第15話 血の色と謎の再生浄化能力
日が傾き始めた頃、村に戻って来た。
色々、ショックな事があって、長時間考え込んでしまったようだ。
やはり一番ショックだったのは、私の血の色が紫だったという事だ。
この世界の一般の人達の血の色は紫……なんてことはない。普通に赤である。それは異世界常識で分かっている。
自分が悪魔だという事を忘れていた訳では無いが、そこまで気にしなくても普通の人族で通せそうだ……と思い始めてたところに、この事実だ。
かなりショック。そしてかなりヤバイ。
うっかり人前で転んで出血した所を人に見られたら大事になるぞ。
……まあ、鉄製ナイフでも傷つかない私が、転んだ程度で出血するとは思えないが……それでも、なんともいえない恐怖と不安と困惑で頭が一杯だ。
他にも私の身体について分かったことがある。
どうやらこの身体には再生能力があるらしい。
傷つけた親指はすぐに出血が止まり、しばらくしてすぐに噛んだ傷跡も綺麗に消えた。出血したはずの腕が、傷一つなく綺麗だったのも再生したからだろう。
更に、親指に付着してた血もしばらくすると綺麗に消えた。身体に付いていた虫の体液も。それからもう少し時間が掛かったが、服に付いた汚れも綺麗に消えたのだ。
もう訳が分からない。
当然、異世界常識から考えても有り得ない。
原因は……悪魔の種族特性なのかもしれない。
しかし、あの白い世界で、悪魔の種族説明には再生能力なんて無かった。時間が無くて、厳密に覚えている訳では無いが、再生能力なんて重要そうなのを見逃すことは無いと思う。
他には、活性という身体特性を獲得した。これが原因かもしれない。しかし、活性も回復は早くはなるが、再生能力の表記は無かったはずだ。
自動洗浄能力については猶更不明だ。
無理に結論付けるなら、再生能力に付随した効果なのかもしれない。
傷が再生する際、身体に汚れが付いてるとそれを取り込んでしまうから、汚れを取り除く浄化能力がセットで付いてるとか?
身体に触れている服にもそれが影響したとか?
因みに服は汚れが消えて綺麗にはなるが、流石に破れた箇所が再生する事は無かった。破れた所は破れたままである。
紫の血が流れ、傷付いてもすぐに再生する。
正に人外の化け物だ。
「……だからと言って、ここでいつまで悩んでてもどうにもならないか」
そう思って、重い足取りで村に戻って来たのだ。
それに血の事は大きな心配事だけど、現状どうしようもない。
今はそれよりお金の問題の方が緊急性が高い。なにより武器が壊れてしまった。
魔石換金ついでにギルドに相談してみるか。
ギルドに入り、受付にいた男性の職員に話かける。
「すみません。これを修理出来る所、ないでしょうか?」
歪んで鞘に入らなくなってしまった、ボロボロのショートソードを見せる。
職員はそれを手に取り、しばらく眺めた後、言った。
「俺は鍛冶に詳しい訳では無いが、昔は冒険者で武器の手入れはしていた。その俺から見て……これはもう明らかに修理不可能だ。出来たとしても新しく買ったほうが安いだろうな」
うわぁ……やっぱり……いや、そんな気はしてたけど……。
でも、この剣は銀貨五枚したんだ……。
もう壊してしまったなんて……。
「嬢ちゃんよ。刃を立てて斬るって事を知らないのか? これを見てると、刃の有る所無い所関係なく、斬る箇所も考えず叩きつけてたんだろ?」
全くもって、その通りでございます。
「剣を只の鉄の棒として使う位なら、棍棒を使ったほうがマシだぜ。この村なら良質で丈夫な木材が豊富だからな。」
棍棒か……。
前世にあったゲームに、棍棒やヒノキの棒装備からスタートする勇者パーティなんてのもあったなぁ。
「あ、ありがとうございます。武器は棍棒でやってみます。それと魔石の買取をお願いしたいのですが」
蟻の魔石を一つ、カウンターの上に置く。この魔石一つが今回の唯一の戦利品だ。
職員は魔石の大きさを確認する。
「Gランクだな。一つ青銅貨一枚だな。」
ぐっはぁ。
安い。パン一個分だ。
銅貨四枚の宿代に遠く及ばない。あれだけ怖くて悍ましい思いをしたのに。
しかも銀貨五枚もしたショートソードを、今回の一回だけで壊してしまった。
改めて物凄くショックだ。
そして物凄くヤバイ。
雑貨屋でショートソードを鉄屑として引き取って貰い、丈夫な木材で出来てるという、大きさの違う棍棒を二つ買って宿屋に戻った。
正直、予備を買う余裕なんて無いのだが、それでも予備の武器を持たないなんてあり得ないと、雑貨屋の店員さんに怒られた。すぐに武器を壊すようなら猶更だと。
夕食を終えて部屋に戻る。
「うあー……」
そのままベッドに倒れこむ。
棍棒は思ったより安かったけど、それでも二本で銀貨三枚以上。
残金はほぼ無くなった。本格的にもう後が無い。
前世で給料明細を見ている時、各種の保険料で引かれる金額の多さに溜息をついた事があった。これが無ければな……と思った事があった。
だけどこの世界にはそういった保険は無い。
今はそれがとても恐ろしい。
失業保険も生活保護も無いのだ。
このままお金が尽きれば……安宿を追い出され路上生活……もしくは借金奴隷となって……折檻が原因で出血して……血が紫とバレて……その後は……。
ジクジクと不安で胸が締め付けられる。
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