幕間のウイトラコチェ 6

「ななな、他にもさ、他にもなんかできんの?!」

 希望の好奇心は止まらない。目の前で人智では理解が出来ないことが起きたのだ、当然であろう。

「わかった、わかった!見せっから落ち着け!」

 希望の怒涛の要求に、彼は渋々と魔術を見せた。足元に落ちてたゴミを燃やしてみたり、水たまりの水を魚の形にして宙を泳がせたりと、とにかく希望が満足するよう徹した。

 次々と繰り広げられる神秘を目撃し、希望はすっかり魔術に魅了されていた。その口からは、感嘆の言葉しか出てこない。

「すっげぇ・・・・・・」とか、「やべぇ・・・・・・」とか。感想としてはアホ丸出しだが、言葉に秘められた感情は確かなものだった。

「あのさぁ」

 多種多様の魔術を披露していた彼だったが、やはり気になるのか、希望に問いかけた。

「お前さぁ、マジで信じてるわけ?」

「なーに言っちゃってんのさ!目の前でこんなすんげぇもの見せられて、信じねぇ奴なんていねぇっつうの!!」

「ですよねー」

「ったりめーだろー。テレビとかでめっちゃ有名になってたマジシャンなんかが、霞んで見えるぜ!いや違うな、あいつらは泥だ!お前は雲だ!!」

「雲泥の差、って言いてえのな」

「そう、それ!!」

 わたしのことを褒められているわけではないのだが、不思議とこちらも頬が緩むのを感じた。悪くない、わたしも最初は「人間如きが」と思っていたところもあるが、今となってはそれをよしと思っている。

「いやー、にしても。魔術かー、あるんだなぁ・・・・・・」

「あぁ、俺もそう思ってたわ」

「やっぱ世界ってひれえなあ!こーんなファンタジーがあるなんて、物語の中だけだと思ってたのにさ!!映画だってそうじゃん?あの超大作の魔法映画、フィクションがぶっ壊されたってぇの?映画監督と原作者がこれ見たら、ぶっ倒れらぁ!!」

「そんなオーバーな」

「マジだって!!」

 無邪気に笑いあう彼らの声は、一層声量を上げた。閑散とした住宅街の一角が、たった二人だけで賑やかになっている。

「あ!もう一つ気になってんだけどさ、いい?」

「ん?なんだよ?」

「そういうさ、魔術的なやつってなるとさ、やっぱいんの?」

「なにがよ?」

「だーかーら、『使い魔』だよ!つ・か・い・ま!!」

 使い魔ァ?そんなのいたところで、わたし達魔術師にとってメリットなんて何一つないぞ?あんなの、精々攻撃魔術の『まと』にしかならんわ。

 そう思っていると彼がこちらを見ているのに気付いた。わたしは彼の横でフワフワと浮かんで待機していたのだが、どうやら助け船が欲しいらしい。

「なんだ?」

 彼は小声で、耳打ちするかのように聞いてきた。

「シアってさ、使い魔ってことでいいの?」

 それを聞いてわたしは最初、「はっはっは、面白いことを言うなぁ小僧」と思いはしたが、それよりも怒りの感情が込み上げるのが早かった。

「貴様!!この、ガキが!!わたしが・・・・・・わたしを、『使い魔』だとォ?!」

 わたしの感情に呼応して、体を作る炎が燃え盛った。

「ごめんごめんごめん!!マジ、ごめん!!」

 横ではそのやりとりを目撃している希望が、ポカーンと口を開けていた。

「小僧・・・・・・次にわたしをそのような名で呼んでみろ、命が無いと思え・・・・・・」

 わたしの激しい怒りを目の当たりにした彼は、いつの間にか地べたに土下座していた。わたしの方も感情をなんとか抑え込んだせいか、燃え盛っていた体からは黒い煙が上がっていた。

「な、なぁ進?」

「な、なに?」

 すっかり置いてけぼりだった希望が、恐る恐る聞いてきた。

「さっきから・・・・・・何やってんの?」

「へ?」

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