旧知のカースマルツゥ 5

 しかし、だ。彼から提案された『二つ目の願い』について、少しは考えるのは魔術師のさがだろうか。

 彼が奇跡的に勝ち残ったとして、彼の願いだけでなくわたしの願いも叶えてもらえるというならば、何を叶えてもらおうか?魔人以上の強者を求めようか、更なる魔力の向上のために継がれることなく消えた古の魔術を求めようか・・・・・・ああ、考えは尽きることが無い。

 だが同時に、わたしにも疑問が生まれた。

「ところで小僧」

「なに?」

「わたしの願いを聞くのも良いが、お前は何を叶えてもらうのだ?」

 そう、わたしが気になったのは、彼自身の願いだ。ただでさえ巻き込まれた身とはいえ、彼は一体何を願うのか?力か?富か?人間ならば願うだろうと思えるものを想定したが、わたしはまだ人間への理解というものが浅いことを、このあとの彼の返答に思い知らされた。

「決まってんじゃん。”普通の生活”だよ」

 思えば当然だった。”普通の生活”・・・・・・何も知らずに拾ったメダルのせいで、その人生に”魔術師”という異物が混入したのだ。それだけに限らず、命を賭けた儀式に参加させられる。忘れていたが彼は、ただしくただ一人の『人間』なのだ。

「そう・・・・・・だな」

 わたしは言葉に悩み、素っ気ないような返事しか出来なかった。

 魔術師と人間、その違いを改めて考えよう。今は一先ず、彼自身の願いを優先するのだ。尊重し、それを支えねばならない。

 今の彼が生きるその人生は、いわば生き地獄。突如巻き込まれた不運な事故。彼にだって、人生のプランがあっただろうに。

 そういったところは、我々魔術師と似ているな。魔術師もまた、魔法を求めて生きるものだからな。

 ふむ・・・・・・そう考えると本当に優先するべきか、と悩むものでもあるな。いや、いかんいかん、忘れてはならない彼が”被害者”であることを。

 人間社会では原則、被害者が保護されるものだ。まあ、が・・・・・・うむ、彼が優先だ。わたしはそうしよう。

「んでさ」

 彼はスマホをいじりながらわたしに聞いてきた。

「なんだ?」

「シアの願いは何にすんの?」

「またそれか・・・・・・」

 うーむ、先ほどもそれを聞かれたばかりだが・・・・・・やはり、うまく考えがつかん。

「そうだな・・・・・・もし、わたしの願いを再び叶えてもらえるというならば・・・・・・」

 わたしは少しばかり考えた。取り戻した微かな記憶をたどり、ヒントを探した。ふと、記憶の中から感じ取ったものを、おもむろに答えた。

「うむ、では・・・・・・”墓”を作ってもらおうか」

「墓?誰のって、まさか・・・・・・」

「安心しろ、お前の墓なぞ求めんわ」

「は~、よかった~」

「どうせ死んだところで、誰にも看取られる事無くひっそりと孤独に死ぬのだ。墓も無く、時が経てば土に還る。記憶も残さず、永遠にな」

 そう脅しをかけてやると、彼の顔色が青くなった。そして「もういいや」と元気なく言うと、ベッドに潜り込んだ。それはもう、ホラー映画を見た後に一人で眠れなくなった子供のように、布団で全身をすっぽりと覆ってな。

 しかしなぜだろうか?なぜ・・・・・・墓を求めたのだろう・・・・・・

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