旧知のカースマルツゥ 3

「魔人を・・・・・・殺した?」

 彼は驚いていた。魔女が召喚した魔人という特別な存在、それを殺したと聞いたのだから当然か。それがどれほどの強さを持っているかなぞ、彼なりに想像したとしても、その強大さは高いものだろう。

「そうだ。殺した。そしてその肉を食った」

「魔人を食ったぁ!?」

 記憶の欠落がみられるわたしだが、そこだけは覚えている。主に、”舌”がな。

「案外イケるものだったぞ?炎の魔術で焼き殺したのでな、肉には充分に火が通ってたからな、食あたりの心配もない。肉の脂が意外にも多くてな、舌触りはなめらかなものだった」

「そんな『で、味は?』みたいなこと聞かれたていで返すな!」

「味は悪くなかったんだ、本当だ。なんなら、お前が次の魔人を殺してしまえばいい。お前の炎の魔術でこんがりと焼き殺せばいい」

「料理感覚?!つか、そんな簡単に魔人って殺せんの?!」

「馬鹿なことを言うな、魔人とてそう簡単に殺せるものではないに決まっているだろう。いいか、魔人はな、その体は我々魔術師と同じで、魔力で出来ている。それも、召喚するために集められた魔術師六人分の魔力でな。それはそれは、強大な魔力だ。それを殺そうと言うならば、一度に他の魔術師全員を相手取るのと同じこと。並々ならぬ覚悟と、戦闘に関するセンスが求められる」

「お前・・・・・・よくそんな奴に勝てたな・・・・・・」

 たいそう偉そうに語ってみたが、やはり魔人とどう戦ったかという記憶に関しては、戻っては来なかった。再度気持ちの悪いことを言うが、”食感”に関してはなぜか覚えている。わたしは別にグルメではないのだがな。むしろ、逆だ。食事の用意が面倒な時はいつも、そこらの樹の幹に巣くう虫の幼虫を摘まんだりしていたものだ。

 そう思いふけっていた時、頭に衝撃が走った。物理的なものではなく、なんというか、スピリチアルなものと言うのか?稲妻が走るとも言うな。とにかくその感覚に襲われた。断片的に、記憶が戻ってきたのだ。

 それは、わたしがまだこの姿になる前の事。どこかは知らんが、わたしは山の中腹辺りにある村、そこから少し離れたところに自身の魔術工房兼住居を構えていた。

 そこにはよく、村の子供たちが来ていたようで、わたしはその子供たちを・・・・・・

 記憶が映像となり、フラッシュバックする。何度も何度も、頭の中で明滅を繰り返し、頭痛に見舞われた。

 わたしは・・・・・・子供たちを・・・・・・

 映像の中、一人の子供がわたしの魔術工房で遊んでいた。実験中だろうか、窓際のテーブルには魔術符が広げられていた。上には農業で使う肥料が一瓶、硫酸を小瓶で一つ、鉱石を粉末状にしたものを溶かした水が一瓶置かれていた。

 それに興味を示した子供が、その手を伸ばしたところに、映像の中のわたしは慌てて子供に向かって走り出して・・・・・・

 明滅を繰り返す映像の中で―――――爆発した。

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