第27話 初めて見る自分の姿

「おまたせ! これは私の傑作品よ!」


 そう言って新たな服が一セット、私の目の前に置かれた。


 ――こっ――これは!?

 ナンカ更に短いのキター!


 無理無理無理無理無理!

 いや、さっきのも無理だけどさ!

 さっきのも私の覚悟の壁を越えてたけどさ!

 やばい!

 これはもっとやばい!

 新たに出てきた服は、真っ白なブラウスに真っ黒なコルセットスカート。短い。

 そして何かの帯なのか? ……と思ったら真っ黒なニーソックスだった。


 これ……あれだ。絶対領域なヤツだ。


 私には生地の良し悪しなんて分からないが、そんな素人目の私にも素材から違うのが分かる。

 最初に出てきた服は、麻素材だと思うし、明るい色合いではあったがアースカラーだった。

 まだ『可愛らしい町娘の着ている服』の範疇だと思う。

 しかし新しく出てきた服は絹っぽい。光沢が有って滑らかで綺麗な黒と白である。なんかキラキラしてるし……中世レベルでこんなに綺麗に染色できたっけ?

 これはアイドルが着る服だろ。アイドルしか着ちゃいけない服だ。


「これはモノクロスパイダーの糸から作られた魔装服なのよ」


 ……あ、あの糸玉から造られてるのね。あの糸玉は綺麗な白黒だったからな。

 それでも糸玉の時よりも艶やかな気がするな。

 それよりも気になるワードが……。


「魔装服ってなんですか?」

「魔装服は魔物の糸を素材に『魔裁縫』のスキルで作成した服の事で、私が『魔裁縫』のスキル持ってるのよ。この服は人の微量な魔力に反応して吸着する糸の特性を活かして作ってあるの。だからどんな体勢でも、激しい動きをしても、スカートは他人に見せないかつ可愛らしく見える絶妙な位置を維持するし、ニーソックスはズレないようにしてあるのよ」


 なにその無駄に高度な性能……。

 いや、そんな事言ったら世の婦女子の方々を敵に回してしまうかもしれないな。

 実際に、どんな体勢、動きでも、見せないズレないって女性にとっては重要だろう。

 もしかしてファンタジー世界のヒラヒラフワフワの短いスカートで戦う美少女戦士達が、激しい戦いをしても見せないズレないのはそういう事だったのか?

 正に絶対領域……絶対領域って、そういう意味だったっけ?

 ……というか『もっと普通の』って注文したのに、明らかに普通じゃないよね?


「革素材はそれなりに流通してるのだけど糸素材は少なくてね~。この村に来たのは生まれ故郷なのもあるけど、蜘蛛系の魔物がそこそこ居るからなのよ。でも肝心の、直接着てくれるお客様が居なくてね~。街に出荷してるのだけど、直接私の服を着ている姿を見れないのが不満だったのよ」

「素人考えですけど、糸素材を仕入れて街で作ればよろしいのでは?」

「ただの服の作成ならそれでも良いのだけど、魔装服は素材の魔力が抜ける前に加工が必要なのよ」

「あ~、そういうのがあるんですね」

「でも! 今日はルーノちゃんが着てくれるからね! ささ! こっち来て」


 待て待て待て待て!

 なんで!?

 テンション高い理由それ?

 でもなんで私!?

 そういえばこの村でお年頃の女子を見てないな。五歳位の女の子を見かけたくらいだ。

 しかし、これはまずい。

 ハッキリ言わないと。


「あ、あの~……村の方が着てるようなワンピースで……」


 これが私のハッキリである。

 ハハハ……生まれ変わってもこういう所は中々変わらないな。

 

「ワンピースね! ちょっと時期的に寒いかな? でもこれなんてどお?」


 寒い?

 そう言って見せられたのは、確かにワンピースである。

 ……ワンピースなのだが……。

 キャミソールワンピ?

『ワンピース』という単語しか通じてないじゃん!

 村でこんなの着てる人、見た事ねえよ! 肩とかめっちゃ露出してるし。そりゃ寒いわ!

 あ、でもスカートの丈はそこそこ長いな……と思ったら横に深いスリット入ってる。太もも見せる気満々のヤツじゃねえか。


 ◇


「なんか疲れた……」


 今、私は最初に出された服を持って試着室の中である。

 あの後も様々な服を見せて貰った……いや、見せられたのだが、私にとって強気過ぎる服ばかり。

 遂にビキニアーマーが出てきたので、もう観念して最初の服を試着する事にした。

 結局、見せられた服の中ではこれが一番普通なのだ。

 というかビキニアーマーが何故、防具屋でなく服飾屋にあるのか……まあ、あんなの防具じゃないか。普通に考えたら防御力なんて無いもんな。ファッションの一つと考えれば服飾屋にある方が自然か。


 ボロボロになった服を脱ぐ。

 改めて見ると、穴だらけ傷だらけあちこち破れてて本当にボロボロだ。丈夫そうな生地だったのに……。

 短い期間ではあったが、この世界で最初から身に着けてた服だ……今までありがとう。

 心の中で服にお礼を言う。


 ……さて。


 この体、細!

