条件を提示し、頼み込んできた”状況になった。

 特に狙った訳でも誘導した訳でも無いけど、これはある意味都合が良い展開になった。特に私にとって必須の”私の情報を漏らさない”的な内容が含まれてるのが良い。


 ……アレを使えば、殺さなくても済むかな?


 男の頭の上に自分の手を置く。

 男は怯えてビクッとする。


「それでは契約内容の確認です。あなたは『ここ数日の出来事や私の情報を他人に漏らさない、人攫い等の犯罪行為を今後行わない、この国から速やかに出ていく』以上の事を遵守する。その対価にこの場での助命を要望する。これで間違いないですか?」

「間違いない! だから頼む! 殺さないでくれ!」


 少し解釈を詰めてみたが”発動”に問題は無いようだ。

 確かに「誰にも言わない」と言ってはいたけど、言葉でなく手紙等の文字で伝えられたら困るしね。


「もし契約を違えた場合、魂を捧げる事を誓いますか?」

「は? ……魂?」

「誓えなければ契約出来ません。この場であなたをお仲間同様に腐らせて殺します」

「ち、誓う! 誓います!」

「契約成立です」

 

 条件は満たされた。

 悪魔である私の固有能力『魂』の権能の一つ……。


《魂契約》発動!

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