第3話『オッサン、バトルする』
「いてっ! てめぇ、何しやがる!」
石が直撃した男は激昂し、ナイフを手に飛びかかってきた。
「待て、今のは俺じゃないぞ」
慌てて弁解するも、その攻撃は止まらない。俺はやむなく物質化の魔法を解いて、攻撃をやり過ごす。
「な、なんだ? 確かに切りつけたはずなのに……?」
「後ろのガキが透けて見えるぞ……あのオッサン、なんで半透明になってんだ」
「今の俺は幽霊みたいなもんなんだ。取り憑かれたくなければ、さっさと逃げたほうがいいぞ」
「ゆ、幽霊だ? オッサン、恐怖のあまりおかしくなっちまったのか?」
「幽霊が怖くて野盗が務まるかよ! お前ら、やっちまえ!」
脅し文句が逆鱗に触れたのか、彼らは一斉攻撃を仕掛けてくる。
反射的に身構えるも、その攻撃は俺の体を素通りしていった。
「ち、ちくしょう! どうなってやがる!?」
「手品か? それとも、まさか魔法なのか!?」
虚しく空を切るナイフを見つめながら、野盗たちは驚愕の表情を見せる。
まったく痛みは感じないが、自分が何度も切りつけられるさまは見ていて気持ちのいいものじゃない。俺は浮遊能力を使って、空に逃げることにする。
詳しいやり方なんて知らないので、ひとまず『飛べ』と念じてみた。
「おお?」
……その直後、体がふわりと宙に浮いた。
「アニキ、あいつ飛んだっすよ!?」
「てめぇ、下りてきやがれ!」
眼下からそんな声が聞こえるも、俺は気にせず空中散歩を楽しむ。考えるままに動く風船のようで、妙な感覚だった。
「くそっ……あのガキを狙え! とっ捕まえて、人質にするんだ!」
「了解っす!」
そうこうしていると、リーダーの男に指示され、野盗たちが二人がかりでマチルダに迫っていく。
……狙うだけ無駄だと思うがな。
「光の加護よ来たれ。コア・シールド」
マチルダが杖を前方に構えた直後、彼女の周囲を覆うように、無数の六角形を組み合わせた半透明の壁が形成された。
「な、何だこの壁は!」
「よ、よし! オイラのナイフで切り裂いてやるっす!」
彼らは一瞬たじろぐも、その中の一人が勇ましくもナイフを振り下ろす。硬いものがぶつかり合うような衝撃音がした。
「ひー、ナイフが折れたっす!」
「はっはっは。魔王の攻撃すら防ぐ防御障壁じゃぞ。ろくに手入れをしておらんナイフのほうが耐えられんかったようじゃの」
マチルダは半透明の壁の向こう側で、自信ありげな顔をする。
「アルよ、少し懲らしめてやるのじゃ」
「へいへい。わかりましたよ」
俺はため息まじりに言い、手のひらに火球を生み出す。
これは魔術師なら誰でも使える初級魔法だが、俺が使うとどうしても威力が高くなる。
手加減をしたところで、魔法障壁を持たない生身の人間に当たれば火傷じゃすまないし、どうしたものか。
少し考えて、俺はその火球を地面に叩きつけることにした。
「――炎よ、雷となれ! ファイアボルト!」
「うぎゃあ!?」
狙いすましたそれは野盗たちの足元に着弾し、地面をえぐりながら弾け飛ぶ。
その爆風に巻き込まれ、彼らはまとめて宙を舞った。
街道に少し穴が空いちまったが、もともと悪路だし、これくらい気にならないだろ。
「うーむ、容赦ないのー」
「これでも加減したんだがな……まぁ、命に別条はないはずだ」
「い、今の魔法……オッサン、アルバート魔術師団の人間だったのか?」
そんな会話をしながらマチルダのそばに着地した時、野盗の一人が体を必死に起こしながらそう口にした。その顔は恐怖で染まっている。
「魔術師団? 確かに俺の名前はアルバートだが、そんな組織は知らないぞ」
「と、とぼけやがって……そんじょそこらの人間が魔法を使えるはずがないだろうが……」
「アニキ、しっかりするっす!」
「に、逃げろー! 命だけはお助けー!」
そこまで話したところで、野盗たちは互いに支え合いながら、いずこへと逃げ去っていった。
連中の発言は気になったものの、今更追いかける必要もない。
無事に野盗を追い払った俺たちは、再びホルトの街に向けて歩き出した。
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