第4話
朝のお
そこには具合が悪く顔色が優れない人々が数人、壁に体を寄りかからせていた。
芽依はその中の一人の
「……ーーーーどうなさいました」
青ざめた顔で芽依を見上げるのは、中性的な顔をした若い女性だった。
腕の中には、まだ一、二歳程度の男の子が眠っている。
「…………あぁ……聖女様……」
女性は芽依の顔を見て、安心したような
療養所で民の
聖女の治癒とは一般的な病気や怪我を治すものではない。
ここでの治癒とは、
芽依は女性を安心させるように頷いた。すると、彼女の瞳が震え、涙が目の
「…………聖女様。どうか、この子をお助け下さい」
女性の
「ーーーー……」
極々小さな声で
目を開けると、男の子の顔は赤みを取り戻し、女性も
「あ、ありがとうございます」
礼を述べる女性に微笑みかけ、芽依は彼女にも同じように手を包む。
「貴女も」
治癒が終わり、すっきりとした顔の女性はもう一度芽依に礼を述べると、事情を説明し始めた。
「…………昨日の夜、急に子供が頭が痛いと泣きながら倒れてしまって……。朝起きたら、私もひどい
聞けば、似たような症状で倒れた民が、この場に集まっているらしい。
しかも全員、市場に家がある人ばかりだった。
「…………昨日の夜は、とても冷えていて……。今日も、まるで雪でも降るのかと感じるくらいの寒さでした」
「寒い……?」
芽依は、不思議そうに女性の言葉を繰り返した。表情には出さないながらも、内心は数々の疑問が浮かぶ。
第一、今は夏だ。最近はよく晴れていたし、夜なら多少の
寒さの原因が分からなければ、
何にせよ、今日は城に呼ばれているので、その前に一度市場に行ってみるしかない。
芽依は女性に、暫くここで休んでいくよう言い残し、立ち上がる。近くにいる巫女に出掛ける
「あ、芽依様!」
「……貴方は……」
「
竜樹の視線に
確か、朝に枢の部屋の前で会った時は、まだ顔色は良かったはず。
竜樹の手を借りて兵士を座らせ、壁に背中を寄りかからせる。
「…………これは……どういう……」
現在、枢の体は
「…………もう一人いた兵士も動けない状態です。それと、部屋の扉が開いていて、枢殿が……」
聞きながら、芽依はすうっと体が冷たくなっていくのを感じた。竜樹も、一度言葉を
「………………枢殿が、部屋から居なくなっていました」
「っ……」
枢はまだ意識がないはず。自分の意思で起き上がる事は不可能に近い。
可能性があるとすれば、誰かに連れ去られたか、あるいは……。
「…………俺の隊はこれから、枢殿の捜索に入ります。芽依様は……」
「ーーーー私も、お連れ下さい」
「え……ですが」
「昨晩から市場で原因不明の穢れが発生しています。もしかしたら、ですが、それと関係があるかもしれません」
芽依の言葉に竜樹は難しい顔をして、
芽依を危険に
「………………分かりました。お願いします。俺、隊長の所に許可をもらいに行くので、芽依様はこの場で少しの間お待ち下さい」
芽依は頷き、走り去る竜樹の後ろ姿を見送る。竜樹は三年前、まだ十四歳ながら、近衛騎士団の三番隊隊長に任命された若き実力者だ。隊長は単に剣術が優れている者がなれる
近衛騎士団は現在、上から順に団長、副団長、一番隊から三番隊の三人の隊長、計五人のトップが存在する。
その隊長に選ばれ、部下にも信頼されている。
トキが居るから不安はないが、竜樹がついてきてくれるのは、ありがたいし心強い。
芽依は今度こそ出掛ける旨を伝える為、立ち上がって巫女に声をかけたーーーー。
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