第7話『オッサン、ラーメンをすする』
宿屋の入口から出てきたマチルダと合流し、彼女に先導されるように無人の大通りを行く。
昼間はあれだけ賑やかだったこの場所も、この時間になると寂しいものだった。
「こっちじゃ。いつもは噴水広場の脇に店を出しておる」
「こんな時間に外を出歩いていると、幽霊に連れていかれる……ってガキの頃に言われなかったか」
「今はその幽霊が護衛についておる。大丈夫じゃろ」
ぱたぱたと駆けていくマチルダの背に向けて問うと、彼女はどこか嬉しそうに答えた。
「まぁ……もし仮にその辺の幽霊が襲ってきても、魔法でどうにでもなりそうだが」
時間帯もあるのだろうが、ひと気のなくなった通りには、各所に幽霊の姿が見受けられる。
特に襲ってくるような気配はないが、俺としてはどうも落ち着かない。
マチルダのやつは、日常的にこの光景が見えているわけか。それはそれで大変そうだな。
「あったぞ。あの店じゃ」
そんなことを考えていると、噴水広場に到着した。
そこには小さな出店があり、ランプの明かりが煌々と灯っていた。
「ラーメン……? なんだそりゃ」
看板の文字を読み、俺はマチルダに問いかける。聞いたことのない料理だった。
「最近開発された麺料理じゃ。なぜか、夜中になると無性に食べたくなる」
魔王を倒して平和になったからか、食文化も豊かになったんだな……なんて思いながら看板を見直すと、そこには『ホルトの街で50年続く伝統の味!』と書かれていた。
ちっとも最近じゃねぇ。錬金術の件もあるし、こいつの『最近』という言葉はもう信用しないようにしよう。
「店主よ、いつものを頼む。今日は二人分じゃ」
俺が頭を抱える間にも、マチルダは席に座り、慣れた調子で注文を済ませる。
そんな彼女の隣に腰を落ち着けながら、いったいどんな料理が出てくるのか、俺は一抹の不安にかられていた。
「へい、おまち!」
やがて目の前に置かれたのは、琥珀色のスープの中に黄金色の麺が浮かんだ料理だった。
麺料理というのでパスタのようなものを想像していたが、予想の斜め上を行っている。
「これ、どうやって食うんだ?」
そう声をかけるも、マチルダは早々に食事の挨拶をし、一緒に提供された二本の棒を使って料理を食べ始めていた。
俺も見よう見まねで棒を手に取り、目の前の料理を口に運ぶ。
見た目に反して、鶏の旨味が溶け出したスープは絶品で、細い麺との相性も抜群だった。
予想外のうまさに、俺はあっという間に完食してしまう。
「……どうじゃ、うまいじゃろ」
スープまで一滴残らず飲み干した俺を横目に、マチルダは得意げな顔をしている。
「確かにな……これはクセになりそうだ」
「せっかくじゃし、もう一杯食べておくか?」
「……いや、やめておこう。変な時間に食ったし、これ以上は胃もたれしそうだ」
「幽霊が胃もたれの心配か。まぁ、本来ならオッサンじゃしの」
そんな俺の様子がおかしかったのか、マチルダはからからと笑う。
お前だって、本当なら700歳超えてるだろうが……と、喉まで出かけた言葉を飲み込み、俺はコップの水を口に含んだのだった。
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