幕間のウイトラコチェ 5

 楽しい昼食を終えた二人は、店を後にして少し歩いた。

 店の裏に回り、そのまま通りを直進すると、寂れた小さな公園がある。そこには遊具が一つもなく、子供はおろか散歩する老人ですらも立ち寄らない。

 二人はそこにあるベンチに腰掛けた。希望は背負ったリュックサックを地べたに置き、煙草を一本取りだすと、口にくわえたまま彼にファミレスでのことを訪ねた。

「んで、さっきの話しって何だったのさ?」

「あー・・・・・・やっぱそれだよなー」

 あんなに決意しておいてこれか。やはりどこかに不安要素を抱いているのだろう。

 そんな彼を気遣ってか、先に切り出したのは希望だった。

「言えよー!」

 まるで仲の良い学生のように、肘で彼の脇腹を小突き催促した。

「わかった、わかったって!」

 やっと聞けると思ったのか、希望は無邪気な笑顔を浮かべていた。

 彼は一度、深く深呼吸してから話し出した。

「あのさ、ひかないで聞いてほしんだけどさ」

「んー?」

「マジで、マジでひくなよ?」

「なに?会社の金、横領したとか?」

「んなわけあるか!!」

 希望のジョークに二人は笑った。希望のそういったところは、学生時代から彼の魅力の一つでもある。

「はっはっは、わりぃわりぃ。で、マジでなんだよ?言ってみ?」

「はー・・・・・・頼むぜ、ホント」

 ひとしきり笑ってから、ようやく彼は話し出した。

「あのさ・・・・・・お前って『魔術』の存在って信じるか?」

「魔術ゥ?魔術ってあれか、魔法とかそんなんか?」

 一瞬イラッときた。だが、わたしが希望の前に現れたところで、何の意味もないことを知っているので、一先ずは水に流した。

「あー・・・・・・魔法と魔術は別もんな?怒るやついるから・・・・・・」

 ほぅ、わたしの代わりに代弁してくれるか?よい成長だ、十点やろう。

「ふーん・・・・・・で、その魔術がなんだってのよ?」

 いよいよ話は本題に入った。

「えーっと、なんつったらいいんだろ・・・・・・」

 頭をかきながら、なんとか言葉を探る彼だったが、そんなに都合のいい言葉などありはしないので、シンプルに答えた。

「俺さ・・・・・・その魔術が使えるんだ。要は、『魔術師』ってやつなんだ」

 それを聞いた希望の答えは何だったか、言わなくとも分かるだろう。

 答えは”沈黙”だった。笑いもせず、驚きもせず、ただの沈黙。

 その静寂は時を忘れさせた。体感三十分、現実時間一分未満。

「マジで?」

 疑いを抱いた神妙な面持ちは、漫画のようで面白かった。まあ、誰も笑ってなかったが。

「マジ」

「え、ってことはさ、いや、それがマジならさ、え、なに?魔術、え?は?」

 表情は七変化していた。いやはや、コメディアンが向いているぞ、希望。

「魔術・・・・・・魔術・・・・・・。ちな、それ今見してくれたりする感じだったりする?」

「いいよ、丁度いいし。動くなよ」

「え?動くなって・・・・・・」

 彼は希望がくわえている煙草に手をかざし、魔力を集中させた。極々少量の魔力を煙草の先端に集めると、たちまち火がついた。

 煙草の先端をより目で見つめ、希望は驚嘆していた。

「わーお・・・・・・手品とかじゃねえんだよな?だって今の今まで、煙草お前に見せてねえもんな?」

「うん」

 数度、希望は煙草の煙を味わうと、奇妙にも含み笑いし始めた。

「マジかぁ~、マジなのかぁ~!」

「の、希望?」

 おもむろに希望は彼の両肩に手を置いた。

「すっげぇじゃん、お前!!」

「は?」

 面白い人間だとは思っていたが、こうも簡単に信じるとはな。いい友人じゃないか。

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