第24話 ルタのダンジョン地下三階
「さて、恐怖の地下三階か……」
このダンジョンの不人気の一番の原因となっている階層である。
この階層に出て来るのは、コープスビーという蜂の魔物である。
魔石の大きさからEランクの魔物であるが、集団で襲われた場合の厄介さはCランク相当であると言われてる。二段階も上である。
ステータス的にはEランクなので強くなさそうなのだが、飛んでるのが厄介。そして基本、集団で襲ってくる。
更に、一番恐ろしいのがコープスの名が示す通り、腐食属性の針で刺してくる事。
この蜂の針に刺されると、刺された箇所から腐っていくのだ。恐ろしい。
遅効性の毒よりも腐食速度はゆっくりだが、解除薬なんてものは無く、腐食した箇所には回復薬も回復魔法も効かないそうだ。
対処は腐食された部分が浅いうちに腐食部を無理やり抉り取ってから、回復薬及び回復魔法を使う事。超痛そう。
遅れれば遅れる程、切り取らなければならない部分が深くなり、より高級な回復薬や、高度な回復魔法が必要になる。
そもそも刺された箇所次第では、切り取る事なんて不可能な場合がある。
全身をフルプレートの鎧で守れば安全に戦えるが、コープスビーは遠慮なく腐食液の針で突いて来る。
腐食液は金属にも影響する。腐食液が付着した鎧は当然腐食していき、すぐボロボロになるのだ。
腐食は人体だけでなく装備も腐らせる。所謂、装備ブレイカーでもあるわけだ。もう厄介な要素多過ぎである。
幸いにも腐食の効果は弱く、腐食速度は遅く、腐食の侵食範囲は広くない。
コープスビーのドロップは腐食針。錬金の材料の一つだそうだが、需要は少なくお値段は二束三文。この近辺において、割に合わない魔物堂々ナンバーワンだそうだ。納得である。
モノクロスパイダーは厄介だが、やり方次第では儲かる。
だがモノクロスパイダーの居る地下四階に行く為には、この厄介なだけの、コープスビーのいる地下三階を抜けなければならない。
モノクロスパイダーの居る階層にもう少し楽に辿り着ける状況であったなら、少しはこのダンジョンに人が来ていたかもしれない。
腐食の針は恐ろしいが、Dランクのモノクロスパイダーの牙が私に通じない時点で、Eランクコープスビーの針も通じない……はず。
いや……針は通らなくても、針から出る腐食液が身体を蝕んできたら……。
やはり、針攻撃を喰らわないようにしよう。
◇
「多過ぎぃぃぃぃ!」
地下三階を歩く事しばらく、すぐにコープスビーと遭遇した。
その数、七匹。多い!
――ブブブブブブブブブブブブブブブーゥン……。
コープスビーの大きさは一メートルちょっと。地下二階の蟻より小さい。
それでも巨大な蜂の集団から発生する、重低音の羽音が半端ない。
高さ、幅、共に七メートル程の通路だと飛び回るには狭いと思うのだが、壁や天井にぶつかることなく器用に飛び回っている。
ブブブブブブーゥン。
蜂が一斉に襲い掛かって来る。同時に羽音の音量が一気に大きくなる。
音もなく頭上から降って来るモノクロスパイダーも厄介だが、これはこれで羽音による威圧感が凄い。
「このこのこのっ!」
蜂を払うように棍棒を振り回す。しかし……。
「あ、当たらない!?」
ステータス的に私の攻撃は、かなりの速度のはずなのだが当たらない。
厳密には掠すめる程度ではあるが、いくらかは命中して二匹は倒している。
針を喰らいたくなくて、へっぴり腰なのもあるだろうが……これまでの相手と違って空中というのは想像以上に攻撃を当てにくい。
今までの敵は基本的に地面に居て、高さが一定だったが、空中だと前後左右だけでなく高さの概念が出て来る。
いや……高さだけでなく前後左右の動きも読みにくい。
私に比べてそこまで早い訳では無いのに……まるで羽毛を相手に素振りしてるようだ。
壁際に追い詰められる。
というか壁を背にする為だ。
……いい訳では無いよ。背後からも攻められたらとても凌ぎきれない。
……しかし実際壁を背にすると、結構こっちの動きも制限されるなぁ。やっぱり追い詰められてると言う方が正しいのかもしれない。
一匹の蜂が、ホバリング状態から、スッと私の左手に回り込んで来る。
しかしその場所なら更に壁方向には避けられまい!
イメージはバトミントンのスマッシュ。
腰は入ってないが速度重視の一撃。
喰らえ!
――バキャッ!
「あ」
蜂を撃ち抜き、見事に蜂を粉砕。
そのまま壁に棍棒をぶつけて、見事に棍棒も粉砕。
「あああああああああ!」
やばい! 武器が、武器が壊れたあああ!
当然、蜂は待ってくれない。
慌てて棍棒を振り回すが、長さは半分以下になってる。
二匹の蜂に取りつかれる。
「あぁ~! このっ!」
左腕に取りつかれた蜂は、顎でガジガジされたまま壁に叩き付ける。
右脇腹に取りついた蜂は、無理やり引き剥がして壁に叩き付ける。
「……ふぅ」
苦戦しながらも七匹全て倒しきった。
……なんか、このダンジョンの魔物の半分くらいは壁を武器にして倒してる気がする。
――ってそれどころじゃない。腐食液を取り除かないと!
結局、いくらか刺されてしまった。
いや、やはり私に針は通らなかったのだが、針の先に付いた腐食液は身体に付着してしまったのだ。
背負い袋からタオル代わりに買っておいた布切れを取り出し、腐食液と思われる物を拭う。
腐食液を拭った布が黒ずんでいく。怖!
「これは……私には効いてない?」
腐食液が付着した箇所は、服がグズグズに黒ずんで穴が開いてしまっている。
だが、その下の私の肌は綺麗なままだ。
「よ、良かったー!」
いや、なんとなく大丈夫だろうとは思ってはいたけど、確信は持てなかったからね。
いざという時の回復薬の用意無しに、試したくは無かった。
そもそも、悪魔の私は回復薬によってまともに回復するのかという疑問はあるが……。
……今となってはそっちの方が試すのが怖いな。
ともかく、少なくともEランク程度の魔物の噛付きや腐食液なら無効化出来る、という結果は、私の心に余裕を与えてくれる。
「――って武器が無いじゃん!」
心に余裕が無くなる。
お、おお、おおお落ち着け。
わ、わわわ私には壁という武器が…………自分で言ってて虚しいな……。
ま、まあ、私に魔物の攻撃は一切通じないんだ。
何を恐れることがあるというのか。
いや、私の身体は確かに牙も針も通じないが、硬くて感触が無い……という訳では無い。
むしろ高いPERによるものなのか、感触は凄く鋭くなっているのだ。
普通に素手で蟲に触りたくはない。
でも武器を壊してしまったのは、もうどうしようもないのだけどね。トホホ。
というかあの棍棒、頑丈な素材で出来てるんじゃなかったのか?
……多少頑丈な木材程度では、今の私の力を受け入れきれないのか?
そう思うのは自意識過剰……かな?
まだこの世界の強さの基準が、自分の強さがどれくらいか、分からないんだ。
ただ、少なくともDランクの魔物であるモノクロスパイダーの攻撃が私に通じないのだ。弱くは無いと思うが。
「……武器も無くなったし、早く帰りたい」
落ちていた魔石を拾い、探索を再開する。
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