第13話 ゴブリンに敗北(二度目)
「ふぅ」
コップに生活魔法で水を出し、それを飲む。
あれから手頃な大きさの岩に座って一息。大分落ち着いてきた。
ゴブリン……小柄だけど口の裂けた異形の人型が、ガチでこちらを殺しに来る。
実際にリアルで遭遇したら、怖過ぎるんだけど!
猛烈に村に逃げ帰りたくなる。
「……でもなぁ……」
やはりゴブリンから逃げていたら、この先未来が無い。これは乗り越えなきゃいけない壁だ。
私に生活、生産系のスキルは無いんだ……いや、生活系以外にもスキルは一つも無いんだけどね。
改めて今後どうするか考えてみても、結局、出て来る結論は一緒だ。
優れているはずの身体能力を活かして戦うしかないのだ。
「よし、今度は大丈夫! ……多分」
気合を入れて、再び森の中に分け入っていく。
今度は最初からショートソードを抜刀してる。ゴブリンいつでも来いである。来なくていいけど。
目的地は先程の沼である。
やはり水場に薬草がある可能性が高いだろうし、一度あるかどうか確認しておきたい。怖いけど。
ゴブリンがまだ居れば……今度は叩き斬ってやる! きっと。
先程は心構えが全く出来ていなかった。だが今度は覚悟を決めてるから大丈夫だ。多分。
「うわぁ……この臭いは……」
水の匂いと一緒に何かの異臭を嗅ぎ分ける。さっきと同じ臭いだから、これがゴブリンの臭いのようだ。
まだ居たのかよ。居なくていいのに。
……いや、これはチャンスだ。
こちらが相手より先に、相手の存在に気が付いてる有利な状況だ。
今度はこちらから奇襲してやる。
逃げちゃ駄目なんだ。
なるべく音を立てないよう近づいていく。
茂みから沼の方に目を向けると……居るよ……さっきのゴブリンだ。
沼の中に手を入れて何かやってる。
魚か虫でも採っているのかもしれない。下を向いてるし、今がチャンスかな?
心臓が高鳴る。
……覚悟を決めろ。
さっき決めたじゃないか……戦うって。
大きく息を吸う。
「グギャ?」
「グギョ?」
「グギィ?」
「おん?」
目の前に三匹のゴブリンが現れた。
「わひゃぁぁあああああ!」
「ギィ!?」
「グゲ!?」
「ギョギョ!?」
「グエッヒョー!」
私、超驚愕だが、ゴブリン達も凄く驚いている。お互いに接近に気が付かなかったようだ。
だが、ゴブリン達はすぐに邪悪な笑みを浮かべ、私を取り囲んできた。
「ちょっ、ま、まま、まって、まって、マジか!?」
遭遇した三匹に、狙ってた最初の一匹もすぐ合流してきて、合計四匹のゴブリンに囲まれた。
やばいやばいやばいやばいやばい。
「く、来るな! あっちいけー!」
ワタワタと後ずさりしながらショートソードを振りまわす。
――ガスッ。
後ろも見ず、後ずさりしながら振り回したショートソードが、後方の木に当たって食い込む。
「ああああああ」
ショートソードを引き抜く……その隙に、距離を取って様子を見てたゴブリン二匹に飛びつかれ組み付かれた。
「ふぃぃいいいい!」
「グギャギャ!」
「グギャッギャ!」
がむしゃらに暴れて二匹を引き剥がす。
他の二匹も、私の暴れっぷりに距離を取ったようだ。
引き剥がしたゴブリン二匹は倒れてる。
「この!」
近い方のゴブリンに狙いをつけ、ショートソードを振り上げる。
――!
ゴブリンと目が合った。
白く濁っていても、恐怖と驚愕が目に浮かんでいるのを感じる。
「……あ」
動きが止まってしまった。
「グギャア!」
「ギギィ!」
そして距離を取ってた二匹のゴブリンから攻撃される。
ガンガンガンと棍棒と木の棒で殴られる。
「ふぃぃぃいいいい!」
目を瞑って手を振り回す。
走る。逃げる。逃げる。
「……追って……来てないな」
森の中の開けた場所でようやく周りを見る。
ゴブリン達が追ってきてない事を確認し、大きく息を吐き、その場に座り込む。
「……はぁ~~」
……駄目だ。
……全然……駄目だった。
さっきとはまた別の意味で、この世界がゲームっぽい世界だけど、現実であることを思い知らされた。
ゴブリンも驚き、笑い、恐怖する。
なんというか……ゴブリンが人に見えてしまったのだ。
人に殺されるのは怖いが、人を殺すのも怖い。人に武器を叩きつけるなんて事が怖い。
ラノベに出て来る、転生主人公達って凄いな……。初めてであっても、ゴブリンなんてあっさり殲滅するか、苦戦したとしても戦ってる。戦いになってる。
私はそれ以前だ。そもそも戦いになってない。
いや、他の転生者が凄いというより、私がヘタレ過ぎるだけか……。
ふいに、狼の遠吠えが遠くで聞こえた。
「――! ……ここは?」
辺りを見ると、森の深いところまで来てしまっていたようだ。
木の合間の空を見てみると、日が傾き始めている。
風で草木がざわめく。その音がとても不気味に感じる。
周りの木々が私を圧迫してくるように感じる。
……森が、森の中が、とても恐ろしい空間に思えて来た。
最悪の場合、森の中でサバイバル?
なんて愚かで浅はかな考えだったんだろう。
森は……人の住む場所では無い。
怖くなって村へと走った。
村に戻って宿屋の部屋に入り、ベッドに座り込む。
「はぁ……」
流石に、自分を攻撃してくる相手に対して、無抵抗なままで何も出来ずにいる程、私は愚かではないと思っていた。
だけど実際そういう場面になってみたら……この様だ。
今日の収入は無し。このままじゃマズイ。
どうしよう……明日も薬草採取に挑戦してみる?
……駄目だ。
無理。
怖い。
ゴブリンも森の中も。
……どうしよう。
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