旧知のカースマルツゥ 4
「おーい、シア~?」
ふと気が付くと、彼がわたしの顔の前で右手を振っていた。
「すまん、少しばかり呆けていた」
「大丈夫かよ、急に黙りこくってさ」
「いや、お前に言われて少しばかり自分の過去を思い返していたのだ」
「記憶ねえっつったのに」
「少しだけだ。お前が水の魔術師を倒したあと、それまでなかった記憶の一部が戻ってきたのを感じたのだ。それだけじゃない、お前が闇の魔術師との少しばかりの鍛錬の後にも、同じことが起きた」
「それが今ボーっとしてた原因?」
わたしは頷いて答えた。なぜ、急に記憶が戻ってきたのか、彼の言う通り、原因は恐らくそこにある。
「わたしが思うに・・・・・・わたしの記憶は、お前に関与しているのやもしれん」
「俺に?なんで?」
「そこまでは知らん。だが、安直ではあるがそう考えるのが妥当だろう」
ふーんと、興味あるのかないのかよく分からん返事をしながら、彼はコーヒーを啜った。まあわたしのことだ、彼にそこまで関係ないのでそのような態度で問題は無いのだが、少しくらいは興味というものは無いのかと、多少は残念に思った。
コーヒーを一口飲んだ後、彼は突拍子もなく話題を振ってきた。
「そういやさ、魔人に願いを叶えてもらうのって、俺だけになるのか?」
「む?それはどうだろうか、そんな話は聞いたことが無いし、なにより今回のゴエティアは前例がないことだ。どうなるかは誰にも分からん。魔女のみぞ知る、だ。急にどうした?」
わたしがそう聞き返すと、彼は背もたれに寄り掛かって答えた。
「いやさ、俺とお前って言わばペアじゃん?ペアならさ、二人とも願いを叶えてもらえたりしないのかなー、って思ってさ」
「まぁ確かに、わたしとお前は都合上、魔女にはそのように伝えてはいる。しかし、そうなるかは何とも言えんな」
彼はまた、同じように背もたれに寄り掛かりコーヒーを一口飲むと、質問を続けた。
「仮にさ、仮にだよ?もし、お前と俺の願いを叶えてもらえるとしたらさ、お前は何を願う?」
「なんだ急に」
「いや、そういうのって気になんじゃん!」
人間はよく分からん。特に、こういった物事に関したときの男子というのは、一層理解できない。以前見たテレビ番組でそう言っていた。
「まったく・・・・・・わたしはすでに願いを叶えてもらった身、今更何を願えというのか」
「いや、
「ない。魔人はどんな願いでも叶えてくれる」
「マジかよ・・・・・・じゃあさ、死んだ人も蘇らせられるのかよ?」
「問題ない。その故人が持つ記憶、才覚、その他あらゆるものを完璧に与えたうえで、完全に再生する。戻ってきた記憶の中に、ゴエティアの魔人に関する文献にそう書いてあったことも、記憶されていた」
「すっげぇ・・・・・・ランプの魔人とか七つの玉集めたあとの龍とか以上じゃん・・・・・・」
「魔術師を幾人も葬った後に、集められた魔力によって呼び出されるのだからな。当然だ」
そう言うと彼は、手を横に振って「いやいや」と、茶化しているのか謙遜しているのか、そのような素振りをしてみせた。
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