第22話 ルタのダンジョン地下四階

 壁を左手に探索していく。

 とりあえず壁沿いに全部移動していけば、いつか階段が見つかるだろう。

 ここはあまり広いダンジョンではないしね。


 進むことしばらく……。

 

「うげぇ、あれってもしかして……」


 視線の先には通路を一部塞ぐように張られた白い蜘蛛の巣。

 このダンジョンに出現するDランクの魔物、モノクロスパイダーの巣と思われる。

 モノクロスパイダーは厄介な魔物が多い、と言われるこのダンジョンの魔物の中でも、一際厄介な魔物との事だ。

 漆黒の闇の中、灯りに良く反射する白い糸と闇に紛れる黒い糸の二種類の糸を駆使して獲物を拘束し、猛毒の牙で仕留める。

 ドロップ品の糸は良い値段が付くが、Dランクの割に厄介過ぎて割に合わないと認識されているそうだ。

 

 ……更に、問題なのは……。


「モノクロスパイダーって地下四階の魔物じゃん!」


 そう、ギルド情報によると、モノクロスパイダーは地下四階の魔物なのだ。

 つまり今、私は地下四階に居ることになる。

 地下二階から落とし罠で落ちた先は、地下三階ではなく地下四階だった訳か……マジかぁ。


 うーん、まずいなぁ。

 確かギルド情報では、巣を焼き払う為の火魔法か火の魔道具、解毒薬の準備無しに挑むのは無謀……だったかな? 

 当然、そんな準備は無い。

 特に毒が怖い。

 

 ……いや、なんとなく私には毒は効かない可能性はあると思っている。

 確か転生する時の白い空間で確認したVITの項目に『肉体的状態異常耐性』があったはずだ。VIT含めた身体能力全振りの私なら、毒も無効化出来る可能性は高いと思うのだ。

 ……とは思うのだが、それでもやはり万が一を考えると怖い。

 ワザと毒を喰らって試すにしても、解毒剤を用意してからにしたい。

 まあ、今は上に戻ることが優先だ。


「それに……見えるな」


 悪魔の特性なのか、私は光源が無くても暗闇が見通せる。

 そのお陰か、白い蜘蛛の巣を避けて通るであろう場所に、黒い蜘蛛の巣が見えた。なるほど、厄介だ。

 ククク……しかし、私には通用しな……。


 ――バサッ!


「ぎぱぁ!」


 突如、頭に何かがかぶさり、視界が塞がる。

 振り払おうとするとネバネバする。

 そして更に頭に何かがのしかかる。


「ぬなー!」


 頭に張り付いた何かを振り払う為、頭から壁に突っ込む。

 

 ――グシャッ


 痛くは無いが気持ちの悪い感触が頭に伝わる。

 二度三度と頭に取りついた何か……おそらく蜘蛛だろうと思われる物体に壁攻撃を追加する。

 ……何気に昨日から壁をそれなりに武器にしてる気がしなくもない。

 しばらくすると視界を塞いでいた糸束が消える。

 どうやら頭に組み付いて来たモノクロスパイダーを倒せたようだ。

 倒した魔物がダンジョンに吸収される際、その魔物が吐き出した糸なんかも吸収されて無くなるのはありがたい仕様だ。


 上を見上げる。

 他のモノクロスパイダーは居ないようだ。

 ホント、上からいきなりは勘弁して欲しい。

 蜘蛛なら巣に獲物が掛かるのを待ってろよ。

 ……いや、魔物の蜘蛛と普通の蜘蛛とを一緒に考えては駄目か。

 ここの蜘蛛は虫が獲物ではなく、人間が獲物だろうしね。


 モノクロスパイダーが吸収された跡に、直径四センチ程の魔石と何かの白い球体が落ちていた。


「お、おお! これって糸玉だ!」


 やった!

 魔石以外で初めてまともなお金になるドロップ品だ。


 モノクロスパイダーの糸玉は白と黒の二種類があり、碌なドロップが無いと言われるこのダンジョンにおいて、数少ない高く売れる品らしい。

 それならこのドロップ目当てに、冒険者は来ないのかと思うが、そうならないのには理由がある。

 この地下四階は、松明の火で巣を焼きながら進む事によって、簡単に戦闘を避けて進めてしまうのだ。モノクロスパイダーは糸の拘束と毒が厄介なのだが、火には弱い。蜘蛛の巣も火で簡単に焼き払える。そして、火に弱いからこそ、火の気を感じればすぐ逃げてしまうらしい。

 更に糸が火に弱いからか、火でモノクロスパイダーを倒すと、なんと一切糸玉をドロップしないらしい。

 つまり、糸玉目当てに倒そうとするなら、火を使わないように戦わなくてはならない。

 火を使わずに戦うにはとても厄介。厄介な戦闘を避けるのはとても簡単、松明だけでOK。わざわざ厄介な戦いをする人は少ないという事だね。

 実際、モノクロスパイダーは魔石の大きさからDランクの魔物だが、その厄介さからCランク相当とされている魔物らしい。ドロップも確実では無いし、割に合わないとされている。

 まあ、それでもドロップ品は高く売れるので、やり方を工夫して狩ろうとする人も、ある一定数は居そうではあるが……このダンジョンでは、ほぼそんな人は居ない。それにはもう一つ理由があるのだ。


 ……とりあえず、今は上に上がらないとな。


 さて、私は松明なんて用意してない。

 生活魔法の「着火」は使えるけど、これは火を出す魔法ではなく、文字通り着火させるだけだから、燃やすものが無いとどうにもならない。棍棒を燃やすわけにはいかないしね。

 つまり、この階層を抜けるまでは強制戦闘という事だ。ガックシ。

 まあ、地下四階に来ることなんて、想定してなかったからなぁ……仕方がない。

 

 蜘蛛は気持ち悪いが、お金は稼げる。

 ……と、なんとか無理やりモチベーションをあげて進む。

 進んだ先に蜘蛛の巣、そして今度は巣の真ん中に体長一メートルを越える蜘蛛。


「うひぃい」


 巨大な昆虫というのは不気味だ。

 大きな複眼とか、ウネウネ動く触角なんかがハッキリと見えてしまう。

 その中でも蜘蛛は別格である。小さい蜘蛛でも気色悪いのだ。巨大な蟻も気持ち悪かったが、巨大な蜘蛛は更にやばい。

 蟻は真っ黒だったが、この蜘蛛のお腹には、まるで髑髏の様な模様が見える。

 毒を持ってますよと言わんばかりの毒々しさ、禍々しさだ。

 更に蟻には無かった体毛なのか……大量の毛がお腹周りでなく、八本の足にも生えてて……。


 ――バサッ!


「ぎぱぁああああ!」

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