第26話 悩み
「……あぁ~」
朝。目が醒めてベットから身体を起こし、溜息を出す。
昨日はこの世界に来て、初の黒歴史を刻んでしまった。
いや、なんで泣いてしまったんだろうね。自分でもよく分からない。
見た目は十五歳らしいが、中身は四十五歳のおっさんだぞ。あかんわー。
ま、まあ、きっとあれだ。新しい身体に適応して、精神が十五歳の女の子並みになったんだ。そうに違いない。厳密には十五歳では無いのだが……。
でも実際、歩き方だとか、さり気無い仕草なんかが女っぽくなってるんだよね。
……前世で『女々しい奴』とは言われた事はあるが、それとは別問題だろう。
少なくともある程度、この身体に精神が引っ張られている所はあると思う。
窓に嵌め込まれた木枠を外して外を眺める。
「良い天気になりそうかな?」
文明レベル中世のこの世界では、日が昇れば皆動き出し、日が沈めば皆寝る。
まだ空が白み始めた位だが、道にはもう何人か見える。耳を澄ませば人々が活動を始めだした音が聞こえる。
「……ふぅ」
ぼんやり外を眺めながら、ボーと考え事。
しばらくすれば朝食に呼ばれるだろう。下の階から温められたスープの匂いがする。
今日の予定はどうするか……まずは買い物だな。
武器と服を新調しないとね。
しかし……なんというか、改めて、お金を稼げる見込みが立ち、懐が温まっている事の安心感が大きい。
昨日までは何か切羽詰まってて、こうやって外の景色や喧騒に気を向ける余裕なんて無かったからなぁ。
「飯が出来たぞー!」
階段下から声がする。
さて、朝ご飯にしますかね。
昨日の晩御飯は泣いてしまった事の気恥ずかしさからさっさと済ませてしまったが、今日からはゆっくりご飯を楽しめそうだ。
……まあ、文明レベル中世だから、あんまり美味しくはないんだけどね。
立ち上がり、部屋を出て下へと降りる。
そして一階の酒場でまったり朝ご飯を食べながら、今後の事を考える。
種族や血の色とか悩ましい問題は残ってるけど、種族に関しては今のところバレる感じはしない。
血の色も、ソロ冒険者として人目を避ければ大丈夫かな?
私の身体の頑丈さなら、街中で転んだり人に接触する程度で出血してしまうとは思えない。
一番悩ましい問題だった『自立して生活出来るのか?』に関しては解決したんだ。
あんまり悩んでも仕方ないしね。
ハハハ。ずいぶん気楽になったよ。
◇
うぐ……ぬぐぐ……悩ましい……。
あまりにも悩ましい問題だ……。
私は今、非常に苦悩している。
「ささ! 遠慮しないで」
女性店員が満面の笑顔で試着を勧めて来る。
いや、遠慮している訳ではなくてですね……。
朝食を終え、やって来たのは今居るこの村唯一の服飾店。
そして目の前の机の上には、私を苦悩のどん底に陥れている存在が有る。
袖のあたりがフワッと広がった服……アンブレラスリーブだったかキャンディースリーブだったっけ? 女性の服はよく知らん。
そしてヒラヒラしたハイウエストのスカートである。割と短い。
いやいやいやいやいや、待って! 待って!
おかしい! おかしいぞ!?
いやね、女になってしまった以上、普段着にスカートは仕方ないとは思うんだ。
この村の女性の服装は全員スカートだったし、異世界常識でもそれが普通。
だからまあ……前世、男として四十五年間生きてきた記憶が有る自分としては、何も思わないと言えば噓になるが……止むを得ずスカートを履く覚悟はしてたんだ。
してたんだけど……違う!
目の前にあるコレは違うんだ!
村の女性たちが履いてたスカートというか、着ていたのはダボっとしたワンピースのスカート。丈も靴がなんとか見える位で長い。
私が着るのも止む無しと覚悟してたのは、そういう足首丈のロングワンピースである。
そのつもりで『普通の服を』と注文したんだ。
なのに何故か店員がウッキウキなテンションで出してきたのが目の前のコレだ。
私が着るのを覚悟したのは、こんな女の子女の子したヒラヒラフワフワしたヤツでは断じてない!
というか、何を悩んでるんだ私は。
中身四十五歳のおっさんだぞ?
こんなの着れるか!
別の服別の服。
「あの~……もっと普通のでお願いしたいのですが」
「やっぱり地味過ぎる!? ウフフフ。ちょっと待っててね!」
ウッキウキなテンションのまま、店員は奥の棚から別の服を取り出し始めた。
……話通じたのだろうか?
ていうかなんなん? あのテンション。
……嫌な予感が止まらない。
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