第2話
ぴたん、ぴたんと天井から水滴が落ちる音だけが
宝珠はヒビが入ってしまい、使用出来る状態ではなく、
ぴたん、ともう一度水滴が落ちる音を聞いて、少女はゆっくりと瞼を上げた。
静かに立ち上がり、水から出る。それを確認して数名の巫女が近付く。着替えを手伝う彼女達の顔を一通り見た後、少女は口を開いた。
「…………公務の前に、
「かしこまりました」
枢は死神の女によって
強すぎる力を使えば、我が身を滅ぼす事となる。宝珠は本来、聖女にしか扱えない。それを無理矢理巫女が使用すれば、体に異常が現れるのは当然の
目がいつ覚めるかも分からない状態だ。穢れを祓い、いつも通り起き上がれるようになるには、まだまだかかるだろう。
用の済んだ巫女達が各自に一礼して下がる。少女も彼女達の後に続いて部屋の外に出ると、扉の横で静かに佇む女性が声をかけてきた。
「
落ち着いた雰囲気と
彼女は何度か王の伝言を伝えに来た事があり、顔に覚えがあった。
「突然お声をお掛けして申し訳ございません」
「……どうかなさいましたか」
「陛下が、豊潤祭の件で芽依様にお話があると
通常、祭りや行事については王と祭司の意見で決定する。
聖女は国の象徴のようなもの。
祭司の決めた事に従い、己の意見は口にしない。いつも穏やかに
だが当代の王は、自ら聖女である芽依に願い出る。芽依が拒否すればきっと受け入れるだろう。それが、特に芽依には
「分かりました。公務が終わり次第、急ぎ参ります」
芽依が
芽依は目礼のみ返すと、その場を後にし、枢のもとへと足を向けた。
太陽が頂上の位置に達し、日差しが強くなった昼時。
流石に暑いのか、上着の
「あー……あちぃー……」
「今日は特に良い天気ですもんねー」
「子供は外で駆け回るもんなんだけどな。三津流がいるからサボれもしねぇ……」
「三津流様は外に出るとすぐに病気を
テヌートの
新参者であるがゆえ、テヌートにも緊張した態度で接していたが、最近になって
「…………あ」
「ん?」
突然何かに気付き、雅弥が声を上げる。その方向を向いたテヌートは、その人物を視界に
「
「おはようございます。お二方ともお疲れ様です」
「お疲れ様です」
元気良く杙那に応じる雅弥に対し、テヌートは無言のまま。杙那はそんな彼の態度を気にした風もなく、本題を切り出した。
「裕祇斗様から
「……えぇ、もちろーーーー」
「ーーーーダメだ」
「……え?テヌートさん?」
横から突然言葉を
「手紙は俺が預かる」
「……ーーーー」
きょとんとした表情の杙那から手紙を抜き取ると、まだこちらを見つめる彼を見返した。
「…………まだ何か?」
「…………え……と。もし返事を書かれるようなら受け取っていかなければと」
「裕祇斗に伝えておけ。返事が欲しいなら、代理に頼まず自分で屋敷に来い、と」
「…………王子はお忙しいですので」
「三津流にはそんなの関係ないだろ。俺は、……お前を屋敷に入れるつもりはない」
テヌートは杙那を見て、目を
「テヌートさんっ。それは
「………………」
「あぁ、良いんですよ。では、私はそろそろ失礼致します。……三津流様に、お体にお気をつけ下さいとお伝え下さい。今は特に、風が冷たいですから」
「……ーーーー」
杙那はそのまま
……あっちは、
今は夏。日差しが暑く、風すら生暖かい。冷たさなど
市から流れてくる風が、異常にーーーー冷たい。
「………………」
「…………テヌートさん?」
「あ?」
「いや、あんなに
「……いや…………別に。そういう訳じゃねーよ」
「え!?あれで?!」
「お前……」
半眼になって雅弥を睨むも、彼は悪びれた様子もなく謝る。テヌートはため息をついて
「……まぁ、
「あー確かに。何考えてるのか分からないとこありますよね」
雅弥は自分なりに納得したのか、笑顔で返す。テヌートは
地面を見つめ、ゆっくりと瞼を閉じる。
『…………約束、だよ……』
姫の最期の笑顔が脳裏に浮かぶ。
……分かってる。どうして姫が、あんな約束をしたのか。
分かってる……けど。いつも、考えてる事があって。でも、理解出来ない事もあって……。
過去の自分の記憶。
それに
なぜ、何故だ……と。そればかりが頭を
「…………お前は、何がしたいんだよ……」
ぼそっと独り言のように呟くテヌート。
だが、それを聞く者はなく、それ以上その話題に触れる事はなかったーーーー。
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