第23話 蜘蛛の階層

「はー! ふうっ! はあぁぁぁ……」


 上から奇襲して来たモノクロスパイダーを倒した。

 考え事してる最中に上から来るなってのよ!


 ……いや、ここは危険なダンジョンだ。戦場だ。

 戦場で考え事なんかしていた私が悪いな。

 ゴブリンの時もそうだったけど、魔物が辺りに潜んでると分かってる場所で考え事してて、魔物の接近に気が回っていない。

 PERのお陰で鋭い感覚を持っている私だが、意識しなければ意味は無い。

 この頑丈な体でなかったら、もう何回死んでる事か……。


 ――っと、また考え込んでる。

 少なくとも、階段までは集中だ。

 索敵と探索に集中、集中。


 今回の蜘蛛は魔石のみで、糸玉ドロップは無し。

 そう簡単に儲からないようだ。


 上からの奇襲を受けない様に、しきりに天井を確認しながら進む。

 進んだ先でモノクロスパイダーを発見。

 今度は地面に居る。

 天井や付近に別のモノクロスパイダーが居ない事を確認。

 ダッシュしてモノクロスパイダーに迫る。

 モノクロスパイダーは白い網状の糸を打ち出してくる。

 それを棍棒で振り払う。

 吐き出された糸を避けると、横にヒッソリと貼ってある黒い蜘蛛の巣に捕らわれるだろう。なるほど厄介だわ。

 だけど黒い糸が見える私には通用しない!


「ちねー!」


 地面に居るモノクロスパイダーに、棍棒を上から思いっきり叩き付ける。


 ――バギャっ!


「――っあ! あああああああああ!!!」


 蜘蛛は一撃でペシャンコ。

 そして……棍棒を叩き割ってしまった。


「……力入れ過ぎたぁ……」


 武器が、武器が無くなってしまった。

 ど、どど、どうしようどうしようどうしよう。

 おおおおおおお落ち着け。

 そ、そうだそうだ、予備の武器持ってたわ。

 というか、腰に差してたよ。予備の棍棒。

 腰に武器を差したまま、武器が無いと慌ててる。酷い絵面だ。

 慌て過ぎだよ、私。

 戦場で武器を失うと、こんなにも焦るものなんだな。

 ……私だけ?


 予備の棍棒を握りしめて、ようやく気持ちが落ち着く。

 やはり武器の有るのと無いのとでは精神的に全然違うな。

 いや、何を当たり前の事を……って感じだけど、ホント強烈に実感したというかね。

 

「ふう……お、今回は黒い糸玉か」


 魔石と糸玉を拾い、先へと進む。


 

「うーん、そろそろ上に行く階段見つからないかな」


 あれから探索する事、体感二時間以上。

 そろそろ集中力の限界である。

 体力的には問題は無いけど、ずっと警戒し続けるのは精神的にきつい。

 下に降りる階段は見つけたんだけどね……今思えば、その階段で一休みしておくべきだったなぁ。

 まだ余裕があっても、休める時に休んでおく。『まだいける』は危険。

 そんな感じの言葉を、よくラノベとかでも見た事がある。

 それを読んで「まあ当然だよね」と、分かってたつもりだったけど……結局これも、分かってたつもりで本当に分かってなかったって事か。

 分かってるつもりで、実際にはよく分かってなかった……前世でもよくありました。私が駄目人間である理由の一つである。

 ……はぁ……まあ、今後は気を付けよう。

 そして気を付けよう、と言いながらまた考え事しながら戦場を歩く私である。

 集中力切れてるなぁ。

 とは言っても、余裕が出てきているのもあるのだ。

 あれからモノクロスパイダーを二十匹以上、倒している。

 T字路で挟み撃ちを受けて、一匹に噛まれてしまったが、モノクロスパイダーの毒牙は私の皮膚を噛み破れなかったのだ。

 それが分かってしまった今、警戒レベルが大幅に下がってしまったのも仕方あるまい。

 途中でレベルが一つ上がったのもある。

 まあ、噛まれても平気とはいえ、巨大蜘蛛に組み付かれるのは気持ち悪いので、なるべく奇襲されないようにはしている。

 ただ、二十匹以上も倒してくると、巨大蜘蛛にも見慣れてきた。

 慣れとは恐ろしい。


 それから更に十匹以上のモノクロスパイダーを倒した頃、ようやく上に上がる階段を見つけた。

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