第32話 ルタのダンジョンボス

 ダンジョン地下五階を進むことしばらく。


 ――ズゾゾゾゾゾゾ。


 巨大ムカデが姿を現す。

 うん、一回倒せばもう怖くはない……事も無いが、大分恐怖は薄れてる。

 少なくとも取り乱してしまう事は無い。

 次は棍棒で倒してみよう。


 今回もムカデの初撃は酸弾。吐き出された酸弾を避ける。

 今度はかなり距離を取って避けたので、床で弾けて飛び散る酸を浴びずに済んだ。

 そして、突っ込んで来るムカデ。

 距離をかなり取ったのに遠距離の酸弾でなく、わざわざ接近して噛みつき?

 もしかして、酸弾は連続では使えないのかな? 魔力を使ってるぽいしね。


「はっ!」


 ムカデの頭に棍棒を叩き付ける。


 ――バキッ!

 

「あ」


 棍棒が折れる。

 武器が折れて固まってしまう私。

 そして固まってる隙にムカデに噛み付かれる。


「わあああああぁぁ………………痛くない」


 ガッチリ牙で嚙み付かれてるが、私の体は貫けないようだ。

 とはいえ、そのまま丸呑みにされそうだったので、腐攻撃を当ててムカデを倒す。

 ムカデを倒した後、折れてしまった棍棒を見る。


「うーん、折れた棍棒は新品だったのになぁ」


 不良品だった……訳ではないだろう。

 巨大で肉厚で硬い甲殻を持つCランクの魔物相手に、木製の棍棒では根本的に無理だったという事なのだろう。CランクともなればそれなりのVITなのだろうし。

 棍棒に魔力を流すのも、まだ上手く出来ないからなぁ。

 流すこと自体は出来るんだけど、それは落ち着いた状況下であって、戦いの最中に咄嗟に出来る様なレベルではないんだよね。

 空いた時間に魔力操作の練習はするつもりだけど、街に出たら丈夫な武器を買わないとなぁ。


 そんな事を考えつつ、ムカデを探しては倒していく。

 なお、酸弾は腐属性のオーラで防げることが判明した。

 腐属性のオーラを広めに展開してそれを盾にしながら突っ込むだけで、酸を防ぎながらそのまま腐のオーラを当ててサクッと倒せる。

 これはムカデ以外にも……いや、他のほとんどの敵に通用するな。

 といっても人前では使えないけど。


 そうしてムカデを狩り続けたが、元々小さいダンジョンにあの巨体。

 合計五匹倒しただけで枯れてしまった。

 むしろ、この小さいダンジョンに五匹も居たのか。


「もう、このダンジョンクリアしちゃうかぁ?」


 既に下に降りる階段は発見済み。

 次は地下六階――最下層でボス部屋である。

 うーん、もう少しレベル上げる予定だったけど……どうすっかなぁ。

 

 ボスはBランクの魔物、ヘルビートル。巨大なカブトムシ。

 意外にもこのダンジョンのボスとしては、毒とかの厄介な攻撃はしてこない。

 ただし硬い。

 甲殻の硬さで、物理防御力だけならAランククラスらしい。


 絶対、木製の棍棒なんて通じないだろうな。

 でも腐攻撃なら硬さは関係ないだろうし、負けることは無いかな。

 Bランクからは魔物のステータスが大幅に上がると聞いてるけど、それでもCランクの魔物でも私を傷付けれないからね。


「うん、行くか」

   

 地下六階に降り、一本道を進むと重厚な扉がある。

 いかにもボス部屋って感じだ。流石に緊張してきた。

 重厚な扉を開けると……広い!

