第5話『オッサン、幼女とデートする』
……その後、デートという名の観光が始まった。
「ほれ、ここが噴水広場じゃ。市民の憩いの場になっていて、露天や出店も出ておる」
マチルダに手を引かれてやってきたのは、ホルトの街の中心にある噴水広場だ。
巨大な噴水を囲むように無数の店が立ち並んでいて、人通りも多い。
活気に溢れていて、俺の記憶にあるホルトの村とは似ても似つかなかった。
「今の時代は甘味も増えておるぞ。名物を食べさせてやろう」
「ほう、甘味だと」
続くマチルダの言葉に、年甲斐もなくテンションが上がる。
こうみえて、俺は甘いものに目がないのだが、魔王軍と戦っていた時代は砂糖も貴重品で、甘味なんて滅多に食べられなかった。
「ワッフルという焼き菓子じゃ。あの店で売っておる。買ってきてやろう」
言うが早いか、マチルダは少し離れた屋台へと走っていく。
その後ろ姿を見ていると、年相応の子どもに見える。数百年の時を生きているとは、とても思えない。
『プレーンとチョコレート、期間限定のハチミツがかかったものもあるようじゃが、どれがいいかの?』
「うおっ!?」
そんな矢先、頭の中にマチルダの声が響き、俺は反射的に周囲を見渡す。
「そういえばお前、念話魔法使えたな。すっかり忘れてたぞ」
『うむ。わざわざ話を聞きに戻るより、こうして直接話しかけたほうが早いからの。して、どうする?』
「ここはハチミツだな」
『了解じゃ。待っておれ』
そこまで言って、マチルダは念話魔法を終えた。
今のは僧侶魔法の一種だが、かなり習得が難しい魔法らしい。
使われる側としては、突然頭の中に声が響いてくるものだから、心臓に悪いったらありゃしない。
「待たせたの。ほれ」
やがて戻ってきたマチルダから、ワッフルとやらを受け取る。
網目状の見た目に反して、力を入れ過ぎたら潰れてしまいそうな、ふわふわな菓子だった。
「代金払うぞ。いくらだったんだ」
「気にするでない。アルは今の時代の通貨を持っておらぬじゃろう」
「……そうだったな」
俺の手元にあるのは、いわば200年前の古銭だ。驚かれることはあっても、使えるとは思えなかった。
それがわかっていたのか、マチルダはからからと笑って、ワッフルをかじりながら歩き出した。
俺もそんな彼女を真似るようにワッフルにかじりつく。
……うまい。甘みはハチミツだけかと思っていたが、生地にもたっぷりと砂糖が使われている。加えて、このコクはバターか。
かつての希少素材のオンパレードに、昇天してしまいそうになるのを必死に堪えつつ、俺はマチルダの後を追った。
ワッフルを食べつつデートを続けていた時、とある店が目に留まった。
どうやら薬屋のようだが、その店先には見たことのない瓶がずらりと並んでいる。
「マチルダ、この瓶に入ってるのは薬なのか?」
「ああ……最近、
「薬草じゃないんだな。レンキンジュツ……200年前にはなかった技術だ」
近くにあった瓶をおもむろに持ち上げ、光に透かしてみる。中には青色の液体が入っていた。
「最近ってことは、何かをきっかけに急速に発展した技術なのか?」
「うむ。錬金術の研究が活発になったのは、ここ150年くらいかの」
「……全然最近じゃねぇ。だいぶ歴史あるな」
俺は思わず顔を引きつらせる。さすがエルフ族。人間とは時間間隔がかけ離れていた。
「わしの知り合いに錬金術にハマっているエルフがおってのー。まぁ、そのうち会わせてやろう」
マチルダは機嫌よさげに言うと、再びワッフルをかじりながら歩き出した。
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