 ……うあぁ……スカート、割と短いと言っても膝下かと思ってたけど……着てみたら膝丈じゃないか。思った以上に足が長いし、腰が細くて位置が高いなぁ。

 というか、今更だがこの体、スタイル滅茶苦茶良くない?

 胸は……巨乳では無いが……絶壁という訳でもない。形は良いのかな?

 これから大きくなるんだろうか……。十五歳に見えるというだけで、実際に十五歳では無いからな。これから育つのか分からん。

 うーん、足がスースーして落ち着かない。

 これで良いのだろうか?

 女性の服の勝手が分からない。


 試着室から出て、店員に声をかける……までもなく、すぐに来た。


「良いじゃない! 良いじゃない! やっぱり実際に着てみて貰うと、インスピレーション高まるわぁ!」

「そ、そうですか? 着方はこれで合ってるでしょうか?」

「似合ってるわよ! 見てごらん」


 用意してくれていたのだろう。彼女は全身が見れる、大きな姿見を持って来ていた。

 そういえば初日から自分の姿を確認しなきゃ……と思いつつ全然確認出来てなかったな。

 姿見の前に立って私の格好を見てみる。

 何気に転生後の私の顔を初めて……。



 ……み。



 …………は?



 ………………な。



 ……………………なっ!



 なんじゃこの超絶美少女はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!



 姿見に移った自分の姿は、とんでもない美少女だった。


 …………これが私……?


 ……前世のアイドルにも居なかったぞ……このレベルの美少女は。有り得ない位に整った顔立ち。

 前世の面影は微塵も無い。

 いや、面影ではないが残滓というか、特性はある程度引き継いでるのかも?

 よく言えば穏やかそう、悪く言えば弱々しく頼りなさそうな前世の特性を引き継いだのか、やや目尻の下がった優しそうで儚げな顔立ちである。

 そしてふんわりとした髪に、あどけなさを感じる顔。禿げる心配だけは無かった豊富な髪の量や、童顔だった所も引き継いでるのだろうか?

 悪魔の種族特性によって歳を取らないだけで成人しているはずだが、それでも少女に見られるのは、結構童顔だった前世の特性を引き継いだからなのだろう。

 今着ているヒラヒラフワフワの服の印象もあってか、悪魔というよりも、ゆるふわ天使系の美少女だ。


 やっべぇ……私はこの可憐で儚げな天使のような顔で「ヒャッハー!」とか言ってたのか。 


「次はこれね。きっと似合うわよ!」

「え?」


 ニーソックスを目の前に突き出され、現実に引き戻される。

 ニーソックスで引き戻される現実とは一体……。

 でも、確かにこの顔と体なら似合……いやいや、そうじゃなくて!


「で、でも特殊なスキルで作られた魔装服だし……高いのですよね? そんなの私、着れません」


 私は最後の抵抗を試みる。


「ルーノちゃんが糸玉を納品してくれたんだから、お値段ちゃんと勉強してあげるわよ。ささ!」


 糸玉の納品先、ここだったんすか!?

 そりゃそうだ。ここしか無いわ。

 ……あれ? でも待てよ。この人、なんで私が納品した事を知ってるの?

 そもそも今更だけど、なんで私の名前を知っているんだ? 名乗った覚えは無いぞ。

 私の情報、どこまで漏れてるんだ? 


「泣くほど頑張って手に入れた金貨だもんね。自分へのご褒美に着飾らないとね!」


 ――っく!

 ……全部、知ってやがる……。

 村レベルだとすぐ情報が拡散してしまう訳か。

 そういやこの店員、四十代位か?

 アンナさんと同じ世代……そういう事か。


 私はその後数時間、着せ替え人形にされた。

 絶対領域の魔装服は……ヤバかった。童貞殺すヤツだった。

 でも店員は「うーん……悪くは無いけど……ルーノちゃんのスタイルをもっと活かすには……」とかなんか言ってた。

 素材が貴重な為にサイズの種類が少ないのもあって、試着した服は若干私には大きいらしい。

 いや、全然良いと思うんだけどなぁ。買わないけど。

 ビキニアーマー試着だけは、なんとか免れた。


 結局、最初のゆるふわ系の服を購入して、その服をそのまま着る事に。

 いや、もう買わざるを得ない、着ざるを得ない状況だったので……。


 店員が満足した後で、冒険時に使う用に作業用シャツとズボン、フード付きローブも何着か購入した。

 ……というか、あるじゃないか……普通の服。こういうので良いんだよ。

 冒険時以外の普段着用にと、村の人が着てるような普通の服を購入しようとしたら「普段着ならもう買ったでしょ」と言われ、笑顔で売ってくれなかった。

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