第34話 爆発

 翌朝。


 当面の目標としていた、ダンジョン攻略を達成してしまった。

 勿論、レベル上げ及びお金稼ぎの為に、今後も一日一回ダンジョンに潜るのを日課とするつもりである。

 とはいえ、モノクロスパイダー狩りも慣れたし、地下五階の巨大ムカデこと髑髏百足の数は少なく、ボスのヘルビートルに関しては、クリアした私ではもう戦えない。

 半日で日課はこなせる。


 余った時間をどうするか……。

 冒険者をする以上、解体を覚えるとか色々やる事はあるけど、やはり優先したいのは冒険者ランク上げだ。

 Eランクになれば、ギルドにお金を預けたり出来るらしい。


 ……ただなぁ……冒険者ランク上げの依頼数稼ぎがこの村では厳しいんだよね。

 依頼がほとんどないんだよね。

 それでもこの村で依頼数を稼ぐなら、常設依頼の薬草採取かゴブリン駆除になる。


 ……ゴブリンか。


 ふむ……やるべき事が残ってたな。

 ゴブリンには二度敗走したままだった。

 それに人型の魔物に慣れる必要もある。

 ちょっと怖いけど、これは優先すべき案件だろう。


 やれば出来るんだ!

 よし、ゴブリンにリベンジだ! 


 という訳で、怖いけど正門から村を出る。

 ここ最近はダンジョンに通じる裏門ばかり使ってたから久しぶりな感覚だ。

 実際には数日しか経ってないんだけどね。


 さて、ゴブリンを探そう。

 そうは言っても、いざ探すと中々見つからないもんなんだよね。こういうのって。

 探しても見つからなければ、それは残念だけど仕方のない事である。


 ……と思ったら、残念ながら……もとい、幸運にも懐かしのゴブリンの臭いを嗅ぎつけてしまう。


 もう見つけちまった……村から出てまだ五分程。

 私の鼻が利くにしても早過ぎるよ!

 なんでこんな村のすぐ近くに居るんだよ!

 いやまあ、だから村レベルでも塀で囲ってあるのか。


 待てよ? 

 この臭いは確かにゴブリンの臭いだが、ゴブリン本体ではなくゴブリンの持ち物……例えば腰布とかだったりするかも。

 村から近すぎるもんね。

 血の臭いもするし、他の冒険者が倒して捨てた腰布なんかの可能性は高いと見た。

 確認してみよう。

 それでゴブリン本体でなければラッキー……違った……残念ながらまた探さないとね。


 しかし幸運にも近づくにつれ、私の高いPERが「グギャギャ」「ギャッギャ」という声を拾ってしまう。

 うん、バッチリ本体が居ますね。しかも複数。


 木に隠れ、ゴブリン達の様子をうかがう。

 かなりの距離が有るけど、高いPERで様子はうかがえる。

 ゴブリンの数は五体。多いってのよ。

 兎ぽい小動物を、ぐちゃぐちゃと奪い合うように食べている。

 血の臭いはこれだったのか。


 ククククク……。

 ゴブリン共よ。それが貴様らの最後の晩餐だ。今は朝だけど。

 今宵の棍棒はよく斬れる。朝だし斬れないけど。

 武者震いで膝がカクカクしてきたぜ!


 ……はい、ウザイですね。


 すみません、正直ビビってます。

 自らゴブリンと戦いに来ておいて情けないが、実際ゴブリンを見ると……いや、ゴブリンと戦う事を想像するだけで怖くなってきた。


 勿論、今の私ならゴブリンが何匹と束になって来ようが、負けようが無いことは分かっている。わざと攻撃を喰らったとしてもノーダメージだろう。

 だけどやはり人型……相手が人を連想させるというのは、巨大ムカデなんかとはまた違ったプレッシャーだ。巨大ムカデも怖かったけど、あれは明らかに人外の化け物だ。感情の有無が見て取れるゴブリンとはそこが違う。

 殺されるのは怖いが人を殺すのも怖い。基本的に私は人が怖いのだ。

 別に私はコンビニ店員すら怖くて、店で買い物も出来ないレベルの対人恐怖症という訳では無いが、人に対して何かしら攻撃的な行動をする時に凄くプレッシャーを感じるのだ。

 前世でも他人に注意する時、もの凄く緊張した。

 口の中がカラカラに乾いて声が震え気味になる。別に殺される訳でも無いし、自分の方が正しいと思っていても委縮してしまう。

 前世の例で言えば、周りの人達の支持を集めて了承を得て、これから注意する相手と口論になったとしても勝てると確信していてもだ。

 ……まあ結局、あの時は実際に注意した後、注意した相手にこじ付け粗捜しだけで飽き足らず捏造レベルの言い掛りで苛烈に反撃されたあげく、支持を取り付けたはずの周りの人達にバッチリ梯子を外されたんだけどね。


