第17話 初めてのレベルアップ
転生して四日目。
今日もルタの村のダンジョンに来ている。
昨晩、アレコレ悩んだが、結局このダンジョンで戦う事を選んだ。
やはり、人型のゴブリンは無理だ。怖くて武器を向けられない。何時かは何とかしなければならないが、今は置いておく。
虫ならとりあえず攻撃出来る。なんだかんだで昨日何匹か倒せたしね。攻撃出来なければ、そもそも勝負にすらならないのだ。
それにしても、相手を攻撃出来るかどうか……そんな事で悩むとは思わなかった。
日本で暮らしてると、リアルに自らが武器を振るって戦う事なんて、全く意識しなかったからなぁ。
ゲームとリアルはマジ違います。
それに紫の血を流している所を誰かに見られてしまう危険を考えると、人気が無く暗いダンジョンは都合が良い。
手には昨日買った棍棒。野球バットみたいな取り回しの利く小さいタイプと、両手持ちで私の身長位ある長い棍棒だ。
武器が金属製ではないというのは、なんとも不安だ。
だが、今日は何としても一日の宿代程度は稼がなければならない。
一泊の宿代に必要な金額を魔石代で稼ぐには、昨日のGランクの蟻を四十匹倒す必要がある。
……多い。多すぎる。
昨日、あれだけうじゃうじゃ居たのだから獲物の数が足りないという事は無さそうだけど、数の暴力に私が耐えられるのか不安……物理的にも精神的にも。
不安だらけだが、僅かながら希望もある。
悪魔という種族特性なのか、身体能力全振りのおかげなのか、或いはその両方なのか、とにかく私の身体は頑丈だ。
なにしろ私の身体は鉄製ナイフでも傷が付けれない。
昨日、蟻に噛まれても、怖くて気持ち悪かったが痛くは無かった。
蟻を引き剥がす為に、洞窟の壁に腕ごと叩きつけた時の自傷はあったが、蟻によって傷は付けられてはいないのだ。
そもそも一昨日、気が動転してて意識していなかったが、ゴブリンの木の棒によるダッシュジャンピングフルスイングを頭に喰らっても、ガスガス殴られ続けてもダメージなんて無かった。
更には、例え怪我をしてしまったとしても、私には謎の再生能力があるのだ。
……うん?
こう考えてみると……いや、どう考えみても、僅かどころか絶大かつ決定的な希望じゃね? ぶっちゃけ無敵じゃないか。
ま、まあ、これぐらいの希望が無ければ、また戦う気なんて起きなかったと思う。
「はぁ……後が無いし、やるしかないんだ。行くか」
棍棒を握りしめ、ダンジョンへ入る。
「はっ!」
ゴルフみたいなスイングで蟻を弾き飛ばす。ゴルフをやった事は無いけど。
蟻は洞窟の天井に激突し、体液を撒き散らしながら粉々になる。
蟻の骸が透明になりながら床に沈み込む。ダンジョンに吸収され、跡には小さく赤黒い石。魔石だ。
「よし、魔石ゲット! 撤退!」
魔石を拾い入り口に向かって走る。
どうも蟻の体液に、仲間を引き寄せる成分でもあるのか、もしくは蟻同士で仲間が倒された事が分かるスキルでも持っているのか、一匹倒すと他の蟻がぞろぞろとやってくるようなのだ。
なので蟻が集う前にその場から離れる。
しばらくすれば蟻達は解散するので、再び進み、なるべく少数の蟻を探す。これを繰り返している。
因みに、たまに蟻の甲殻をドロップするのだが、これは嵩張る上に二束三文。放置してる。
「うーん、順調?」
時計が無いから正確では無いのだが、体感一時間程で魔石を五個手に入れた。
このペースだと今日一日中頑張れば、最低ラインの魔石四十個位は稼げそうだ。
逆に言えばこのペースだと、それ位までしか稼げないという事でもある。
「ふむん」
手にした棍棒を見る。
今まで棍棒を使ってみた感じ悪くない……いや、むしろ非常に良い。正直棍棒舐めてましたよ。
ショートソードに比べて長くて大きい。長いから遠くから攻撃出来る。振るだけだから不器用な私でも簡単。先端が大きくなっていて打撃面が広いから当てやすい。
蟻如き、まともに当たれば一撃。当たり所次第で倒せない場合もあるけど、とりあえずは遠くへ吹っ飛ぶ。
織田信長が戦いの素人である雑兵には長槍で敵を叩かせていたって聞いた事があるけど、要するにそれと同じだと思う。
長くて扱い易いっていうのは、それだけで強力な武器なんだね。
そもそも何故、私はショートソードを初心者用の武器だと思ってしまっていたのだろうか。
まあ、ゲームの印象なんだろうけど。
金属製とはいえ、細くて短い。そんな武器で、こちらを攻撃しようと動く相手の柔らかい箇所を狙って刃を立てて斬る?
難しいわ!
出来るか!
少なくとも不器用な私には無理だ。
それに棍棒なら刃こぼれしないしね。
まあ、実際は棍棒がそこまで凄いわけでも、ショートソードが全然駄目って訳ではないと思う。
棍棒は叩くしか出来ないけど、剣は斬ったり突いたり出来るからね。
要するに使いこなせるかどうかだ。私には剣は使いこなせない。
ともかく、扱い易い武器への変更により、昨日より戦えてるのだ。
「もうちょっと挑戦してもいいかな?」
まだ初心者なのに、こういう考えは危険かもしれない、とも思う。
だが……私の身体の丈夫さも考慮すれば、やはり現状のやり方は慎重過ぎる気がする。
蟻集団と戦ってみますかね。
「はっ!」
その後、見つけた一匹の蟻を吹っ飛ばし、壁に叩きつける。潰れた蟻の身体がダンジョンに吸収され、残された魔石を拾う。
そしてザザザザという音が聞こえてくる。蟻の集団だ。
今回は撤退せずに迎え撃つ……のだが。
「うひぃ」
犬くらいの大きさの蟻の集団がウゾウゾとこちらに迫ってくるのはやはり怖い。
視覚的にやばい。
「ほっ! ほっ! はっ!」
棍棒で手前の蟻から次々と弾いていく。
やはり昨日の短いショートソードに比べて今日はやり易い。
「同じ手は喰らわないぞっ! っと」
天井を這って来る蟻も叩き落す。これも長い棍棒のおかげだ。ショートソードだったら届かなかった。
そして全ての蟻を倒し終えた時だった。
【レベルが上がりました】
――!?
その頭に響いたアナウンスと同時に、身体の奥から力が溢れ全身に行き渡った。
明らかに身体能力が上がった事が、感覚的に分かる。
力が湧き出る。
「……レベルアップ?」
いや……知ってた。
知ってはいたんだ。異世界常識でこの世界にはゲームの様に、レベルという概念があると。
だけど転生してから、ゲームの様でゲームではない現実に打ちのめされ続けて、その事をすっかり失念していた。
そして今、実際にレベルアップする事で、ようやく実感出来た。
レベルが上がる事。レベルが上がれば強くなる事を。
「……そうか……レベルが……上がるんだ」
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