第19話 アゲアゲからのストン

「むう」


 蟻が枯れた。

 出現する蟻を片っ端から殴り倒してきたのだけど、どうにも蟻の気配が無くなってしまった。

 この世界のダンジョンの仕組みとして、完全に魔物が枯れる事は無く、ある程度の時間毎に魔物が湧き出るらしい。だけど供給量以上に倒し過ぎてしまったようだ。

 レベルもあれから百匹以上倒したと思われるが上がっていない。

 こういう所はゲーム同様、レベルが上がる度に上がり難くなるんだろう。


「蟻さん出てこーい……お?」


 巨大な蟻の巣といった様子の洞窟の中、蟻を探して歩いていると不自然に人工的な外観の小部屋があった。

 入り口はどう見ても人工的に作られたとしか見えない四角い石造りになっている。

 中を覗いてみると、石造りの部屋。そして下へ降りる階段が見える。


「地下二階への階段か」


 うーん。行っちゃう?

 行っちゃいますか?

 地下一階の蟻は楽勝だし、レベルも上がり難くなってるしなぁ。

 よし。行っちゃえ!


 階段を下りる。

 改めてダンジョンという存在は、ゲームをやったり転生系のラノベを読んでいた私にとっても不思議である。

 ここは洞窟型ダンジョン。

 確かに中は洞窟の様だが、入り口や階段に関しては人工的なのだ。

 基本的にこの人工的な場所には魔物が入り込んでくる事が無いので安全地帯となっている。前世の感覚で言えば訳が分からないけど、この世界ではそういうものらしい。例外としてスタンピードと呼ばれる魔物の氾濫が発生した場合、安全地帯を越えて魔物が出て来るらしい。


 地下二階に降りて来た。

 同じく石造りの小部屋から出れば、やはり洞窟の様な造りで地下一階と見た目に変化は感じられない。やや広くなったくらいか?

 確か、地下二階は上位種の蟻が出て来るんだっけかな?


 しばらく進むと一匹の蟻と遭遇。

 地下一階の蟻に比べて体の大きさが倍の二メートル程はありそうだ。

 蟻と向き合う間は僅か。蟻は真っすぐ噛み付いて来た。地下一階の蟻と比べて獰猛で攻撃的な感じだ。

 流石にかなり大きいのでプレッシャーが違う。

 でも動きは地下一階の蟻と同じく単調だ。

 それに体長二メートル程の巨大蟻と言っても顎は短く、棍棒の方が射程は長い。


「てりゃっ!」


 蟻の頭を叩き付ける。

 もう棍棒の射程は把握してる。

 一匹で真っすぐ突っ込んでくるだけなら、不器用な私でも外しはしない。


 ――グチャ!


 流石に一階の蟻と比べて質量がある為か手応えが……あんまり変わらないな。大きい音がしたが。

 頭の潰れた蟻はすぐに動かなくなり、ダンジョンに吸収され沈み込んで行った。

 この階層の蟻も一撃だ。

 まだ一匹だけではあるが……これならこの階層でも十分やれそうだな。

 蟻が吸収された床に魔石が残る。


「お、ちょっと大きいかな? これがFランクの魔石かな?」


 Gランクの魔石より少し大きい魔石。Fランクの魔石は青銅貨三枚とGランクの三倍。日本円感覚だと三百円である。


 ――ズザザザザ。


「お、来た来た」


 蟻がわらわらと集まって来る。この階層の蟻も一匹倒せば他の蟻が集まって来る習性に変わりはない様だ。

 初回は慎重に撤退……はしない!

 いくら鈍い私でも、もう分かっている。

 私は賢くはないが、無自覚という訳では無い。

 前世の私とは比べものにならない……いや、前世の人間の常識を超えた身体能力が……今世の私にはあるのだ。


「――ってゆーか、もっとレベル上げるんだぁっーーー!」


 再び雄叫びをあげて蟻をなぎ倒していく。

 蟻が倍の大きさになったとしても、今の私にとっては一撃。

 むしろ的が大きくて戦いやすい。

 

 ――ギチギギ……。


「おっとぉ?」


 捌ききれなくて腕や足に噛み付かれるが、ダメージ無し。この階層の巨大蟻の顎でも私に傷は付けれないようだ。


「――このっ!」


 足に噛み付いた蟻は噛み付かれたまま壁に蹴り付け、腕に噛み付いた蟻はその蟻の身体を武器にして他の蟻に叩き付ける。

 

【レベルが上がりました】


「ひゃーーーーーーっはーーーーーーー!」


 レベルアップもお金稼ぎも加速だぁ!


 それから、巨大蟻を追い回し続け、洞窟を進んでいると……。


「――! あれってもしかして!?」


 進んだ先は行き止まり。

 ただ、その行き止まりの壁際に見慣れない物が見える。

 箱状の物がポツンと置いてある。


「もしかして宝箱!?」


 箱状の物はどう見ても宝箱である。

 マジか! うわっ! 来てるな! 来てるよ! 今日は凄い来てる感じだ!


 宝箱――ダンジョン内部に稀に出現するという。

 法則などは不明だが以前はその場所に無かったはずなのに、ある日突然、宝箱が置かれている事があるらしい。

 毎度、全くもって不思議な事この上ないが、ダンジョンとはそういうもの。


 宝箱に駆け寄る。

 そしてサクッと宝箱を開ける。




 開けてしまった。




 ――カコン!

 

「――わああぁぁぁぁ!」


 気が付いた時には、落下を始めていた。


 落とし罠だった。

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