第33話 期待のダンジョンクリア報酬

 粉々になったヘルビートルの遺骸が、ダンジョンに吸収されていく。

 手に持っていた角も消える。


「あ~」


 この角が残れば、良い感じに棍棒の代わりになりそうだったのになぁ。

 それにしてもBランクの魔物に対しても、想像以上に楽勝だったな。

 

 ヘルビートルが消えた跡には魔石。通常品のドロップは無い様だ。


「うん? これがBランクの魔石?」


 ヘルビートルはBランクの魔物なので、ドロップする魔石もBランクである。

 その大きさは直径十数センチ程なのだが……。


「落とし罠の時の蟷螂の魔石はこれより大きいサッカーボール位の大きさだったよな? あの蟷螂、Aランク以上?」

 

 ダンジョンボスより強いのかよ。あの蟷螂。

 私の頑丈な体を切断する位だもんな……。

 落とし罠限定の魔物なのかな? たまにボスより強い掃除屋的な敵が出るゲームも有ったりするしね。

 うーむ、蟷螂の事をギルドに報告しない罪悪感が……でも、もう魔石は手放しちゃったからなぁ……今更、存在を証明できないし気にしないでおこう。

 勿体ないけど、このBランクの魔石も放置だな。小さいとはいえ、ダンジョンクリアしたと言うのはそれなりに目立つだろうしね。

 この世界、魔石は長期保存が難しいんだよね。ギルドだと保存用の魔道具が有るらしいけど。


「さてと……」


 魔石は放置して、祭壇に向かう。

 祭壇の上には宝箱。


「流石にこれが罠なんて事はないよね?」


 落とし罠の時の宝箱に比べて……まあ、厳密に覚えてる訳では無いが……それでも明らかに豪華な宝箱。

 どう考えてもダンジョンクリア報酬だ。

 ダンジョン最奥のボス部屋をクリアすると、初回限定でクリア報酬が貰えるらしい。

 この初回の基準は厳密には不明。

 基本的に未クリアメンバーが多いパーティーであっても、クリア済みの人が一人でも混じってればボスもダンジョン報酬も出ないらしい。

 ただし、ポーターなんかの戦闘に寄与しないクリア済みの人が混じってた場合、ボスとダンジョン報酬が出たという事例もあるらしい。

 ソロの私は一度クリアしたこのダンジョンでは、もう二度とボスもダンジョン報酬も出ないはずだ。


 ともかくダンジョンクリア報酬だ。


 ドゥフフフフフフ……中身は何でしょうねぇ。


 それなりに異世界転生系のラノベを読み込んでた私である。

 ある程度、結果の予測は出来る。


 ――マジックバッグ。


 異世界常識でその存在は知っている。バッグの大きさ以上に沢山の物が入る便利な鞄だ。ダンジョンの宝箱からしか出てこない貴重品である。

 ラノベだと大抵、こういうタイミングで手に入るのが定番だよね。


 ――武器。


 これも有り得る。むしろ普通に考えたらマジックバッグより可能性は高いかな。

 今の私が最も欲しい物かもしれない。

 素手で十分戦えるだろって?

 いやいや確かにそうだけど、素手で殴りたくない魔物とかいるんだよ。

 ムカデとかムカデとかムカデとかさ。

 そのうちゾンビとかと戦う事になったら猶更だ。

 腐攻撃が有るけど、あれは人前では使えないしね。


 ――従魔の卵。 


 ラノベなんかでは旅のパートナーとして、従魔が仲間になるのもこういうタイミングだよね。

 定番としては妖精かフェンリルの卵とかかな。

 あぁ、そうだ。精霊の宿った魔剣とかも有り得るな。

 喋る魔剣がパートナーとして参加するとか、あるある。


 ――スキルの宝珠。


 この世界には、使うとスキルが習得出来る宝珠がダンジョンから産出される。

 当たり外れが激しい……というか外れが多いらしいが、何のスキルも持たない私にとってはありがたい。

 ここで『アイテムボックス』みたいなスキルを習得するというのも有り得るな。


「くひひひひひ……どれが来るのかなぁ。――いざっ」


 宝箱を開ける。




 宝箱の中身は――ガラスの様な透明な小瓶。

 容器の中身はキラキラした透明な液体。

 


 

 ……。

  

 


「……」


 ……えっと……なんだろうこれ?

 飲んだら『アイテムボックス』のスキルが身に付くのだろうか?

 それとも、飲んだら妖精が出て来る……訳ないよね。

 普通に考えたら強力な回復薬とか?

 ……飲んだら駄目じゃん。


 お、落ち着こう……期待が爆裂し過ぎて正気を失っていたようだ。

 自分で言っててフェンリルの卵とか訳分からん。流石に卵生では無いだろう。

  

 ふむ、ギルドに聞けば分かるかな?

 ダンジョンクリアした事は出来れば秘密にしておきたいが……この液体が何なのか不明なままっていうのもね。気になって仕方がない。


「……ギルドに戻るか」



 ギルドに戻って、ギルド職員のアンナさんに小瓶を見せる。


「まあ、宝箱からこれが? おめでとう。これは聖水よ」

「……聖……水? ……聖なる水と書く……あの聖水ですか?」

「そうよ」


 ……いや、なんで聖水!?

 私、悪魔やぞ!

 ていうか危な!

 正気に戻るのが後一歩遅かったら聖水飲んでたわ。悪魔が聖水飲んだら一体どうなるんだ? 


「聖水は稀にダンジョンで発生する宝箱から出るのよ。地下四階で出たの? 以前にも地下四階で聖水が出た実績があるらしいわ。ダンジョン産の聖水は効果が大きい傾向にあるそうよ」


 うん?

 ダンジョンクリア報酬でなくても聖水が出るのか。

 なんとなく損した気分だが、私がダンジョンクリアした事は内緒に出来そうなのは都合が良い。

 それよりも……なんだろう?

 アンナさんは『おめでとう』と言ってくれてるが……何処か淡々としてるというか……。

 ギルドの中の別の職員や数人の木こりの人達が、宝箱と聞いた時にはこちらの様子を興味深くうかがっていたのだが、中身が聖水と分かると興味を失った様に元の作業に戻っていったし……。


 ……何か……様子が変だ。


「聖水って何に使えるのですか?」

「主に教会の祭事に使われるわね。他にはアンデットに効果的だし、呪いを払うのにも効果があるらしいわよ」


 ふうん。呪いとか私には効かなさそうなんだけどね。

 というか呪いに限らず状態異常系は滅多に私に効かない気がする。聖水を取っておく必要はないかな。

 むしろうっかり小瓶を割ってしまって、私に聖水がふりかかる事故の方が怖い。


「聖水の販売価格は幾らになりますか?」

「聖水は教会に寄進して善徳を積む事が出来るわよ」


 ……。


「このギルドに販売は?」

「神様から下賜されたとされる聖水を、金銭取引するのは教会によって禁じられてるわ」


 ……なるほど。

 これハズレじゃん!


 使い道は限られてるし、売ることも出来ない。

 それでも神様からの賜り物とされてるから、一応『おめでとう』な訳だ。

 そりゃ他の人達も聖水と分かったら、興味無くす訳だ。

 悪魔である私は教会に近寄りたくないしなぁ。

 かといって捨てるのは罰当たりになりそうで怖い。実際に神様居るって知ってるしな。

 ……って、こういう事考えてる時点で罰当たりな気がしてきた。神様ごめんなさい。


 ……う……うむぅ。

 大事に持っておくしかないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る