旧知のカースマルツゥ 1
二人の人間がその絆を深めた同刻、それを遠方にそびえる鉄塔から眺める者がいた。
風が吹きすさぶ中、身に纏う涅色のローブには、紫色で円状の刺繍が施されている。
深く被ったフードからは時折、きらやかな青い瞳が覗いた。肌は白く、整ったその顔つきは、女性のものだった。その人物はただ、二人を静観していた。
そこに、一人の男が現れた。
「どうだ、あの人間は?」
杖をつき、その女性の隣に立った。
「あの子・・・・・・貴方が言ってたヒトの子?」
「ああ、そうだ。未来に期待できる、『可能性』だ」
「期待・・・・・・それは、貴方だけのものでしょう?」
女性の声は非常に穏やかなものだった。冬の空気のように、冷たく透き通った氷のような声。
「わしだけのものではない。いずれ、わしらにとって有益な存在となる」
「有益?どんなに貴方が取り繕っても、所詮は人間。私達のように、”友人”とは何の因果もない」
「因果が無ければ魔術師として認めない、とでも?」
女性は首を横に振った。
「違う、そうじゃないの。あの子、”友人”を知らないでしょう?なら・・・・・・」
「ならば・・・・・・なにかね?」
「分かっているくせに」
「意地の悪い爺さんですまんな。だが、お主の口から聞きたいのだよ」
感情の無いような表情の女性だったが、意地の悪い質問者に対して、むすっとしてみせた。
「はぁ・・・・・・あの子は知らない。知らないならば、私の敵にはならない」
「よい自信だ」
「酷い人ね・・・・・・」
会話を終えて満足したのか、杖の人物は魔術によりゲートを作ると、それを作って何処かへと行こうとした。そこへ、女性は声を掛けた。
「ねぇ」
「ん?なにかね?」
「あの子に・・・・・・貴方がこだわる理由は、本当にそれだけ?」
「それだけ、とは?」
「私は・・・・・・貴方が信用できない」
「これは手厳しい」
「貴方は・・・・・・いえ、貴方も、ね」
「何が言いたいのかね?」
風が一層その冷たさを増し、一陣の風となって吹いた。
風に女性のフードが捲れた。
銀色の長髪が、風になびいた。まるで、宙に浮かんだ清流のように。
「貴方もまた・・・・・・風の子と同じよ」
杖の人物はそれを聞くと、振り返ることも無くゲートを通って何処かへと消えた。
その場に残されたのは、銀髪の女性と冷たい風だけだった。
「冷酷・・・・・・やっぱり貴方はそういう人ね」
女性は再び、二人の人間の方へと視線を向けた。
「”貴方”は・・・・・・きっと違う。でも・・・・・・」
女性の周りの空気に、変化が現れた。より一層に冷たくなり、鉄塔の一部には霜が降りていた。空気が凍り付いているのだ。
「”貴方”には・・・・・・私達の”友人”は見えない・・・・・・」
そう言い残して女性も同じように、その姿を消した。
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