 野球場位の広さの広間。最奥には祭壇の様な物が見える。

 そしてその祭壇を守るように巨大な漆黒のカブトムシ――このダンジョンのボス、ヘルビートルだ。

 見た目は角の先が鋭角に尖っている以外は日本で見るカブトムシのままだ。

 ただし体高だけで四メートル以上はあるだろうか。


「よ、よし。勝負だ」


 このカブトムシとは最初はガチ格闘勝負してみるつもりだ。

 ムカデは触りたくも無いので腐攻撃でサッサと倒してきたが、カブトムシなら子供の頃に飼育していたこともある。


 ヘルビートルにジリジリと近づいていく。

 ヘルビートルは私を威嚇するように、顎を引いて角を下げ私に向けている。

 そして六本の足を高速で動かして突撃してきた。


「速いっ! ゴキブリかよ!」


 が、避けれなくもない。

 高いAGIとPERのお陰か、相手の速度に余裕でついていける。

 角を避け、すり抜けながら胴体にパンチ。


 ――ドゴォ!


「KYIIIIIII!」

「わお!?」


 甲殻がベコリと歪み、ヘルビートルが吹っ飛ぶ。

 自分のパンチの攻撃力にビックリである。

 技量の無い私の、避けながらの腰が入ってない手打ちパンチで角度も駄目駄目だったが、それでもこの威力だ。

 そりゃ、私の体は鉄よりも大分硬いだろうしね。棍棒で殴るより強いか。


「――おん?」

 

 吹っ飛んだヘルビートルが空中で羽を広げ停止。

 その瞬間――ブゥゥウウウンンという音と共に高速で突っ込んできた。

 ――さっきより速い!

 

 慌てて避ける。

 しかしヘルビートルは六本ある足の先の鍵爪を床の突起に引っ掛け急停止。そこから角を振り回す。

 

「うわっ」


 角のなぎ払いが来る。

 避けた時に片足立ちだったので、踏ん張れずに転がる様に避ける。

 そして背後で聞こえる――ブゥゥウウウンンという音。


 まずい!


 慌てて横へ逃げる。

 一瞬前まで私の居た場所にヘルビートルの角が突き刺さり、ギャリリリリリィと凄まじい音と火花を上げながら高速で飛び抜けて行った。


 怖っ!


 巨大なヘルビートルは、野球場位の広さでも狭く感じる程に縦横無尽に飛び回る。

 カブトムシってこんな飛ばないだろ!

 しばらく必死に逃げ回る。


 慣れてきた。


 基本真っすぐ突っ込んで来るか、角の薙ぎ払いだけだ。


 ――ブゥゥウウウンン!

 再び突っ込んで来るヘルビートル。

 避ける――と同時に目の前に突き刺された頭に付いてる角を飛び越え、胴体に付いてる小さい方の角にしがみつく。


「カブトムシは構造上、ここを掴めば何も出来――あだだだだだだっ!」


 何も出来ないと思いきや、ヘルビートルは高速で飛びながら天井に私を擦り付ける。

 流石に背中がちょっと痛い!

 痛みを感じるのはあの巨大蟷螂以来だ。

 再び壁に激突する為に、ヘルビートルが旋回する。


 させるか!


 旋回する際に羽に飛び移り、羽を一枚思いっきり引き千切る。


「KYUUUIII!」


 上手く飛べなくなったヘルビートルが落下する。

 私も落下する。

 高い!

 怖い!

 ダシッと着地……四つん這いで……落下によるダメージは全然平気だった。

 いやまあ、大丈夫だとは思ってたんだけど、いざとなるとね……。


 ヘルビートルは空中で残った羽をばたつかせながらもがいてたので、少し離れたところに遅れて落下した。

 ヘルビートルはすぐに態勢を整え、六本足をシャカシャカと動かして突っ込んで来る。それなりに速いのだろうが、高速飛行に目が慣れた今となっては物凄く遅く感じる。

 体を逸らして避けると同時に角を掴む。

 地面に叩きつけた後、甲殻が無くて比較的柔らかいであろう腹部を攻撃してやる!


「てりゃぁ!」


 一本背負い(やったことないからイメージ)で床に叩き付ける


 ――ゴシャァア!


 ヘルビートルが木っ端みじんになる。


【レベルが上がりました】

 

 ……ありゃ?

 倒しちゃった。

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