第36話 魔装服

「お待たせ! 遂にルーノちゃんの服が完成したわよ! ささ、こっち来て」


 服飾店に来るなり、店主のイリーナさんに迎えられる。

 いや、お待たせも何も……そもそも服を注文した覚えは無いのですが……。

 ……などと言いだせる空気ではなく、されるがままに服を剝ぎ取られながら奥の部屋に連れ込まれる。


「え? 下着まで!?」

「勿論! 体のラインを綺麗に見せるには下着からよ」


 下着まで作ってあった。

 絹の様な材質……これもモノクロスパイダーの糸で作ってるのだろうか?

 しかもデザインが現代日本的な?

 いや、女性の下着に関して詳しくは知らないけど、どう見ても中世の下着のデザインではないと思う。

 というか、何時の間にか裸にされてる。何かのスキルですか?

 とっても女性的なデザインの下着を身に着けるのも恥ずかしいが、裸でいるのはそれ以上に恥ずかしいので下着装着。


 こ、これは……着心地が違う。

 今までのゴワゴワした下着とは全然違うぞ。


「うん、ピッタリね。では早速服を着てみて!」


 そして差し出された服。

 純白のブラウス、艶やかな黒のコルセットスカートにニーソックス。


 ……絶対領域系の服ですね。


 前回以上にウッキウキなイリーナさん。

 うん、これは逃げられないね。店に来た時点で諦めてたが。

 まあ、私の為の服を作ってくれたとあっては流石にね。

 押し売りとしては酷いが、彼女にとっては100%善意なのはなんとなく分かる。


 着てみた。

 こ、これは……前回よりパワーアップしてる。


 スカートはよりフリフリに、コルセット部分も可愛らしくなってる。

 ブラウスも清楚な感じで、袖がフワッとキャンディスリーブに。襟の辺りも可愛らしくなってる。

 胸にはピンクに染められたリボン……私の髪と同じ色だ。

 着てみると……なるほど確かに「体のラインを綺麗に見せるには下着から」だ。

 前回、試着した服に比べて、明らかに体にジャストフィットしてる。

 この体の抜群のスタイルの良さを際立たせており、露出は少ないのに何処か色っぽい。

 着せ替え人形の刑の時に、シレっと採寸してたんだな。


「良いわね! 良いわね! バッチリね! この靴も合わせてみて」

「靴まで用意してくれてたんですか?」

「勿論! これは靴底だけはエルダートレントの樹脂を使ってるけど、モノクロスパイダーの糸を組み込んでちゃんと魔装服化してあるわよ」


 同じく艶やかな黒のブーツも、これまたピッタリである。

 そして姿見で自分の全身を見る。

 

 ……やばい。


 改めて見ても超絶美少女だ。

 そしてイリーナさん謹製の魔装服が凄まじく似合ってる。

 中世とは思えないデザインだ。これ、前世日本のアイドル世界でも通用するぞ。

 超絶過ぎて姿見に映るこの美少女が、自分自身だとは未だに実感が沸かない。


「下着から靴まで全部魔装服化してあるからね。動き易い様に伸縮自在よ。ルーノちゃんが毎日大量に素材納入してくれたから、贅沢に機能を付与で来たわぁ」

「このピンクのリボンも魔装服なんですか? これだけピンクですけど」

「ルーノちゃんの髪の毛を編み込んで、魔裁縫スキルで髪の色を抽出してるのよ」


 そうなんだ。魔裁縫スキルって凄いな。

 というか、私の髪の毛を何時の間に採取したんですかね?

 前回の着せ替え人形の刑の最中に採取したんだろうけど、ちょっと怖いわぁ……この人。


「着色したのはリボンだけだけど、ルーノちゃんの魔力に親和性を持たせる為に、服にもルーノちゃんの髪の毛を編み込んでるわよ」

「そ、そうなんですか……確かにとても動き易いです」

「でしょう? それに前回同様どんな動きでも体勢でも、可愛らしくかつ見せないズレない機能付きよ! 戦う冒険者、ルーノちゃんの為の服ね!」

「……え? この服を着たまま戦うのですか? まあ、体にピッタリなのでこの上に鎧を――」

「――駄目よ!」

「ア、ハイ」

「その服を鎧で隠すなんてとんでもない! 大丈夫よ、考えてあるから! こっちに来て」

「は、はい」


 イリーナさんの後を追って、更に店の奥の部屋に入る。


 イリーナさんに付いて行きながら思う。

 正直、ここまでは予想していた。

 前回、絶対領域系の魔装服を試着した時に、イリーナさんはサイズ等に不満をこぼしてたからね。

 なのでアンナさんから「ルーノちゃんの服が完成した」と聞いた時、気合の入った絶対領域系の魔装服が用意されてるのだろうな……とは私でも予想出来た。

 勿論、厳密に言えば下着や靴まで用意していた事まで詳細に予想してた訳では無いが、大雑把に言えばここまでは予想の範疇内である。




 ……ここまでは。




「さあ、真ん中に立って」

「な、なんですか? この魔法陣は?」

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