旧知のカースマルツゥ 6

 翌朝、彼のスマホのアラームで目が覚めた。時刻は午前八時、ホテルのチェックアウトは午前十時なので、時間は問題ない。せいぜいあるとすれば、チェックイン時に受付から言われていた『朝食付き』のことくらいだ。なんでも、宿泊者にはサービスで朝食バイキングが利用できるらしい。終了時間は午前八時半、あと少ししか時間は残されていない。

 わたしのいたところにもそういった宿泊施設はあるにはあったが、そんなサービスなんて無かった。唯一あったものといえば、働いている奴隷に無料で石を投げられるくらいだった。が、わたしはそれが非常に気に食わなかったので、そんなサービスのあった宿泊施設はすべからずがな。向こうじゃ魔術師にこれといった罰はなかったからな、ここで例えるならば『侍』や『武士』という者たちが、それに該当するだろう。端的に言えば、『超特権付きの上流階級』だな。

 アラームがけたたましく鳴る中、彼はもぞもぞとした後にゆっくりと起き上がった。

 すぐさまアラームを止め時間を確認すると、バッとベッドから飛び降りるや否や、着替えを済ませると顔も洗わずに急いで部屋を飛び出した。

 彼にはどことなく貧乏性という面がある。例えば、スーパーでの買い物だったらば、買い物かごに入るのはほとんどが値引きされているものになる。つまり、今部屋を飛び出していったのは、そういうこと。宿泊時の『おまけ』を逃さないためだ。

 実はアラームが鳴ったのはこれで三回目。ほかの二回はどうしたかというと、わたしの安眠を阻害したので止めた。それぞれ午前七時と七時半、悪気があってやったわけじゃない、いくら今のわたしの体がとても睡眠を必要とする体に見えなくとも、わたしだって安眠くらいはしたいのだ。ほら、気持ち的に、な。

 飛び出していった彼の魔力を追い、わたしのメダルを転移させると、彼はエレベーターでレストランのある一階に降りたところだった。現在時刻は午前八時五分、まだまだ余裕はある。

 レストランに着くと彼は、受付をしていたウェイターにバイキングのチケットを手渡した。そしてウェイターに席へと案内され、諸々の説明を受けると、時刻は午前八時十分を刻んでいた。

 朝食をとるためのプレートを持ち、他の利用客に迷惑とならないようにギリギリのスピードで料理を取りに行った。

 が・・・・・・、間に合ったのは『時間』だけだった。

 朝食ではよくあるようなものは、ほとんど無くなっていたのだ。オムレツ、ウィンナー、ベーコン、スクランブルエッグ・・・・・・、日本人好みの納豆や海苔、味噌汁といったものは、軒並み姿を消していた。残っていたものといえば、つまらん野菜のサラダや海藻を用いたサラダ、小鉢に入った丸ごと一つの玉ねぎが入ったコンソメスープ・・・・・・温かければ良かったが、時間が経ってしまったのか冷め切っていた。

 彼は朝からでも肉を食べるのが好きなので、ベーコンやウィンナーを逃したことにショックを受けていた。時刻は午前八時十五分、プレートを持って立ち尽くす余裕は存在しない。

 彼は急いで白飯を茶碗によそうと、冷え切ったコンソメスープを二つ取って席へと戻った。

 食事を開始した彼に、わたしは訊ねた。「どうしてサラダを取らなかった?」すると彼はこう言った。

「俺・・・・・・トマト嫌い」

 貧乏性なくせに食べ物を選り好みするのか・・・・・・わたしは呆れてしまった。

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