幕間のウイトラコチェ 9

 彼は意を決して、希望にすべてを話し始めた。幼い頃に拾ったメダルのこと、高校時代の突然の魔術の発現、直近の水の魔術師との戦いのこととその顛末、そして最後に、現在の話しであるゴエティアのことを。

 希望はそれを、一言一句逃さぬように聞き入っていた。彼への信頼、信用は確かなものであるからこそだろう。友人のいないわたしでも、これこそが友情というものなのだろうと思える。

 希望への説明は、それなりに時間を使った。彼の長話を聞き終えて、希望は改めて聞いた。

「なるほどな・・・・・・子供の頃に拾ったその真っ赤なメダルが、お前を炎の魔術師にした原因で、その中にいた『シア』ってやつが、お前に魔術を教えた、と。で、ごく最近に水の魔術師ってのと戦って、ゴエティアってのに参加することになった・・・・・・」

「そういうこと。理解が早くて助かるわ」

 希望は新しい煙草を取り出して、ライターで火を点けた。話している最中に何本か吸い終えていることから、かなりのヘビースモーカーなのだろう。

「ふぅ・・・・・・なんつーかさ、お前・・・・・・すっげぇ人生歩んでんのな」

「ホント、奇想天外だわ」

 関心、希望の言葉にはその意味が見えた。しかし、希望からの返答は、意外なものだった。

「いいなぁ・・・・・・」

 その言葉を聞いた彼は驚いていた。わたしも驚いた。彼のその言葉には、明確な”憧れ”があった。

「いいなぁ、だぁ?!全ッ然、よくねえだろが!」

「いやいやいやいや、進さんよぉ。おめぇ今さ、最ッ高に”浪漫”してんだぜ?」

「浪漫だぁ?!」

「おうよ、浪漫さ!俺が旅に求めているもの、それは”浪漫”なんだ!」

「なにを思想的なことを・・・・・・」

「いいじゃん、楽しそうでさ」

「楽しくねえよ!聞いてたろ?魔術師同士で”殺し合い”なんだぞ!!」

「いやね、それはちゃーんと聞いてたよ?でもよ、魔術師にはその”旧き友”ってのがいるんだろ?そいつがいるから魔術師は”死”を恐れないってんならよ、気兼ねなくれるってことじゃん」

「てめこの・・・・・・サイコパス浪漫野郎!!」

 ・・・・・・希望とは彼と共に長い付き合いであるが、なんと言えばいいのか・・・・・・こんなに思い切れる性格だったのか・・・・・・ちょっと引いたぞ。それにしても、『サイコパス浪漫野郎』か・・・・・・異常者をひとまとめにして、その魂を魔術で錬成して生まれた合成魔獣キマイラみたいな名詞だな。

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