第4話 キャラメイキング2

「皆! 聞いてくれ!」


 誰かの声が聞こえ、そちらに顔を向ける。

 声の主は精悍で頼りがいのありそうな、三十手前くらいの男性だ。

 彼は周囲の人達が自分に注目しているのを確認すると語り始めた。


「いきなり異世界に転生しろと言われて、まだ混乱してる人や、死んだなんて受け入れられない人も居るだろうが、今はそういった事を議論する時間は無い。時間切れで消滅したくはないから転生する前提で話す。俺が言いたいのは皆で協力しないかという話だ」


 ふむ……協力か。


「特殊技能という項目の中に人や魔物や物を鑑定する能力、異次元空間に物を自由に収納取り出し出来る能力、魔物や人や物の場所を把握できる能力がある。これは便利で強力な能力だが、要求される転生ポイントが多くて一人で全部の取得は不可能だ。そこで鑑定を担当する人、インベントリで荷物管理する人、マップで索敵を担当する人、といったようにそれぞれを仲間内で能力を共有したい」


 とてもいい考えだ。

 まあ、誰でも思い付く、当然と言えば当然の考えではあるのだけど、この突然の非常識な状況の中で、見ず知らずの人達を纏めようとリーダシップを取れる事が凄いと思う。


「転生場所を同じにすれば、一緒にスタート出来るとの事だ。賛同する者同士で協力しよう」


 彼の提案に周囲の人達が賛同の声をあげる。


「賛成だ。儂はインベントリ担当でいいかの? もう歳だが土木工事の仕事やっとったからか、木工やら彫金といったスキルが最初から有る。インベントリを活かして新しい世界で物作りをやってみたい」

「あ、では私も! 料理スキルとか火適性があります! 鑑定を取れば食材とかも鑑定出来そうですし、鑑定と料理担当なんかで参加させて下さい」

「私は警官で剣術、体術、狙撃の適性やスキルがある。特殊技能を取るより戦闘系を伸ばして、仲間の護衛みたいな形で参加させてもらえるか?」

「良いですね。警官の方が護衛だと頼りになりそう。魔物が居る世界らしいですから、そういう人も必要ですよね。私は薬剤師で……」


 ……。


 周囲で建設的な会話が交わされる中、私は何も発言出来ずにいた。

 私にはこれが出来る――と言えるモノが無い。

 というか……他の人達、初期で適性やスキルをそれなりに持ってるぽい?

 私、VIT+1だけなんだけど。

 

「あの……参加したいのですけど。私に何が出来るか……適性は結構有るみたいなんですが」


 おとなしそうな少女が発言する。

 え? 適性、結構有るの?

 最初に発言した男……リーダーとなってる人と少女が話す。

 

「他人の画面も見る事が出来るみたいだね。見せてもらっていいかな?」

「はい、どうぞ」

「お、凄い。これって魔法使いになるにはピッタリなんじゃないかな」

「あの……それと種族をエルフにしたいんですけど良いですか? 美形で長命らしいので」

「エルフは魔法向けみたいだし良いと思うよ。他に自分の役割に困ってる人はステータス画面を見せ合って相談するのも良いね」


 その会話のやり取りに、何かチクチクと胸が痛いような感覚を覚えた。

 なんか嫌な感じが……。

 周りの人達が互いのステータス画面を見せ合いながら、あーだこーだと相談し始める。

 ……うーん。自分のステータスって簡単に他人に見せるものなのだろうか?

 いや、鑑定を取る人と共に行動するなら隠し通せないし、能力共有前提の協力関係なのだから隠す意味は無いよな。


 自分の役割に困ってたので、リーダーの人と役割相談の流れでお互いのステータス画面を見せ合う。

 そしてリーダーの初期能力に目を見張る。


 STR+1 VIT+1 INT+1

 体術適性 槍適性 棒適性 斧適性 土適性 付与適性 鍛冶適性 骨加工適性 土木適性

 体術1 料理1 投擲3……  


 ……は?

 ……え?

 最初からこのステータス?

 TP振り分けた後だよね? ……いや……TP28ある……。

 ――はぁああ!? 初期TPにも差が有るのかよ!


 自分のステータスを見たリーダーは何とも言えない顔で「鑑定や無限インベントリは持ってるだけで役に立つから……」とだけ言った。

 その後、他の何人かともステータス画面の相互確認をしたが、リーダー程では無くとも、誰もがそれなりに初期能力を持っていた。

 全員のを見たわけではないが、私の初期VIT+1だけなのと初期TP20というのは明らかに少ない。


「あのおっさん、マジ無能」


 ふと、どこからかそう聞こえた。

 ……小さいけど、確かに聞こえてしまった。

 誰が言ったかは分からないが、私に向けられた発言なのは間違いないだろう。


【残り十分です】

 

「残り時間十分か。急がないと」

「なあ、協力する事には賛成だけど人数が多すぎないか?」

「同感だけど時間が無いし取り急ぎステータスを決めよう。転生先を同じ場所にしておいて、一緒に行動するかどうかや、組み分けなんかは、転生した後で話し合えばいい」

「そうだな」


 話を続ける集団からそっと離れる。

 建設的な会話をしているようだけど、私には関係のない事ように聞こえる。

 いや、実際関係ないか。

 私はもう……あの中に戻れない。


 フラフラと彼等から離れる様に重い足を動かす。


 ……なんというか……もう……なんというか……。


 少なからずワクワクしながら適性やスキルの事を考えていた自分が、凄く惨めで滑稽に思えてきた。

 いや、彼らの会話からなんとなく予感出来てたし、自分の無能さは自覚していたつもりだったけどさ。

 それでも……ハッキリとステータス画面上のデータで無能っぷりを示されると、人より劣る事を数字で示されると、改めて精神的にズシンと来るものがある。


 周りを見ると協力体制集団とは別に数人のグループや二人組も居た。

 一人の人も何人か居る。

 やはり他人に自分のステータスを見られたくなかったり、一人でやりたい人もそれなりに居るようだ。もしかしたらまだ死んだ事を受け入れられていない人も居るのかもしれない。

 ……まあ、私と同じ理由で一人で居る人は他に居ないだろうけどね。


 集団から少し離れた場所に座り込んで画面を眺める。


「……時間がない。早くステータス決めないと……」


 そう呟くも手が進まない。


「……あぁ~」


 溜息が出る。

 溜息しか出ない。

 確かに……例えば、無限インベントリさえ取得すれば、荷物持ちとしてそれなりに集団の中で貢献出来そうだとは思う。

 だが、それだけの存在。

 ただの荷物持ち。

 それ以外何も出来ない無能な存在。

 そんな存在として集団の中に居るのは、おそらく辛いことになる。


『インベントリだけの無能が……』


 そんな風に陰口を叩かれる未来が見えてしまう。

 いや、基本的人権が尊重される日本と同じとは思えない異世界では、もっと悲惨な状況になるかもしれない。

 ネガティブすぎるかもしれないが、自分の今までの惨めな人生がそう思わせる。

 転生しても同じような人生なのか……。

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