第42話 真由みたいに
朝食を終えた後は三人で適当に東京の街を見て回り、姉をドームまで送り届けた。
姉と別れてすぐに僕のスマホに守山さんから電話がかかってきて、何事かと電話に出てみると僕が脱ぎ捨てたローブを自分が勤める交番で預かっているから取りに来いとのことだった。
ついでに路上に放置されたテーブルなんかも道路使用許可の時間はまだあるが使わないなら片付けてと言われ、手分けをして僕がローブを取りに行き、大槻さんがテーブルなどを片付けることになった。
守山さんから言われた交番に着くと守山さんはすぐに僕のローブを持ってきてくれた。
「ありがとう。でもなんで僕のって気づいたの?」
「今時色んな所に防犯カメラがあるからね。拾ってきてくれた人の証言と周辺のカメラの映像を照らし合わせたらすぐに安積君だと気づいた。あんな時間に何をやってたの? あ、この書類書いてね」
「えっと、ちょっと人を追って」
「やっぱり。安積君が追ってたの川田って男でしょ。今日の朝、銃刀法違反の現行犯で逮捕された。本当だったんだね、君たちが言っていたことは」
「まあね。でも守山さんも協力してくれたって、感謝してるよ」
「だって未来ちゃん何回もお願いに来るし。なんか真由みたいだったんだもん」
守山さんは少し悲しそうな顔をして言った。もうここにはいない真由を見つめるような表情だ。僕は落とし物の受け取りに必要な書類を書く手を止めて、守山さんの話に耳を傾けた。
「ほんとに大事なことでは絶対に折れない。頑なに強い芯を持っていた。安積君はそういう真由を見たことない?」
真由は優しくて気遣いができて空気が読めて周りに合わせることができるが、流されてしまうことは少なく、芯は強いと思っていた。でも絶対とか頑なにとか、そういった表現が合うような場面には出くわしたことはなく、僕は首を横に振った。
「小学三年生のときだったかな。私と真由と茉美の三人で学校から帰っているとき、前を歩いていた一個上の男子たちがふざけて押し合ったりしていたの。そのうちの一人と私がぶつかって転んじゃって、私大泣きしちゃってさ。その男子たち逃げようとしたんだけど真由が大きな声で謝ってって言うもんだからびっくりして男子たちも立ち止まっちゃってさ。あの真由がだよ?」
「真由がそんなこと……」
「当時は男子に話しかけられただけでびっくりして私たちの後ろに隠れちゃうような真由が、年上の男子に向かって謝るまで許さないって言い放ったんだ。男子たちも俺は悪くないとか言い訳し始めたりして引っ込みがつかなくなったのか謝らなくてね。私が泣き止んでもずっと膠着状態が続いて、もう泣き止んだからいいだろって一人の男子が言ったんだけど真由も引かなくて、結局その様子に気づいた誰かが先生を連れてきてくれて事情を聴かれて、男子たちも先生に言われて渋々と全員謝ってその場は収まったんだ。そのときの真由に未来ちゃんそっくりだった。さすがいとこ、同じ血を持つだけある。あれ? いとこってどのくらい同じ血なんだっけ?」
まあいいか、と守山さんは笑った。僕も書類を再び書き始める。
「ごめんね。手、止めさせちゃって」
「いや、いいよ。今の話を聞いてもっと真由を好きになった」
僕としてはただ単に本心を言っただけだったが、守山さんはいささか違和感を覚えたようだ。
「あの、安積君。私てっきり君は真由のことを乗り越えて未来ちゃんと付き合ってるんじゃないかと思ってたんだけど、違うの?」
「僕が好きなのは、ずっと真由だけだよ。大槻さんは確かに特別な存在だけど、そういうのじゃないんだ」
「そっか。でもいいの? これからもずっとこのままで」
「うん、大丈夫。じゃあ、これ書類ね。わざわざ連絡くれてありがとう」
「うん。気をつけて」
守山さんは僕が新しく彼女を作るつもりがないことを心配しているのだろう。しかし心配は無用だ。僕はもうすぐ過去に戻って真由を救い、やり直す。この時代でやり残したことは大槻さんときちんとお別れすることくらいだ。
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