第6話
市民の避難が
ともかくその件は、屋敷に帰ってからテヌートに相談する事にして、今は陛下との
国が不安定な今、
それは、国王や聖女である自分が一番良く分かっている。
国王が会議等を
左右の兵士に配目すると、彼らはそれぞれ両側の扉を押し開いた。
芽依はそのまま中に入り、玉座に座る国王の正面に、少し長めの距離をとって立つ。
膝を軽く曲げ、礼をとる。
「ーーーーわざわざお越し頂き、感謝致します」
「いえ。お呼び頂いたのに遅くなってしまい、申し訳ありません」
「市場で異変があったと報告がありました。
「豊潤祭も近い。我々
今日、国王と祭司が二人で話し合った事を、芽依に次々に言い
「宝珠は元々、隣国から
「…………宝珠を
「芽依も大変な時だとは
「市場の事は、私や巫女達で対応する故、
話を聞きながら、考えを
芽依は一度ゆっくり瞼を閉じ、それから、同じくらいの時間をかけてゆっくりと開く。
そこには、聖女としての顔をした彼女がいた。
「お願い出来ますか」
国王もまた、国を背負った威厳のある表情を浮かべている。
芽依はそんな彼をしっかりと見据え、一つ頷いた。
「……ーーーーはい」
広間を出て、城の廊下を歩く。
隣国まで馬車で五日半。三日は滞在すると考えると、最低でも
「…………大丈夫かな、私……」
思わず本音が漏れる。はぁとため息が自然と
次の瞬間、
「!わっ」
「芽依!あー……良かった、まだ居た」
「裕祇斗?どうしたの?びっくりした……」
「わり。さっき兵士から芽依が城に来てるって聞いたから、もしかしたらまだ居るかもと思って急いでた」
そう言って裕祇斗は、約二週間ぶりに会う婚約者を見つめる。
そうしてふわりと微笑む。
「……ーーーー良かった、会えて」
「ーーーー」
芽依は驚いた表情のまま固まる。
久しぶりに。
……本当に久しぶりなその声に、芽依は安心感を覚え、次の瞬間には体の力を
「…………うん」
芽依もつられて微笑む。
「…………怪我、もう大丈夫なの?」
「あぁ、うん。ちょっと痛むくらいだから、大丈夫だ。
「杙梛さん……?」
裕祇斗はあの日、芽依の屋敷で獣に襲われた時、杙梛に助けられた事を話した。
裕祇斗は初め、獣の声しか聞こえず、姿を
それに対し杙梛は、屋敷に駆けつけた当初から獣の姿が
「え…………そうなの?」
芽依の声に驚きが混じる。
杙梛には死神や獣など、人ならざる者の姿は視えないと思い込んでいた。
あの時、聖宮で芽依の側に駆け寄った杙梛は、『こんな危険な所に芽依様お一人を残して行くなど』と言っていた。
あれは、死神のトキとリーフィアの姿は視えておらず、原因不明に爆発した聖堂に芽依だけが
…………のだがしかし。
そもそも、トキと杙梛に
トキは基本、芽依と二人の時しか姿を
もし、トキに昨日まで会った事がなく、上空で戦う二人の死神の姿が視えていたのだのすれば、正体不明の二人が爆発を起こしたと考えたはずだし、芽依はそれに巻き込まれている、と考えたのではないだろうか。
つまり、姿が視えていてもトキを知らなければ『芽依様お一人で』という言葉に
聖宮にいる神官も人外のものを視れる者はいるし、芽依の弟である
「……そういえば、何で芽依、王城に呼ばれたんだ?」
「あぁ、
すると、俺も一緒に行くよ、と当然のように口にする彼に、芽依は静かに首を横に振った。
「裕祇斗には、三津流の
隣国との
「……お前の護衛は誰が付くんだよ。門番連れて行くのか?」
「あ……、それは」
「ーーーー芽依様」
芽依が口を開きかけた時、杙梛が現れた。
「お話し中申し訳ありません」
「いえ、大丈夫です。どうかなさいましたか」
「……国王陛下からお聞きしました。急ぎの旅ですので、馬車をご用意します。お屋敷に荷物を取りに行かれるのであれば、そちらに向かわせますが」
「そうですね……。一度屋敷には戻るので、そうして頂けますか」
「
杙梛は二人に一礼して
芽依は裕祇斗に向き直った。
「私の事は心配しないで。行きは
「……もう一人?」
「うん。私の屋敷の新しい護衛?みたいな?」
「………」
「だから、テヌートは連れて行かないけど、大丈夫」
「………………分かった」
裕祇斗はそっと、芽依の手を取り、軽く握る。
「…………一緒に行けなくて、ごめん」
真剣なその
「……ーーーー私は、大丈夫。……ありがとう、裕祇斗」
芽依は、その手をきゅっと握り返す。
本当なら、側に居て欲しい。
けれど、芽依には芽依の。裕祇斗には裕祇斗の、やるべき事があるから。
少女は、握った手をゆっくりと離す。
「……ーーーー行ってきます」
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