第31話 やるかやらないか

 地下五階に到着。


「さて、この階層の魔物がなぁ……巨大ムカデなんだよねぇ」


 この階層の魔物はCランクの髑髏百足。

 人を丸呑みにする程の巨大なムカデで、口から酸を吐き、牙には猛毒。

 幸い(?)その巨体故、通路に一匹しか通れないので、挟み撃ちされない限り一度に複数相手にすることは無い。

 パーティーによっては、群れで襲ってくる地下三階のコープスビーや、蜘蛛の巣による罠を駆使する地下四階のモノクロスパイダーより対処し易いらしい。

 とはいえ、当然Cランクの魔物なので結構強い。

 因みにドロップ品は猛毒の牙。巨体故に牙は大きい。そして嵩張る割にそこまで高く売れない。毒腺から毒が抜けない様にする為の保存方法が特殊。まあ、私にとっては拾う価値無しだ。

 そんなのばかりだな、このダンジョン。人気が無い訳だ。


「いざという時の腐攻撃もあるし、行ってみますか」


 通路の先へと進む。

 しばらくして聞こえてくる、ズゾゾゾゾゾゾという音。

 そして姿を現す巨大ムカデ。

 私の存在に気が付いたのか、巨大な二対の牙を大きく広げ、大きな口をこちらに向ける。

 通路一杯に広がり、正に私を丸呑みに出来る程の広さの口を。


「ぴぎゃあああぁぁああああああああ!」


 叫ぶ。

 走る。

 逃げる。

 階段を駆け上がり、地下四階に出てもなお逃げ続ける。

 走ってる最中に蜘蛛の巣に突っ込み、ようやく足が止まる。


「――はっ! あ、あ……ああ」


 歯はカチカチ。

 膝はカクカク。


 ちょ、ちょ、いや、ちょ、ちょ、あれ、あれは……。


 思わず逃げてしまった。

 な、情けない。

 いやいや、むしろその場で腰抜かさなかった私を褒めたい。

 いやいやいや、勘弁してよ!

 デカすぎでしょアレ!

 怖すぎるわ!

 あんなにデカイなんて聞いてないぞ!

 何が『人を丸呑みにする程の巨大なムカデ』だよ!


 ……言葉通りじゃねーか……。


 お、お、落ち着こう。


 大分魔物に慣れてきたと思ってたけど、あの巨大さはヤバイ。

 ステータス的には私の方が上であるという確信はある。

 だが、あの巨体を目の当りにした時「喰われる!?」という凄まじい恐怖に襲われた。自分が喰われる立場だという恐怖で頭が埋め尽くされた。

 ステータス的にどうとか一瞬で頭から吹っ飛んだ。

 3Dゲームでなら更に巨大なモンスターと戦ったことがあるが、当然ゲームと現実は違う。目の前の巨体に丸呑みにされようとしてるのは、ゲームのキャラクターではなく私自身なのだ。

 プレッシャーが違う。

 ゴブリンの初戦闘時にも似たような事を感じたが、今回は相手が巨大故に更に強烈に感じた。


「はぁ~」


 ……でも。


 ――逃げちゃ駄目だ。


 何かのアニメで聞いたことある様なセリフだが……ここは乗り越えなくちゃならない。

 ステータス的には勝てるはずなんだ。

 怖くても怯まず相手を殴るだけだ。


 前世では、普通の人達には”やれば出来る”が、不器用な私には”やっても出来ない”だった。そんなのばかりだった。

 でも今回は私でも”やれば出来る”はずだ。やるかやらないかなのだ。

 何をどう頑張れば良いか分からない、という訳では無い。

 どう努力すれば良いのか分からない、という訳では無い。

 折角転生して出来る身体を神様から頂いたのに、どう頑張れば良いのか分かっているのに、やらないなんてあり得ない!


 ともかく最初は経験値もお金も考えず、腐攻撃で思いっきりぶん殴ろう。

 最初の一匹目さえ倒してしまえば吹っ切れるはずだ。


 さあ、行こう!


 ……と、思考の底から戻ってくると、蜘蛛が私に糸を追加で巻き付けながら頭にガジガジと噛み付いていた。

 そういや、蜘蛛の巣に突っ込んでたんだったな。


 糸を力ずくで引き千切り、蜘蛛を倒して地下五階へ。

 ダメージ?

 ありませんでした。

 モノクロスパイダーの牙では私を傷付けれない。ちょっと気持ち悪かったくらいだ。

 あのムカデ見た後だからね。


 再び地下五階へ。


 ――ズゾゾゾゾゾゾ。


「うひぃぃ」


 巨大ムカデが私に迫まってくる。

 覚悟を決めても怖いものは怖い。

 地下五階の洞窟の通路はおよそ八メートル四方の広さだが、このムカデは足を含めたら半分の四メートル以上はある。

 体長は五十メートル位あるのだろうか?


 ……具体的に考えるのは後だ。怖くなるだけだし。

 今は倒すことに集中だ。


 右手に魔力を集め、腐属性のオーラを発動させる。

 ムカデは私に向けて口を大きく開く。

 私を呑み込もうと突っ込んで来る時に腐攻撃を当ててやる。


 ――うん?

 ムカデの口に白い粒子――魔力が集まって――。


 ムカデの口から黄ばみかかった液状の弾の様な物が射出される。


「うわっ!」


 避ける。

 ……が、床に当たって弾け散った液体の飛沫の一部が右足に掛かる。


 ――シュワァァァァ。


 そんな音を上げ、液体を浴びた箇所から白い蒸気が上がる。

 

 酸か!?

 おのれっ!

 遠距離攻撃かよ!


 ――KISYAAA!


 避けた所にムカデが突っ込んで来る。


「――っと!」


 噛み付き攻撃を避け、腐攻撃を当てて離脱。


 ――GIGIGIIIIIII!


 ムカデがビタンビタンとのた打ち回る。

 腐属性の禍々しいオーラが、触れた箇所からムカデの体を蝕む。

 干からびて白くなり、最後は黒ずんでサラサラの塵の様になっていく。

 禍々しいオーラは消えることなく巨大なムカデの体を伝って、奥へ奥へと蝕み腐らせていく。

 相手が巨大だからか腐っていく様子が分かりやすくてちょっと……いや、かなり引く。

 ホント凶悪だな、この腐攻撃は。

 一度オーラが纏わりついて蝕み始めたら、相手が大きくても関係ないな。


【レベルが上がりました】


 おっ。

 やった!

 腐攻撃でもレベルアップの経験値は入るらしい。

 これはありがたい。

 魔石やドロップが残らないのは難点だが、レベル上げには使えそうだ。


 ――っと、そういえば……。


 酸を浴びた右足を見る。

 浴びた箇所の服は溶けてしまったようだが、溶けて無くなった服の下の肌は綺麗なままである。

 コープスビーの腐敗針と一緒で、私自身に酸は効いてないらしい。

 高いVITの肉体的状態異常耐性のお陰か、溶けたけど再生したのか……痛くなかったから前者かな?

 この世界、VITとMNDが高ければ色々と”無効化”出来るぽいね。

 

「つまりレベルを上げれば上げる程、無敵に近づく訳だ」


 悪魔とバレた時の為にも、よりレベル上げに努めないとね。

 よし!

 ドンドンムカデを倒していこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る