第35話 事件後

 爆発事件から三日経った。


 その間毎日、ダンジョンに潜って金策とレベル上げ、空いた時間で魔力纏いや魔力制御の練習である。

 棍棒の素振りも始めた。

 蜂と戦ってる時に思ったのだが、私の身体能力は凄まじく、スピードと動体視力はかなり高い。それにもかかわらず、蜂に中々攻撃を当てられないのは、棍棒を振り慣れていないからだと思ったからだ。

 前世でも、普段から野球をしない人が、フワッと投げられたボールにバットを当てられない事が有るのと同じだと思う。バットを振るスピードが充分で、ボールを目で捉えられていても、普段からバットを振っていないと中々当てられない。センスのある人ならすぐ出来るのかもしれないが、私は不器用だからね。


 ゴブリンを人に見立て、対人慣れしようとした計画は頓挫してる。

 村の付近から、ゴブリンが居なくなってしまったのだ。

 私の起こした爆発によって、ゴブリンがこの付近から逃げてしまったのかもしれない。

 そして村での話のネタが爆発事件から、街への定期便に変わりつつあるこのタイミングで、私はギルドで職員のアンナさんにこの村を出て街へ行く考えである事を伝えた。

 本当は居心地の良いこの村にしばらく滞在しても良かったんだけど、爆発事件を起こしてしまったからなぁ。

 村に何も被害が無かった為、騒ぎは沈静化しつつあるが、どうもギルドが教会の人に爆発の調査を依頼するらしい(ギルド職員のヒソヒソ話を聞いた)ので、その前にこの村を去るのだ。

 村で定期便の馬車が来る時期の話が出始めたので、丁度良いので定期便の馬車に乗って街へ行くつもりである。


「そう、定期便の馬車でリーアムへ行くのね。ここだと既定の仕事数達成は難しいし、ランク上がらないから仕方ないわね」

「はい、それに糸玉もこのままだと供給過多になってしまうかなと」

「それは無いわ。材料が有れば有るだけ服を作る人が居るから」

「……あのお店、よくお金が持ちますね」

「イリーナはこの辺りでは有名な魔裁縫士なのよ。お金は持ってるわよ」


 因みにリーアムとは、定期便の行き先の街の名前。イリーナさんとは、私を着せ替え人形の刑に処した、服飾店の店長である。

 イリーナさんは本来は王都で店を構えてるって言ってたし、結構儲かってるのか。今は故郷であるこの村に戻ってるとか言ってたな。

 

 一応、冒険者ランク上げを村を出る建前上の理由としているが、実際にランクを上げてギルドにお金を預けられる様にしたい。

 モノクロスパイダーの糸玉で、金貨百枚以上は稼がせてもらった。日本円にして一千万円以上の大金である。持ち歩くのも怖い。

 ここでランク上げしようにも、この村周辺ではゴブリンが居なくなった事で依頼数が稼ぐのが更に難しくなってしまったのだ。自業自得なんだけど。


 薬草採取?

 想像以上に難しいんだよね。ゴブリン探すついでに探してみたけど、あまり見つけれない。

 種類が多いし、必要なのが葉だったり根っこだったり、そもそも根も葉も丸ごとである必要が有ったり。

 道具も色々必要だし、採取した薬草の保存方法も様々。

 初心者でも出来る草むしりぽい作業のイメージがあったけど、そんな事はなかった。草を引っこ抜いて袋に詰め込むだけ、なんて訳では無いのだ。

 薬草採取で稼ぐなら一箇所を拠点にして、じっくりと採取できる薬草の種類や場所を覚えながら取り組むくらいでないと、食べていける程には稼げないのだ。


「Dランクのモノクロスパイダーをソロで狩れるルーノちゃんなら、戦闘面ではCランク相当よ。既定の依頼数をこなしてEランクまで上がれば後は早いと思うわ。頑張ってね」

「はい!」


 一般的に魔物のランクは、同じランクの冒険者三、四人程度で倒せる事が基準らしい。

 例えばCランクの魔物一匹に対しては、Cランク冒険者三、四人で安定して倒せると言われてる。勿論、編成や魔物との相性もあるので一概に言えないが。

 Dランクの魔物であるモノクロスパイダーをソロで狩ってる私は、Cランク位の実力はあるだろうという事だ。

 本当はBランクの魔物であるヘルビートルをソロで倒せるのだから、Aランク相当……おそらくそれ以上に私は強いと思うけどね。それは内緒だ。

 冒険者ランクがBに上がる際に、王都や領都といった大きな街のギルドで試験を行うのだけど、その時に鑑定系の魔道具による審査が有るらしいのだ。

 悪魔である私は鑑定されるわけにはいかない。

 冒険者ランクはCで抑えておきたいのだ。


「街なら教会もあるから、この間の聖水も寄進出来るわよ」

「は、はい」


 いや、私悪魔なんで教会に近寄りたくないんすよ。

 あの聖水、他に何か使い道ないかなぁ……ホント。


「旅の準備はしっかりとね」

「はい!」


 雑貨屋のおじさんに色々相談して、背負子やベッドロールとか雨除けのマントなんかは既に準備している。

 雑貨屋のおじさんの、うんちく話は非常にありがたかった。

 

「それとイリーナがルーノちゃんの服が完成したって言ってたわ。この後、イリーナの店に顔出してあげてね」

「は……………………い?」

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