第1章 僕は未来が見える 小学生編
第2話 目覚め
僕、
「望は作文なんて書いたんだ?」
「んー、発表するまで内緒。
「えー、望が内緒なら俺も内緒!」
国語の授業で将来の夢というタイトルで作文を書き、次の時間にクラス皆の前での発表を控えている休み時間のことだ。健太はお調子者だけどいつも元気で、おとなしい僕を引っ張ってくれる、当時一番仲が良かったクラスメイトだ。作文の内容を教えてとか、内緒とか他愛もないやり取りをしていた。
「
「修一郎は勉強も運動も何でもできるからなー。あ」
「どうした? 望」
「いや、ちょっと目にゴミが入っただけ」
そう言って僕は右目をこすった。チクッと痛みがあって、それに耐えるために右目を閉じたが片目だけ器用に閉じられず両目を閉じていた。五秒ほど閉じていただろうか。
突如として僕の脳内に白い光が現れる。光は一瞬のことで、光が消えると僕の目の前には僕と話をしている健太がいた。目線を動かすことができるけれども僕自身の顔を見ることもできて、まるで夢の中にいるような、カメラで撮った映像を見ているような不思議な感覚だった。
健太はなんだかもじもじしていると思ったら急に「トイレ行ってくる!」と言って教室を飛び出した。トイレは教室を出て左に進み、曲がり角を曲がった所にある。健太は一直線に曲がり角に向かって走っていった。
健太が曲がり角に差し掛かったところで急に体格の良い上級生が飛び出した。飛び出したというよりは普通に歩いていただけなのだが、全速力で走っていた健太から見れば、飛び出してきたように見え、とてもじゃないが避けることはできなかった。
上級生に思いっきり激突した健太は跳ね返され、床に後頭部を打ち付けた。周りにいた人たちが騒ぎ出し、すぐに先生たちがたくさん集まって色々な処置をしていたが健太は一切動かなかった。心臓の鼓動が早くなるのを感じ、変な汗をかいている感覚になって、僕は怖くなって目を開けた。衝撃的な場面を見たせいか何だか息苦しい。
「健太?」
「ん? 何?」
健太がいた。普段と変わりない。歯が抜けている部分を見せながら無邪気に笑っている。さっきの映像は何だったのだろう。今、目の前に健太はいて元気に動いているのに、映像の中の健太は動かなくなっていて、何が何だかわからなかった。息を整えながら僕が考えを巡らせていると健太がもじもじし始めた。
「健太、どうした?」
「トイレ行ってくる!」
健太は教室を飛び出した。同じだ。さっき見た映像の中の健太と同じ動き、同じセリフ。嫌な予感がした僕は、健太に続いて教室を飛び出す。全速力で走り始めた健太の背中に普段はあまり出さない大声をかける。
「健太! 止まれ!」
健太は驚いたのかスピードを緩め、こちらを振り返った。そのままゆったりと曲がり角に差し掛かり、頭の中の映像で見たのと同じ上級生にぶつかった。健太は尻もちをついた。
「おっと。危ないからよそ見すんなよ」
そう言って上級生は健太に手を差し出し、健太が立ち上がるのを手伝った。健太は一言謝ったようだ。その後は何事もなかったかのように健太はトイレへ。上級生は僕らの教室を通り過ぎて行った。
その後トイレから戻ってきた健太に教室を飛び出してまで走るのを止めさせた理由を聞かれたので、頭の中で見た映像のことを話した。
「すっげー! 望、未来が見える特殊能力を持ってるんじゃないか?」
「え、そ、そうかな」
「そうだよ! きっと親友のピンチに覚醒する系の能力だったんだよ! それで俺を助けてくれたんだよな!」
「そう、なのかな」
「そうだ! 俺が将来何になってるか見てくれよ! その内容に作文書き直すからさ!」
「いや、見方分からないし、見れたとしても今からじゃ作文は間に合わないんじゃないかな」
特殊能力とか、必殺技とか、そういった類のものが出てくるアニメや特撮ものが好きな健太はかなり興奮気味だった。絶対に望は力に目覚めたんだと言って聞かなかった。
確かにあの映像を見ることがなければ健太を止めることはなかったし、そうなればきっと映像のような結末が待っていただろう。本当に僕に何か特殊な力があるかははっきりしていないけれど、あの映像のおかげで健太を助けられたと思えば、悪い気はしなかった。
そんなやり取りをしていると休み時間が終わり授業が始まるチャイムが鳴った。予定通り作文の発表会が行われ、健太の将来の夢はプロサッカー選手になることだった。地域のサッカーチームに入れるのは四年生からで健太はまともにサッカーをやったことすらないのだが、その夢は子供らしく純粋で、テレビで見たワールドカップの感動を語る健太の姿に当時の僕は心打たれたのを覚えている。
僕の夢は具体的には決まっていなくて、人の役に立つ人間になりたいといものだった。今思うと確かに素晴らしいことだけど、小学三年生としてはもうちょっと何かあっただろう。担任の
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