 ……うむ、あの件は今でも思い出したら腸が煮えくり返る。


 私が無能故に、厳しい言動を取られるのは自分に原因があるからと納得できるが、あの一件は厳しさによるものでは無く、悪意による酷い仕打ちだった。立場の弱い者に厄介事を押し付け、泣き寝入りさせる為の悪意による出来事だった。


 ……なんか怒りが沸いてきた。

 丁度いい……この怒り、ゴブリン達に受け止めて貰おう。


 あの一番手前のゴブリンが、捏造話で私に言い掛りを付けた挙句「火の無い所に噂は立たない」を連呼して何時の間にかお互い様、そして何時の間にか私の方が悪い、みたいに話を好き勝手組み立ててくれた、被害者面した加害者。

 残りのゴブリンは、私を鉄砲玉にし、私も鉄砲玉にされるのを警戒して様々な言質を取ったにも関わらず、いざ実行して揉めたら「揉め事は他所でやってくれ」「そんなに言うなら証拠を出せ」等と梯子を外し、ボイスレコーダーで本当に証拠を出したら、異常者扱いからの会社からの追い出しを喰らわせてくれた、あの梯子外し共だ。


 奴等の顔を思い浮べ、前世の理不尽に対する怒りを攻撃する殺意とする。

 正直、よろしくない事だとは思うが、私が一線を越えるにはこれくらいしなければ。


 この世界には人攫いや盗賊が居る。

 見た目だけなら、私は人攫いにとって極上品だろう。

 何時か、そういった悪人と対峙する日が来ないとは考え難い。

 これはいざという時、人を攻撃出来るようになる為の練習だ。試練だ。

 実力では圧倒的に勝っていたはずなのに、二度ゴブリンに敗走したのは、私に殺意が足りなかったからだ。

 攻撃しなければ勝てやしないのだ。

 

 意を決してゴブリンを睨む。

 巨大ムカデの時の様に、最初の一匹を倒せば吹っ切れるはずだ。

 まずは最初の一匹に、魔力も籠めて思いっきり棍棒を叩き込む。

 棍棒は壊れるだろうが、これは必要な投資だ。

 荷物を大きな木の陰に置き、棍棒を握りしめる。


 いくぞ。

 いくぞっ。

 いくぞっ!


「――っぅうううううあああああ!」


 叫びながら、我武者羅にゴブリンに突っ込む。

 驚愕するゴブリンの顔が見える。


 ――!?


 やはり虫と違って、表情が有るというのが人を連想させる。


 ――躊躇うな!

 撃ち抜け!

 あいつは、あの被害者面する加害者野郎だ!


 おのれ自分を正当化する為に好き勝手私を悪役になる様に話を捏造しまくりやがってその捏造話の中に一部真実を混ぜて全否定出来なくしてから「グダグダ煩い! こんなの零か百かだろうが!」とか言い出して部分否定を拒絶するやり方が悪質過ぎるんだよこの卑怯者が相手に泣き寝入りして貰わなければ自分では何もけじめを付けれない強がってるだけの弱虫がぁああああ!


「天誅ぅぅぅぅぅぅぅ!」


 魔力を思いっきり籠め、破裂寸前の輝きを放つ棍棒をゴブリンの脳天に力一杯叩き付ける。





 その日、ルタの村の近くの森で”謎”の大爆発が起きた。





「ルーノ! 大丈夫か!? さっきの爆発の近くに居たのか? 何があったんだ!?」

「あ、あの、あの……離れてたので……爆発はよく分からないですけど……ビックリして帰ってきました」

「そ、そうなのか? ま、まあ、無事で良かったよ」


 勿論、爆発は私のせいである。


 村の門には沢山の人が集まっていた。

 何事だと大騒ぎである。

 そりゃ、あの大爆発だもんな。私もビックリしたよ。


 爆発跡にはクレーターが出来た。

 攻撃が直撃したゴブリンは勿論、近くに居た他のゴブリンも余波で消し飛んだ。

 流石の私も中々に痛かった。すぐ再生して痛みも治まったが。

 着ていた服も跡形もなく吹き飛び、木の陰に置いていた荷物も吹き飛んで一部回収出来なかった。それでもお金の大半が回収出来たのは助かった。

 ダンジョンの近くに予備の服を隠していたから、それを取りに行って服を着てから村に戻って来たのだ。


 初のゴブリン討伐成功……よりもこの爆発騒ぎどうしよう、という考えで頭が一杯である。

 といっても、良い誤魔化しは全く思い浮かばない。


 ギルドで色々尋問されたが「よく分からない」で押し通した。

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