第28話 魔力纏い

 ようやく着せ替え人形の刑から解放され、雑貨屋へやって来た。


「こんにちは~。武器下さい。殴り系で頑丈なの」

「……どえらい美少女が来ていきなり脳筋発言してきたと思ったら、その声はこの間の嬢ちゃんか。前に買った棍棒はどうしたんだ?」


 ……あ、今はゆるふわ町娘姿だった。昨日まではフードをすっぽり被ってたからな。


「はあ!? 棍棒を二つとも折った? 一日でか?」

「は、はい! すみません!」

「あ、いや……謝ることはねえがよ……かなり丈夫で粘り強い材質だったはずなんだがな。まあモノクロスパイダーを倒す位だ。見た目以上に力があるんだな」


 ここでも私の事、知ってんのかよ。

 村での話の伝わる速度、怖いよ。


「すみません……不器用で使い方が荒くて……もっと丈夫な武器ってありますか?」

「無いな。この村では金属が貴重で金属系の武器は少なくてな。そもそも、ここは武器屋じゃないぞ」

「あ~、そうですよね」

「この棍棒でも魔力を纏わせれば、かなり頑丈になるんだがな。と言っても、あまり現実的では無いか……」

「詳しく!」

「お、おお? 『魔力纏い』の事か? ぶっちゃけ武器を握ってる手から、その武器に魔力を込めるだけなんだがな」

「……ああ、『魔力纏い』ってスキルが必要なのですね……」


 スキルは何も無いんですよ。


「いや、武器に魔力込めるだけなら、魔力纏いのスキルが無くても出来るぞ。魔力纏いのスキルがあれば、自身が持っている適性に応じて、属性を付ける事も可能になるんだ。例えば火適性持ちが魔力纏いスキルを使って武器に魔力を込めれば、武器に炎を纏わせれる。魔力纏いスキルが無いと属性が付けれないが、魔力を込める事だけなら可能だ。厳密に言えば魔力を籠めるだけならスキルを必要としないから、魔力纏いとは言わんがな」

「魔力だけを込めたら、どうなるのですか?」

「単純に威力が上がり、頑丈になる。鉄よりは木の方が魔力の通りは良いしな」

「おお! どうやるのですか!?」

「嬢ちゃん……魔道具も無い田舎から来たのか? 魔道具に魔力を流すのと同じ要領だ。まあ、鉄より木の方が魔力の通りが良いといっても、魔道具に使われてる魔導体よりかは魔力の通りは悪いから、難しくは無いが魔力はかなり使うぞ。現実的では無い理由の一つだよ」


 ふむ、要するに武器に魔力を纏わせて強化する事が出来るって事だね。

 しかも魔力を流すだけならスキル不要。これは使わない手は無いな。 

 聞いたところによると、ミスリル等の魔力浸透性が高い素材でないと魔力消費が激しいらしいが、私は身体能力全振りで魔力もかなり高いだろうし『活性』による自然回復二倍もある。

 現状、魔力の使い道は生活魔法で水を飲むくらいだし、武器に魔力を使い込んでも問題ないだろう。

 使い方は異世界常識に火の魔道具の使い方とかあるし、やったことは無くともなんとなく出来そうな気がする。魔力を込める事自体は難しくは無いらしいし。

 良い話を聞けた。

 棍棒を三つ買い、お礼を言って店を出る。


 日はまだ高い位置にある。

 着せ替え人形の刑で時間を取られたとはいえ、まだ昼過ぎくらいか。

 ダンジョンの中で、武器に魔力を流すのを試してみるか。


 ……その前に、このゆるふわ町娘の格好でダンジョン行くわけにはいかないし、宿屋で着替えよう。

 お洒落な格好で戦い続けられるのは、選ばれしファンタジー美少女戦士だけである。

 それに、先程からこの格好で村を歩いてると、凄く視線を感じるしね。

 おそらく自意識過剰では無いだろう。


 宿屋に戻って、購入した作業服とフード付きローブという、最初に着ていたのとあまり変わらない格好に着替えてダンジョンに向かう。

 ダンジョンに着くと、着ていたフード付きローブを脱いで、入り口近くの木の陰に隠して置く。

 服がボロボロになっても、上から無傷のローブを着ればパッと見は問題ないしね。

 どうせこのダンジョンに他の人は来ないだろうし。


 そしてダンジョン地下一階へ来た。


 ――カサカサカサ。


 蟻の這いずる音が奥から聞こえて来る。

 音からするとかなりの数だ。どうやら昨日殲滅した蟻達は、全部リポップしてるようだ。

 リポップ早いな。

 まあ、ここで稼ごうとしてる私にとっては都合が良いけどね。

 小さいダンジョンだから、一日で回復してくれないと獲物の数が足りなくなる。

 それにしても昨日よりも、更に明確に蟻の足音等が聞き取れる。

 レベルが上がる度に感覚が鋭くなってるので、この異常に優れた感覚は悪魔の種族特性という訳では無く、感知、感覚に関するPERのステータス上昇によるものなのだろう。

 階段降りてすぐの場所だし、すぐ近くには蟻は居ないようだ。


「さて、戦う前に……」


 棍棒を手に取り、魔力を込めてみる。

 生活魔法を使う時に流れる白い光の粒子――魔力を棍棒に流せば良いのだ。

 因みに異世界常識によると、普通は魔力は見えない。レベルアップする度にハッキリ魔力の粒子が見える様になってるので、PERが高まると魔力も見える様になる様だ。

 

「む? 固い?」


 高いMNDによる魔力制御のお陰か、棍棒に向けて魔力を流すこと自体はすぐに出来た。

 だが、魔力が棍棒に入らない……いや、入ってはいるが抵抗を感じる。十の魔力を流しても、その中の二か三程の魔力しか流れない感じだ。

 これは材質的に、仕方がないのかな?

 これがミスリル製の剣とか、ダンジョンのみで出ると言う魔剣とかなら、十に近い魔力が流れるのかもしれない。

 

「それなら沢山流せば良いのだ!」


 私の魔力にはまだ余裕がある。それもかなり。

 棍棒に先程の十倍以上の魔力を流してみる。これでも控えめな位だ。


「おお! 棍棒がなんか輝いてきt――」


 ――ッパァァーーーーーーーン!


「ぴぎゃぁ!」


 目の前が真っ白になると同時に、衝撃波が身体の前面に当たる。

 白くなった視界はすぐに戻った。

 

 ビックリした!

 え?

 ええ?

 棍棒が破裂した!?

 

 辺りを見回すと、地面にはここで手榴弾が爆発したかのような跡が残っていた。

 私自身は無傷だが、せっかく新しく買った服の前面が黒焦げである。

 そして、買ったばかりの棍棒も早速一本無くしてしまった。


 ……どう考えても、魔力を込め過ぎたんだよな?

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