【Proceedings.41】騙される竜と幻惑する塩引く鼠.06

「いざ、尋常に!」

「勝負!」


 その掛け声とともに丁子晶の雰囲気が一変する。

 それまでの作り笑顔も消え、敵意をむき出しにして牙をむく。


 丁子晶は財布にお金を入れれるだけ入れてきた。

 有名百銭は財布の中身でその力が増減し、財布の中身が多ければ多いほどその力も増す。

 そして、一回振るうごとに財布の中身からお金を間引いていくという神刀だ。


 まさにマネーイズパワーな刀だ。


 ついでにだが、財布から抜かれたお金は酉水ひらりの財布へと入っていく。

 だからこそ、酉水ひらりもデュエルアソーシエイトを安請け合いするのだ。


 さらに、丁子晶は自ら攻撃をしていくタイプではなく、相手の攻撃を誘いそれにカウンターを仕掛けるのを得意とするデュエリストだ。

 それ故に無駄な攻撃をしなくてもよく、有名百銭との相性はとても良い。


「随分と恨まれていたようだけど、何かしたかな」

 と、天辰葵が笑顔で丁子晶に話かける。

「はい! でも、ただの逆恨みなので気にしないでいいですよ」

「そう」

 そう言われて、天辰葵も詮索するのをやめた。

 きっと自身にはそれを理解できないことだと天辰葵は理解したからだ。

 だが、珍しく酉水ひらりが口を開く。

「あー、晶はね、自分が一番目立ちたいタイプなんだよー。葵ちゃんが目立つから気に入らないんだよー」

 それに対して丁子晶はムッとした顔を酉水ひらりに向け、

「ひらり!」

 と、鋭くその名前を叫ぶ。

「ごめんごめん」

 と、まるで動じてない酉水ひらりはそう言って形だけでも謝る。


「なるほど。じゃあ、バニーガール衣装を着せて目立たせてあげるよ!」

 それに対して、まるで悪者のように、私欲にまみれた邪悪な笑顔を見せて天辰葵は言った。

「いや、あの、葵様…… それはある意味目立ちますが…… 色々と危険なんですよ」

 それに対して申渡月子が冷やせを流しながら、天辰葵に忠告をする。


「えー、晶、負けるとバニーになるの? おもしろいー、負けなよ! おもしろいからー」

 それを聞いた酉水ひらりは大喜びだ。

「ひらりまで! 逆に勝てば葵ちゃんは、ずっと芋ジャージだよ!」

 酉水ひらりに丁子晶はそう言って、笑みを浮かべる。

 天辰葵と言う美少女が芋ジャージに身を包む姿を思い浮かべてだ。

「それで芋ジャージなのか。ジャージフェチかとばかり思っていたけども…… たしかにジャージ着用時の尻は素晴らしいものがあるからね」

 と、天辰葵も納得する。のと同時に自分の癖を聞いてもいないのに捻じ込んできた。

 それはともかく誰よりも目立ちたい丁子晶にとって、超絶美少女である天辰葵は目の上のタンコブなのだ。

「あー、それもおもしろいー、晶、勝てー」

 酉水ひらりだけが、勝っても負けても面白そうだと無責任に両方を応援をする。




「なんでしょうか、今日のデュエルは割と穏やかですね」

 と、猫屋茜が実況をする。

「アハハ、どうだろうね。晶は勝敗にこだわるから」

 それに対して朗らかではあるが、警戒するように未来望は言う。


「まあ、私も負けるつもりはないんで、ちゃっちゃとやりますか!」

 そう言って天辰葵は踏み込む。

 神のごとき速度で。

 常人にはその動きを知覚できないほどの速度で。

 いたぶるつもりもないの天辰葵は丁子晶の持つ有名百銭を狙う。

 月下万象は有名百銭を捉え、閃光と思えるほどの一撃を確かに叩き込む。


 が、まるで手ごたえがない。

 月下万象は有名百銭をすり抜けて空を斬る。


 天辰葵が訝しんだ次の瞬間、丁子晶が居た場所とは別のところから十手にも似た有名百銭による一撃が振り下ろされる。

 それを何とか知覚できた天辰葵は神速を使い距離を取る。

 だが、わずかに反応が遅れる。


「たしかにとらえたはず……」

 天辰葵はそう言って、攻撃がかすった左手を見る。

 傷はないが確かな痛みが、重い痛みがある。

 有名百銭の威力は戌亥巧観や巳之口綾が使っていた時とは段違いだ。

 流石の葵もこれを何度も受けるのは危険だと判断せざる得ない。

「はい! 捉えられていましたね。けど無意味です。当たらなければどうということはないですよ」

 そう言って丁子晶は易々と天辰葵の神速の間合いに隙だらけで入り込んでくる。

 まるで攻撃を誘っているかのように。


「有名百銭の能力じゃない…… よね?」

「はい! これは己の中に眠る神刀の能力ですよ。卓越したデュエリストなら、己に宿る神刀の能力を一部ですが引き出せるんですよ。葵ちゃん。君の神速もそうなんでしょう?」

 丁子晶はそれを言葉にして、天辰葵自身に確認をする。

「ふーん、そうなの? そんなことは知らないけど」

 天辰葵はそう答えて、月下万象を持つ手に力を籠める。


「知らない? そんなことはないはずだよ!」

 そう言って、丁子晶は天辰葵を睨む。

「私は私になんの神刀が宿っているかも知らないし、そもそも宿っていないんじゃない?」

「デュエリストに選ばれたからには神刀は必ず宿りますよ。でも、すごいですね! 無意識で引き出していたんだ」

 恐らく天辰葵の言っていることは嘘ではない、そのことは丁子晶にも理解できる。

 それだけに丁子晶は天辰葵に嫉妬する。

 容姿もデュエリストとしての才能も、全てが自分より上なのだと。


「分身? 幻影? その類かな。でも、分かってしまえば……」

 そう言って、天辰葵は再度神速で丁子晶に向かい踏み込む。

 天辰葵の一撃は、やはり丁子晶の持つ有名百銭をすり抜ける。

 だが、本来、丁子晶がいた反対方向から有名百銭片手に襲い掛かる丁子晶を天辰葵は既に見つけることができる。

 それがわかっていれば天辰葵が反応できないはずはない。


 即座に天辰葵は切り返し、そちらの有名百銭を狙う、が、その一撃は空を斬る。

 そして、天辰葵は強い衝撃を背中に受ける。

 完全に不意を突かれた一撃。

 それでも天辰葵はどうにか神速を使い、一旦距離を取る。


 天辰葵は背中に酷い痛みを感じる。

 卯月夜子に首を斬られたときほどではないが、それでも、これがデュエルでなければ致命傷となっていたほどだ。


「これは……」

 流石の天辰葵も驚きを隠せない。

 最初の天辰葵の一撃ですり抜けた有名百銭のほうで天辰葵は背中を攻撃されたからだ。

 ただの分身や幻惑と言うわけではない。

「はい! どうしたの、葵ちゃん。いつもの笑みが消えているよ」

 そう言って丁子晶は得気に、何よりも邪悪に笑う。




━【次回議事録予告-Proceedings.42-】━━━━━━━



 竜が鼠の真実を知り、その牙を剥く。

 また一つの運命が役目を終える。

 その時、竜が下す決断とは。



━次回、騙される竜と幻惑する塩引く鼠.07━━━━━

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