第30話 腐攻撃

 翌朝、雑貨屋で棍棒を補充して、ダンジョンにやって来た。

 今日の目標は腐適性の検証とレベル上げである。


 あの禍々しいオーラの様な魔力を見て、改めて私は悪魔なんだよな、と思った。


 悪魔――神の敵対者で反社会的種族。


 今の所、悪魔とバレなければ人類の一員として社会に溶け込んでいけそうだし、バレる気配もない。

 だが、油断は出来ない。

 聞いたところによると、希少ながら鑑定系の魔道具が存在するらしい。恐ろしい。


 鑑定を免れる為に、とりあえず王都、領都なんかの大きい都市には行かない。

 鑑定系の魔道具は希少なので、規模の大きい都市にしか無いらしい。

 そういった場所は避ける。


 それでもバレた時の対策として、レベル上げである。

 もしも悪魔だとバレた時、少なくとも逃げ出せる程度の力が欲しい。

 現状の私は弱いとは思えないけど、それでも一流の騎士や冒険者達と戦えるレベルだと思ってはいけない。

 自分の強さが全体のどれくらいの位置に居るのかはサッパリ分からないが、ともかくレベル上げを頑張らなければならない理由が増えた。


「早速、地下五階に向かいたいけど、まずは力の把握だね」


 こういう時、誰も来ないダンジョンは都合が良い。

 地下一階を足早に抜け、地下二階の蟻を相手に腐適性の魔力の検証を始める。

 地下一階の蟻は数が多すぎるので、地下二階の蟻位が丁度良い。


「なるほど」


 そしてしばらく行った検証の結果、分かった事がいくつかある。

 まず腐適性の魔力による禍々しいオーラを敵に当てる事を、便宜上『腐攻撃』と呼ぶことにする。


 腐攻撃を当てた相手は、当たった箇所に禍々しいオーラが纏わり付き腐っていく。

 その箇所は侵食し、やがて全身に到達し、最後は黒い塵となって消える。


 禍々しいオーラは飛ばせない。

 魔力を籠めて、手から出るオーラの範囲を広げる事は出来ても、私の体からは切り離せない。

 オーラを直接、相手に当てるしかない。

 一度腐攻撃を当てて相手にオーラが纏わり付けば、私が離れても消えない。むしろ、消そうにも消せない。


 魔力を多く籠めると侵食速度が上がる。

 侵食範囲は私が一個とか一匹と認識した範囲。

『足だけ』といった一部位だけを腐らせる事は出来ない。

 不思議な事だが、実験中に腐属性のオーラをうっかり私の着ている服の袖に当ててしまったのだが、着ている服が腐ってしまう事は無かった。

 服を脱いで腐属性のオーラを当てれば、服はしっかりと腐って塵となった。

 着ている服は体の一部だと言う、私の無意識の認識による区別だろうか?

 魔法などの魔力を使う技能には、認識が重要とは聞くけど、なんというご都合主義。


 腐攻撃で倒した敵は何も残さない。

 今まで倒した魔物は魔石をほぼ100%ドロップしてたのに、腐攻撃で倒した蟻は何もドロップしなかった。


 因みにダンジョンの壁には腐攻撃が効かなかった。

 ファンタジー世界ではお馴染みの”不壊属性”もしくは”異次元物質”ってヤツなんだろう。


「かなり強力だけどクセも強烈だなぁ」


 腐攻撃は当たれば必殺である。

 文字通り”必ず殺す”である。

 漫画やアニメでは『必殺! 〇×△!』とか言いながら、割と相手を殺さない事が多い必殺技だが、この腐攻撃はガチ必殺である。

 当てちゃったら、もう私にも止められない。当てられた相手はもう腐るのみである。


 その一方で使い勝手が良いとも言えない。


 まず、遠距離攻撃として使えない。

 もし『腐魔法』なんてものが有れば遠距離攻撃可能になるかもしれないが、習得方法が分からない。そもそも存在するかも不明。調べる方法も無いし、調べようとする事自体がリスクを伴う。

 それと腐攻撃で腐らせて倒した相手は、魔石も何も残さないのが痛い。

 レベルアップに必要な経験値に関してはまだ不明だけど、ドロップ目当ての狩りには使えない。

 当てれば必殺とはいえ、塵になって消えるまでにある程度時間が有り、即死する訳では無い、というのも気になる。死ぬ間際の悪あがきで何かされるかもしれないし、塵になるまでの時間でなんとかするかもしれない。まあ、コープスビーの腐敗毒と同様、腐った箇所には回復魔法が効かないという事が感覚的に分かるので、そうそう対応されるとは思えないが。

 そして、人前では使えない。

 使うとしたら見た相手を……殺すしか……。


 いや、一つ手段があるが……。


「……覚悟は、しておかないといけないんだよな」


 覚悟しないといけないけど、今すぐはちょっと無理かな。

 悪魔とバレる日が、もしかしたら今日かもしれないのに何を悠長な事を……とも思うが、そう簡単に割り切れない。

 自分の命が何よりも大事とはいえ、今考えてる事に簡単に割り切ってしまったら……身体だけでなく心も悪魔になってしまいそうで……それはそれで怖い。


「……今はレベルを上げよう」


 とりあえずの先送りである。

 今はレベルアップに努めよう。

 強くなる事が身の安全に繋がる事は間違いないのだから。

 

 元々、小さいダンジョンである。

 もう道筋は覚えたので足早に地下五階へと向かう。

 地下三階では腐攻撃で蜂を倒してみる。

 魔力を多く籠めればオーラが広がって当てやすくなるので、蜂の対処が凄く楽になった。

 とはいえ、空中の敵に攻撃を当てる練習になるので、行きは棍棒で戦い、糸玉を抱えてる帰りは腐攻撃で対処する事にしよう。

 昨日、蜂の腐敗毒で糸玉一個駄目にしちゃったんだよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る