幕間のウイトラコチェ 11
時刻はまもなく夕刻を告げるとこだった。二人を照らす日差しも、すっかり赤く染まっている。昼間から何時間と、魔術師に関する話が続いた。
互いに納得がいっただろうか。先に動いたのはやはり、希望の方だった。
「お、もうこんな時間か。見ろよ、めっちゃ真っ赤な夕日だぜ」
「そうだな」
「いやー、にしてもさ。いきなり呼び出されて何事かと思えば、突然『魔術師』の話しなんてされてよー、驚いたわー」
「だよな。正直、信じてくれねえと思ってたし」
「信じるさ、友達だろ?つっても、何の理由にもならねえか!」
「確かになー。逆の立場だったら、『頭おかしくなった』か『変な宗教に入った』とか思っちまうもんな」
彼はそう言って笑って見せたが、希望は真剣だった。
「思わねえよ」
「なんでよ?」
「俺さ、ずっと旅ばっかしてるうちにさ、色んな人と出会ったんだわ。さっきも言ったけど、そういう不思議な話をする人もいた。そういうのを聞いてたらさ、世界にはまだ、俺達の知らないことってのに満ち溢れてるんだってなった。そしたら、お前からこの話しときた。確信したよ、”世界は広い”ってことに!」
彼は希望の話に聞き入っていた。頷きもせず、聞くに徹している。
「お前さっき俺の事、”サイコパス浪漫野郎”だっけ?そう言ったろう?自分の事だけどさ、あながち間違っちゃいねえなって思ったわ。俺はやっぱり追い求めたい!俺が思う、”浪漫”ってやつを!お前の言う魔術師たちが魔法を追い求めるなら、俺は、俺は・・・・・・」
息まいて話していた希望だったが、そこで言葉に詰まった。
「どうしたよ?」
俯いてしまった希望を心配して、彼が声を掛けた。
「いやさ、思っちゃいけねえと思ってたのに、やっぱ思っちまうんだ。その・・・・・・」
どうしても言葉に詰まるようで、希望の言いたいことを彼はよく分かっていた。
「俺が、”死ぬ”かも。ってことだろ」
そう静かに言うと、希望は黙って頷いた。
「思っちゃいけねえ、思いたくねえ!でも、でもよ、可能性があるんだ・・・・・・魔術師の戦いってのが、どれほどの規模かなんて想像できねえ。そもそも俺たちの世代は、”戦争”ってのを教科書でしか知らねえんだ!それなのに、そんな戦い、想像できるわけがねえよ・・・・・・心配とか言ってもさ、そんな言葉に意味なんてねえ。お前が言うように、その戦いで勝った魔術師がどんな願いを叶えてもらうかによっちゃあ、俺達の運命も掛かってるってなったら・・・・・・無責任だけど、お前に賭けるしかねえって・・・・・・誰も知らねえとこで独りで戦って、誰にも知られずに死ぬかもしれねえ・・・・・・お前の立場になって考えればよ、やっぱ・・・・・・
「希望・・・・・・」
希望は心境を吐露した。えにも言われぬそれは、重い泥のようになだれ込む。
だが、彼はそう思わないと決心していた。
「任せろよ」
希望に向かい、胸を張ってそう答えた。
「絶対、勝つ。勝って帰ってくるからよ!」
「進・・・・・・」
「帰ってきたらよ、またお前の旅話聞かせてくれよな」
彼の決意が籠もった言葉に、希望の俯いた表情は次第に、元の明るさを取り戻しつつあった。
「ああ・・・・・・ああ!!もちろんだとも!とびっきりの旅話を聞かせられるように、お前がいない間にいろんな世界を旅してきてやるよ!」
希望もまた、強く決心した。
互いにそれぞれの”決意”を胸にし、友情というのが深まっただろう。
「さて・・・・・・」
希望は立ち上がると、大きなリュックサックを担いだ。
「そんじゃあ、行きますかね」
「旅か?」
「もちろん!約束したばっかりだしな」
「そっか」
「お前を見送ってやろうかと思ったけど、余計なお世話だろ?それに、別れが辛くなる」
「そうだな・・・・・・最後にお前のうるさい声を聞かなくて済むわ」
「言うじゃねえかよ、こいつぅ」
そう言ってお互いに言葉の戯れをすると、希望は背を向けて歩き出した。
「そんじゃあな。ぜってー勝てよ」
背を向けたまま、手をプラプラと振った。
「ああ、ぜってー勝つよ!!」
そう言って彼は希望を見送った。希望の目には見えないだろうが、彼もまた手を振った。
彼には言ってなかったが、希望とのおしゃべりに夢中になってるうちに、希望のリュックサックの中に、とあるものを混入させておいた。
それは、彼が持っている炎の魔術の継承の証、メダルの複製だ。もちろん、それがあるからといって希望が魔術を使えるようになるわけではない。ほんの少しだけ、わたしの魔力を入れているだけだからな。ちょっとした”保険”だ。
例えばそれは・・・・・・旅路の果てに、道行く先が見えなくなった時、それを照らす”灯火”となるために・・・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます